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平日は都会で働き、週末は田舎でのんびり過ごす「二地域居住」がもたらす
豊かさとは?

二地域居住とは2つの住まいを行き来するデュアルライフのこと。
例えば、仕事をする平日は都会の家で、週末は田舎の家で過ごす…といった過ごし方です。
別荘暮らしとの違いは「通年通い、その地域と一定の関係を持つ」こと。
つまり、暮らしの拠点をもうひとつ持つということです。

住まいを完全に移す移住とは異なる二地域居住の魅力とはどんなものでしょうか。
「東京」と「千葉県南房総市」の住まいを15年間行き来し、
二地域居住に関する著書も執筆している建築ライターの馬場未織さんにお聞きしました。

Profile

馬場 未織(ばば みおり)さん

日本女子大学卒業、1998年同大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターへ。プライベートでは2007年より家族で「平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。2011年にNPO法人南房総リパブリック設立。

「豊かな自然に囲まれて子育てをしたい」
「仕事の疲れをデトックスしたい」それぞれのきっかけとは

新型コロナウイルス感染症の影響によって私たちの働き方、住まい方の価値観が変化しています。在宅時間が増えたことで広い家を求める方が増え、都市部から離れた郊外での暮らしが注目されるようになりました。二地域居住にもある変化が見られるといいます。

馬場さん:「以前の二地域居住は、平日は都会、週末は田舎と完全に切り分けられたものでした。しかし、テレワークの普及によって平日に田舎で仕事をするという選択肢も生まれ、二地域居住の心理的ハードルが低くなっていると感じます。二地域居住のオンライン説明会の参加者も増え、実際、南房総エリアのとある自治体ではホームページ閲覧数が1.5倍に増え、土地価格も上がっています」

二地域居住を始めた方の理由はさまざまです。馬場さんの場合は現在大学生になる息子さんの子育てがきっかけでした。小さい頃から虫や魚、動物が大好きだった息子さんが、のびのびと好奇心を満たせるような環境を求めて、小学校入学直前に南房総にもうひとつの住まいを構えました。馬場さん自身は都会で生まれ育ち、生き物を追いかけて過ごす子ども時代はなかったといいます。

馬場さん:「私のように子育てをきっかけとする方は増えていると感じます。今の子どもは小さい頃からインターネットやゲームが身近にあり、情報が多いわりに実体験は減り、そのことに危機感を持つ親が少なくありません。不登校になり学校という居場所をなくした子どものために、二地域居住を選択する方もいます。

わが家では、自然に触れながら育つと、子どもが自発的に生き物や土地、気候などに興味を持って探求するようになり、それが自然科学の勉強や社会問題への関心にもつながっていく様子を見てきました。あわせてサバイバル感覚や主体性も、この生活によって養われているのではと感じています」

他にも、「仕事や人間関係の疲れを週末にデトックスしたい」「震災を経験して流通に頼った都市の脆さを感じ、田舎にも拠点を構えて安心を手に入れたい」という方もいるそうです。

日が暮れるまで野良仕事にいそしむ。体を動かして脳を休息

ほぼ毎週末を南房総の家で過ごしているという馬場さん。金曜の夜に都内の自宅を出発して1時間半かけて南房総の家へ。日曜の夜に南房総を出るまで太陽のリズムとともに暮らす生活を送っています。平日に集中して仕事を終わらせて「南房総ではパソコンを開かない」と決めてメリハリをつけているそうです。

馬場さん:「週末田舎暮らしと聞くと、温泉に入ってきれいな景色を眺めてぼんやりするのをイメージするかもしれませんが、私のように草刈りや畑仕事で体を動かして過ごす方も意外と多いです。“休みなのにわざわざ疲れることをするなんて”と思うかもしれませんが、都市生活とは違う種類の忙しさを楽しむことが心身の休息につながる“アクティブレスト”の効果を実感しています」

子育てを機に二地域居住を始めた方は、子どもの成長に伴って暮らしがどのように変化していくのでしょうか。週末の田舎暮らしが親のエゴにならないよう、子どもの成長に従って流動的に暮らすことを馬場さんは勧めます。

馬場さん:「子どもたちは現在大学生・高校生・中学生となり、それぞれ忙しいので最近は大人だけで行くことが多いです。小学生のうちは家族単位で移動しましたが、今は行きたい人だけ行くというルールに。だからたまに誰かが来てくれるとうれしい(笑)。大学生の長男は運転免許を取得したこともあり、今は自分の好きなタイミングで南房総に行く“二代目・二地域居住者”になっています。

もちろん、子どもなら誰でも田舎暮らしが好きとは限りません。長女や次女は田舎暮らしにクールな反応ですが、それでも育ってきたプロセスで都会と田舎のいいところを受け入れる感性を培ってきたように見えます。さまざまな生き方の選択肢があることを示せたことは良かったと感じています」

田舎暮らしは借りる?or買う? 物件情報の集め方

二地域居住を始める方は集落の空き家を利用するケースが大半。地方の高齢化、過疎化が深刻化し、空き家問題も生じているため、戸建ての賃貸物件は増えているそうです。

馬場さん:「地方では、物件情報は個人経営のお店のオーナーさんや自治会の会長さんなどから得られることも多いです。不動産会社を介さずに当事者同士で直接やりとりすることで、地域との関係性を引き継げるなどのいい面がある一方、仲介者がいないため、双方の思い違いなどから思わぬトラブルが起こらないよう注意が必要です。

最初は借りて住み始めたところ、その土地が気に入って購入、新築の家を建てた方もいました。わが家の場合は築130年の古民家を購入しましたが、地方では広い家でも破格の値段で購入できるので、購入の選択肢も十分あると思います。それに土地を購入すると、どんなに安いといってもある程度の金額を支払うことになるので、その分覚悟も決まります。何がなんでもここでの暮らしを楽しむぞ!というポジティブな原動力にもなっている気がします」

田舎での暮らしが楽しみになるよう、家をカスタマイズしていくのも二地域の生活を長く楽しむコツだといいます。

馬場さん:「せっかく二地域に住居を構えるので、都会の家とは違った住まいをまずは楽しんでみるといいと思います。例えば、古民家は照明が暗めですが、あえて昔ながらの暮らしに身をおいて、暗さを楽しむのも一興です。農作業で疲れた体を休めるには、暗いと感じるくらいが理にかなっているかもしれない…といった気づきが得られるかもしれません。

その上で、住むのに適したカスタマイズや住み替えなどを、暮らしに合わせて進めていくのがおすすめです。いろいろな感性の方がいて、古民家の風情がいいという方もいれば、当然、都会のように快適な家がいいと思う方もいますので。老朽化していた家を新築の快適な設備の家に建て替えたら、途端に家族が集まるようになった、という話も聞きます」

ペットは連れて行く?田舎の家の手入れは?気になる疑問

気になる疑問を馬場さんに伺いました。

田舎の家の管理は?

馬場さん:「週末を田舎で過ごす二地域居住の場合、1週間近く家を閉めきることになり、梅雨時は湿気問題がついてまわります。家を2つ持つと掃除の手間も2倍ですが、何もかも完璧にやろうとすると疲れてしまうので手を抜くことも必要。また、田舎の古民家は無断熱で寒さが厳しいため、断熱改修をするといいかもしれません。簡単なDIYでも効果は期待できます」

移動距離はどれくらいが目安?

馬場さん:「子どもが小さいうちは、何時間の移動に耐えられるかという視点で決めるといいと思います。わが家は1時間半と設定してその範囲で探しましたが、通い続けるうちに心理的な距離が近づいて、移動の疲れは減っていきます。今となっては、もっと遠くでも良かったなと思うほどです」

土地選びのコツは?

馬場さん:「旅をきっかけに決める方は多いです。それもただの旅行というよりは、農業体験など地域の方と交流できるような機会があれば、その土地に暮らすイメージが湧きやすくなるかもしれません」

ペットは連れて行く?

馬場さん:「車酔いをしなければ、犬や猫を連一緒に連れて行く方は多いです。わが家では毎週末猫を連れて行っている時もありました。木に登ったりモグラやネズミを捕まえたりして野性を発揮している姿を見るのは新鮮です。外で放すといなくなるのではと心配でしたが、わが家の猫は家から50m圏内から出ることはなく、いつも人について回っています。また、ノミやダニなどへの対策は必須です」

二地域居住のお財布事情とは?移動交通費の節約法とは

住まいを2カ所に構えるということは支出も増えるもの。実際のところを馬場さんに伺いました。

移動の交通費

馬場さん:「行き来した分だけ交通費はかかります。わが家では大人数で行く時は車を使い、私一人の時は高速バスで房総の道の駅まで行き、長時間駐車場に止めてある軽トラを週末の移動手段にしています。ガソリン代が抑えられる上、長時間ドライブのリスクを回避できます」

家財道具の出費

馬場さん:「人間関係があれば家具や家電は不要品をあげたりもらったりできるので、私もちゃぶ台や扇風機、重機などを譲り受けたことがあります。不要品の情報はSNSなどから得ることも多いです。地元のお店をフォローするなどして、地域の方とつながりを築いておくといいと思います」

地方で仕事が生まれることも

馬場さん:「人材不足の地方では二地域居住者も貴重な働き手。地元の方との交流を通じて仕事が生まれることも少なくありません。地方と都市をつなぐ存在として行政から移住プロモーションの仕事を依頼されたり、地元の商店のウェブサイトの制作を頼まれたり、野菜を都市で売る仕事を依頼された方もいました。二地域居住は確かにお金がかかりますが、結果的に必要経費以上の働きになることもあります」

まとめ

二地域で住まうことの良さを「精神的に追い詰められないところ」と馬場さんは話します。

馬場さん:「都会の生活に行き詰まる時があっても、もうひとつ、田舎にも安心できる場所があると思えると気が楽になります。逆に、田舎暮らしならではの大変さに疲れたら都会もいいな、と思えばいい。1カ所に縛られず、肩の力を抜いた状態で生きていけるのが二地域居住の魅力だと思います」

生き方、働き方が多様化する中で、住まいも一つだけとは決まっていません。また、将来的な地方への移住を見据え、その前段階として二地域居住を経験してみるのもいいのではないでしょうか。

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