寝不足が続いたり睡眠リズムが乱れたりしてしまうと、日常生活のパフォーマンスや、
心身の健康にも悪影響を及ぼしかねません。とはいえ、「忙しくて睡眠時間を確保できない」や
「たっぷり寝ても疲労感が取れない」など、悩んでいる方も多いでしょう。
そこで、睡眠専門医として、睡眠障害の治療や睡眠の質向上の指導をする坪田聡先生に、
睡眠不足による心身への影響、今日からできる睡眠の改善方法、寝室環境のポイントなどをお伺いしました。
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Part1
日本人は睡眠時間が短い!?
睡眠不足による
リスクに要注意 -
Part2
睡眠の改善方法16選。
睡眠の質を上げる
生活習慣や寝室環境とは? -
Part3
睡眠の質向上も期待できる
快適静音室
「やすらぐ家」とは? -
Part4
睡眠の質を上げて
暮らしを充実させよう
Part1日本人は睡眠時間が短い!? 睡眠不足によるリスクに要注意
ここでは、他の国と比較した日本人の睡眠時間や、睡眠不足が引き起こすリスクについて解説します。あらためて睡眠の大切さを確認しましょう。
日本人の睡眠時間は世界各国より少ない!
OECDが33カ国を対象に行った睡眠時間の調査(抜粋)
※厚生労働省「解説書『良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと』」を基に作成
厚生労働省の資料※1によると、経済協力開発機構(OECD)が33カ国を対象に行った調査では、日本人の1日の睡眠時間は7時間22分で、最下位という結果になっています。 全体平均の8時間28分と比較しても1時間以上も短いことが分かりました。
日本国民の各年代における睡眠時間割合
※厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を基に作成
また、別の調査ですが、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」※2によれば、働き盛り世代である20〜59歳の各世代において、睡眠時間が6時間未満の方が約35〜50%、睡眠時間が5時間未満の方に限定しても約5〜12%と、比較的短い睡眠時間の方が多い現状です。
想定される要因としては、労働時間の長さに加え、睡眠時間を削って動画やSNSを見るなど、インターネットやスマートフォンの普及も大きな理由と考えられます。
もちろん、適正な睡眠時間には個人差があり、6時間未満でも充足する方もいますが、成人では6時間以上を目安として睡眠を確保すると良いとされています。
睡眠不足は、肥満や糖尿病、
うつ病などのリスクを高める!
睡眠不足になると、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の量が減少し、食欲を高めるホルモン「グレリン」が増加。同時に日中の活動意欲が低下するため、肥満の原因につながります。
また、睡眠不足が慢性化すると脂質の代謝にも影響し、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心疾患といった病気のリスクが高まります。さらに、うつ病などの精神疾患、認知症などを発症する原因ともなるのです。
厚生労働省が公表した「令和5年版 過労死等防止対策白書」※3では、睡眠時間が理想より不足すれば、うつ病などになるリスクが高くなるという調査結果が示されています。
睡眠不足になると、日常生活での集中力が低下したり、ストレスを感じてイライラしたりと、心身への影響を受けやすくなります。これは、脳の中にある前頭葉(論理性や感情の制御をつかさどる)に影響を及ぼすためです。睡眠不足は飲酒運転と同じレベルまでパフォーマンスが低下するといわれており、実はとても危険な状態にあるのです。
健康を維持するために、毎日の睡眠の質を上げる
体内では壊れた細胞の修復や再生が行われていますが、これは「成長ホルモン」の働きによるもので、最も多く分泌されるのが睡眠時。この全身の細胞の成長と代謝を促す成長ホルモンが、疲労回復はもちろん、風邪などのウイルスへの免疫機能にも作用するのです。
また、睡眠は脳や体の疲労回復になることはもちろん、その日に起きたことや覚えたことの記憶を整理して、定着させることも促してくれます。
ここに関わっているのが、レム睡眠とノンレム睡眠と呼ばれるものです。睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠を一定のリズム(一般的にワンサイクル80~100分、一晩に4~5回)で繰り返しています。
レム睡眠中は、体は休息中ですが脳は活発に動いている状態で、この間に脳内で記憶の整理や関連づけを行っています。夢を見るのはほとんどがレム睡眠中です。体が覚醒しやすい状態なので、スッキリと目覚めることができます。
一方で、ノンレム睡眠中は、脳はほぼ完全に休息しており、体の緊張が多少残っている状態です。夢はほとんど見ません。成長ホルモンが分泌され、免疫力が強化されるとともに、記憶の定着や再構築に重要な役割を果たしています。
なので、睡眠の質を上げるためには、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが大事ですが、特にノンレム睡眠の質を高めてより深く眠るようにしましょう。
※3出典:「令和5年版 過労死等防止対策白書」
Part2睡眠の改善方法16選。
睡眠の質を上げる生活習慣や寝室環境とは?
睡眠時間はただ長くするよりもその質が重要になります。ここでは睡眠の質を上げる方法について解説します。
生活習慣のポイント
1. 自分に合った睡眠時間を確保する
毎日、何時間眠れば良いのかは、絶対的な基準はありません。睡眠は体質や年齢など個人的な要因に影響されるためです。先ほどご紹介したとおり、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」※4では、「成人は6時間以上」、「小学生は9時間~12時間」「高齢者は個人の体調や生活状況に合わせた時間」と示されています。入眠がスムーズで朝もスッキリ目覚め、日中も元気なら、質の高い睡眠が取れている証拠なのです。
2. 朝の光を浴びて体内時計(概日リズム)をリセットする
朝起きて夜に寝るという体内時計のリズムに合わせて、体温や血圧、細胞の再生やホルモン分泌が整うようになっています。
ただ、この体内時計は、1日の周期が約24.2時間と、24時間よりも少し長いため、毎日リセットしないと少しずつリズムが狂ってしまいます。
そのリセットの役目を果たすのが朝日です。夜の間に分泌されていた睡眠ホルモン「メラトニン」が、朝日を浴びることで減少し、目を覚ます働きのある「セロトニン」の量を増やします。
なので、朝起きたらまずはカーテンを開けて朝日を浴びる習慣をつけましょう。
3. 起床時間をそろえて、毎日のリズムを保つ
前述のとおり、体内時計は朝日によってリセットされます。仮に、夜更かしをして朝起きる時間が遅くなれば、また夜寝る時間が遅くなります。これだと、朝日による体内時計のリセットができず、睡眠のリズムが狂うことになるため、朝の起床時間を一定に保つことが大切です。また、休日に寝だめをするのも体内時計が乱れやすいので、起床時間を一定に保つようにしましょう。
4. 夜寝る直前にスマホなどは見ないようにする
寝る前の1時間は、テレビやパソコン、スマホなどを見ない習慣を身に付けましょう。パソコンやスマホの画面の光には、睡眠ホルモン「メラトニン」を抑制するブルーライトが含まれており、寝つきを悪くするばかりか、体内時計の乱れにも影響します。また、点滅する光も脳を覚醒させる原因です。
5. 運動習慣を身に付ける。軽い有酸素運動がおすすめ
習慣的な運動を続けることで、深い睡眠が取りやすくなる、寝つきが良くなるといった効果が期待できます。ただし、体に大きく負担がかかる激しい運動は避けましょう。ウォーキングやジョギングなどの軽い有酸素運動がおすすめです。運動のタイミングは、眠りにつく1~2時間前までに行うと良いでしょう。
6. 寝る前に腹式呼吸やストレッチで体をリラックスさせる
なかなか寝つけないときは、自律神経がうまく切り替わっていない可能性があります。心身を活動的にする交感神経から、休息や安眠へ導く副交感神経へと、意図的に切り替えることも寝つきを良くする方法の一つです。
深く息を吸ってゆっくり吐く腹式呼吸を繰り返すことで、副交感神経が優位に働き、心身をリラックスした状態にできます。また、軽いストレッチも有効です。筋肉がほぐれ体が休まり、血行を良くする効果も期待できます。
7. 布団に入っても眠くならないときは無理して寝ない
布団に入ってもなかなか寝られないときは、無理に寝ようとせず、好きな音楽を聴いたり読書をしたりと、気持ちをリラックスさせることが大切です。また、布団に入ってからは、呼吸に集中して何も考えないようにしましょう。翌日の予定や考えるべきことをノートに書き出して、考え事を手放して寝てしまうのがおすすめです。もし、悩み事やストレスがあるなら、その日に起こった良いことや、感謝の気持ちを思い返してみましょう。幸せホルモンともいわれる「セロトニン」の分泌が高まり、ストレスの軽減に役立ちます。そして、この「セロトニン」は、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料なのです。
8. ゆっくり入浴して体の深部を温める
スムーズに眠りにつくためには、ゆっくりと入浴することが大切です。これは、入浴中に上がった深部体温が、お風呂から出た後に急低下することによって、眠気を引き起こすからです。深部体温が下がり、睡眠を促すタイミングから計算すると、就寝時間の1~2時間前の入浴がおすすめです。
逆にすぐに眠りたいときは、湯船に入らずシャワーだけで済ませましょう。深部体温がそれほど上がらず、体温が下がるまでの時間を短縮できます。その際、温度は42℃前後に設定して、高い位置から全身に浴びることで、体に冷えを残さないようにすることがポイントです。足元を温めると全身の血流が良くなり、熱放散によって深部体温がより下がりやすくなります。
9. 食事を規則正しく取り体のリズムを整える
睡眠の質を高める食事の基本は、毎日同じ時間に食べること。それによって体内時計が整えられます。その際、食べすぎに注意。これは、過剰に糖質を取ることで急に血糖値が上がり体に疲労を感じたり、糖質分解のためにビタミンが大量に消費されたりと、睡眠の質を下げてしまう可能性があるためです。
また、夕飯を抜いてしまうと、空腹時は睡眠と覚醒を切り替える脳内物質「オレキシン」が活性化し、脳を覚醒させてしまい、同時に睡眠中枢も抑制されてしまいます。
10. 寝る3時間前までに夕飯を済ませる
寝る直前の食事も避けましょう。食事の後は眠気を感じることがありますが、これは食欲抑制ホルモン「レプチン」の作用によるもの。胃は消化のために働いているため、浅い眠りにしかならないのです。入眠しやすいのは食べたものの消化が終わっているとき。胃腸の働きを落ち着かせるため、就寝時間の約3時間前には食事を終わらせるように心がけましょう。
11. 睡眠に大切な栄養素を摂るように食生活を整える
睡眠の質を上げるには3つのアミノ酸がポイントです。一つ目は牛乳やチーズなどの乳製品、レバー、大豆製品、ナッツ類に多く含まれる「トリプトファン」。摂取から14時間を経て睡眠ホルモン「メラトニン」と時間をかけて変化するため、朝食として取りたい必須アミノ酸です。二つ目はエビやホタテなどの魚介類に多く含まれる「グリシン」。睡眠へスムーズに入りやすく、睡眠の質を高める効果が期待できます。そして、三つ目はトマトやバナナ、ヨーグルト、玄米などの穀類に含まれる「ギャバ(GABA)」。興奮した神経を落ち着かせ、副交感神経を活性化させて、睡眠の質を高める効果が期待できます。
12. 眠る前にはカフェインの摂取や喫煙を控える
コーヒーなどに含まれるカフェインに覚醒作用があることはよく知られていますが、その効果は飲んだ後30分から1時間たってから最も大きくなり、効果が半減するまで2時間半から4時間かかるといわれています。寝つきが悪くなるばかりか、眠りも浅くなるので、寝る前にカフェインを取ることは避けましょう。また、タバコに含まれるニコチンは中枢神経系に刺激を与え、脳の覚醒を促してしまいます。
13. アルコールは寝る3時間前までに
お酒を飲むと眠くなります。これは、脳の中で脳の興奮に関わる「グルタミン酸」の働きによるものです。しかし、アルコールが体内で分解されると、血圧や脈拍などに影響する「アセトアルデヒド」という物質がつくられ、深い眠りは減って浅い眠りが増えてしまうのです。さらに、強い利尿作用もあるため、寝ている間にトイレに行きたくて何度も起きてしまいます。飲酒は眠りにつく3時間前までに、適量にとどめておくことをおすすめします。
寝室環境のポイント
寝室は睡眠で体の疲れをとり、快適な目覚めで一日をスタートさせる場所。心も体もリラックスできる、快適な環境をつくることが何より大切です。睡眠の質を上げる寝室環境のポイントとしては、光、温度と湿度、音が重要です。
14. ベッドの配置や照明などで、「光」をコントロールする
睡眠中の明るさは暗いほど良いのですが、安全面を考慮して足元を照らすフットライトがおすすめです。また、自然な光で目覚められるように、南向きか東向きの窓の近くにベッドや布団を配置しましょう。自然光を取り入れるのが難しい間取りの場合は、時間を設定して徐々に明るくなる照明を置くのもおすすめです。
光の色にも眠りやすい環境をつくる色があります。オレンジなどの暖色系の色は光のエネルギー量が少なく、「メラトニン」の分泌を妨げにくいのです。そのため、体を睡眠モードに切り替えてくれる効果を期待できます。
15. エアコンなどを使い、
「温度・湿度」をコントロールする
エアコンや加湿器、除湿器を使って、適温と適湿を保ちましょう。春と秋は18~22℃、夏は26℃以下、冬は15〜18℃くらいが目安です。湿度は通年で50~60%くらいが快眠の目安となります。特に、室温が夏の28℃以上や冬の14℃以下になると、睡眠に悪影響が出てしまう可能性も。一晩中、エアコンで室温を最適に保つのが理想ではありますが、深い眠りに影響する寝始めの3時間使うだけでも、睡眠の質向上が期待できます。
快眠の目安となる寝室の温度と湿度
16. 防音グッズや家づくりの工夫で、
「音」をコントロールする
睡眠中は静かな環境が必要になります。外部の騒音はもちろん、一緒に住んでいる人の生活音も睡眠の質に影響します。 耳栓や防音効果のあるカーテンを使う、眠りにつくまで好きな音楽を流して雑音を消す「マスキング効果」など、自分に合った音環境をつくる工夫をしてみましょう。
また、これから家づくりを考える方なら、寝室自体を、外部からの音を減音してくれる「静音室」にするという方法もあります。
Part3睡眠の質向上も期待できる快適静音室「やすらぐ家」とは?
ダイワハウスの快適静音室「やすらぐ家」は、室外で発する90dBA相当の音(電車のガード下の音よりは少し小さい音)を、図書館並みの静けさの45dBAまで減音してくれます※。これなら夜間はより静かな空間になるでしょう。
就寝中も周囲の音でよく目が覚めてしまうような方は、静かな環境で眠ることで睡眠が途切れにくく、より深く眠れるなど睡眠の質向上が期待できそうです。
また、昼間は書斎として利用する場合も考えられます。外から入る音はもちろん、子どもの遊ぶ声や掃除機をかける音も軽減できるので、テレワーク中のオンライン会議や集中したいときに最適です。
快適静音室「やすらぐ家」なら、室外にいる家族の方も、会話や音楽などを楽しめ気兼ねなく過ごせそうです。
※数値は、大和ハウス工業で測定した数値(JISA1417:2000 建築物の空気音遮断性能の測定方法に基づく)ですが、性能値として保証するものではなく、使用状況や周辺の環境、間取りなどにより異なる場合があります。
Part4睡眠の質を上げて暮らしを充実させよう
ここまで、睡眠の改善方法をご紹介しましたが、すぐにできるものばかりなので、日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
睡眠の質を上げることは、家族のライフスタイルや趣味を楽しむ時間を充実させることにもつながります。
食生活を含む生活習慣の改善はもちろん、音に配慮した寝室のある住まいづくりなど、睡眠を改善するいろいろな方法をぜひ検討してみてください。
お話を伺った方
坪田 聡さん
日本医師会会員、日本睡眠学会所属。ビジネス・コーチと医師という二つの仕事を活かし、睡眠専門医として行動計画と医学・生理学の両面から睡眠の質の向上に役立つ情報を発信している。『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版/2020年)、『快眠ごはん 眠れるカラダを食事でつくる』(海竜社/2020年)、『思考と体がスッキリ!睡眠のしくみ』(成美堂出版/2023年)など著書多数。