車の通る音がうるさい、家の中で電話をする声が気になる…など、
住宅では音の問題がたびたび発生します。近年はテレワークが普及したことで、
家の中で仕事に集中できる静かな空間を求める人も増えていることでしょう。
住宅で静かな空間を確保するためのポイントや、豊かに暮らすための快適な音環境について、
金沢工業大学環境・建築学部教授の土田義郎先生にお聞きしました。
また、自宅内に「静音室」があるとどのぐらい騒音問題が解消できるのか?
専門家として客観的に評価していただきました。
Profile
金沢工業大学環境・建築学部建築系建築学科教授
土田 義郎先生
専門は環境心理・サウンドスケープ・音環境評価。人が快適に感じる空間について、物理的な現象と心理的な効果の両面から研究を行う。風鈴コレクターでもあり、風鈴を通した音風景の創出に取り組んでいる。
近年の住宅における騒音問題の実情とは?
近年の住宅は断熱性・気密性・耐震性については進歩してきましたが、その他の環境性能は後手になっていると思います。特に音に関しては空間づくりにおいて後回しにされがちなので、実際に住んでみてから苦情などで問題が顕在化することが多いです。
外からの騒音によってテレビの音が聞こえなくなったり、日常会話に差し障りがあったり、安眠が妨げられたり。長期的には大きな音に鈍感になる、感受性が鈍くなってしまう等のリスクもはらんでいるほど、騒音は心身の健康に関わる切実な問題です。
音は人によって感じ方が違う、という特性も、騒音問題を難しくしていると思います。音の心理的な大きさはA特性音圧レベル(単位はdB《デシベル》)という指標で表すことができ、一般的に静かだなと思える所は、騒音計で見ると大体30dB〜40dBくらいです。しかし音の聞こえ方・感じ方は個人差が大きい。同じ音量でも、音の種類や空間次第でうるさく感じる人とそうでない人がいて、一概には言えないんです。
静かすぎてもダメ?少しの音は必要な理由
では、静かであればあるほど良いのか?というと、逆に静かすぎても支障が出ます。静かすぎると、時計の秒針や冷蔵庫の駆動音のようなちょっとした音が気になってしまう…といった経験はありませんか?聴覚には、BGMや周囲の物音などある程度の音があった方が、些細な音が沈みこんで気にならなくなる「マスキング効果」という機能があります。ある程度の物音すらもない状態だと、些細な音が際立って、それが新たな騒音になってしまうことがあります。
仕事などの作業中に音楽をかけるとリラックスできる人もいれば、気をとられすぎて集中できない人もいます。喫茶店のようなざわざわした空間で適度な落ち着きを得られる人もいます。人間の音への感受性は人それぞれ、とても複雑なんです。
ですので、「居住空間はどのぐらい静かであるべきか?」についてまとめると、数値でいえばだいたい40dBぐらい、かつご自身の体感として耳障り感がないようなレベルの静けさをまずベースとしましょう。それぐらいならそのまま仕事のような集中を要する作業もできますし、プラスちょっと音楽をかけたり、外の音や家の生活音を聞いたりと、個人の好みに合わせて環境を選ぶことができます。生活音が入ってくることで安心する、落ち着く効果もあると思います。
生活音が持つ情緒的な効果とは?
生活音にはある種、自分の居場所を実感できる効果もあるのではないかと考えています。例えば子どもの声や遊ぶ音、ペットが歩く音など、各ご家庭に特有の音もあるでしょう。キッチンで食材を切る時の包丁やまな板の音、スライサーの音。ちゃぶ台の音…というと昔の話になってしまいますが、現代には現代の、「家族の音風景」があるのではないかと思います。
「サウンドスケープ」という概念があります。これは日常生活や自然の「音」に着目して風景を捉える考え方で、都市や庭園でよく使われるのですが、一般の住宅でもサウンドスケープの視点から、空間全体の音のしつらえを考えてみることはできると思います。
例えば風鈴を玄関につけておくと、チリンという音が帰ってきたことを知らせるサインになりますよね。毎日接することになるインテリアや雑貨を選ぶ時には機能性やデザインだけでなく、自分が好きな音かどうか?にも着目してみましょう。
見た目は竹だけど触ってみたらプラスチックの情けない音がしてがっかりした…といったように、音を聞くとそのモノの本質が見えるような気がします。音だけでなく、手に持ってみた時のテクスチャーやぬくもりなど、人間は五感でそのモノからのレスポンスを感じ取り、本質を評価しているのではないでしょうか。このように、暮らしの中の音や質感を大事にすることは、感性を磨くことにもつながるのではと思いますね。
家づくりの際にできる騒音対策とは?
活動の邪魔になったり健康を損ねたりするほどの騒音は遮りつつ、住む人の感性を育むような、豊かで快適な音環境をつくるために、意識しておくべきポイントをいくつかご紹介します。
ある程度の遮音性能がある家をつくる
そもそも基本的な遮音性能が足りていない家があります。周りの環境が静かであればいいのですが、道路に面した所や繁華街の中だとどうしても音が気になって生活に差し障りが出てくることもあります。周りの環境を静かにすることはなかなか難しいですし、騒音の問題は家を建てた後から分かることが多いので、あらかじめ家の外壁などである程度の遮音性を確保しておきたいです。
間仕切りを設置する
現代の住宅は断熱性が高くなっていて、家全体で空調管理ができるため、間仕切りが少なくなっています。広いLDKや吹き抜けのリビング階段など、区切りのない間取りはどうしても音が抜けやすくなってしまうので、ワークスペースなどには間仕切りや扉があった方がいいですね。
スピーチプライバシーに配慮する
前述のように、なるべく開かれた間取りで、家族の気配が伝わる家にしたいという思いを持っている人もいますよね。しかし、そういった家を実際に建ててみると、後からプライバシーの問題が出てくることも多いです。たとえ親子でも会話を聞かれるのが嫌というのは、昔も今も変わらずあると思いますので、「スピーチプライバシー」への配慮は必要です。対策のひとつとしては、可変性のある間仕切り等を活用することです。
ダイワハウスの快適静音室「やすらぐ家」の評価は?
ダイワハウスの快適静音室「やすらぐ家」は部屋に防音設備を施し、屋外の交通騒音や室外の生活音を減音して集中できる空間を実現しています。また防音ドアの代わりに静音ガラス引き戸「静音スクリーン」を設置することで、減音をしながらも広がりと開放感があり、家族の気配を感じられる空間をつくることもできます。今回はこの静音室と静音スクリーンを、土田先生に実際に体験していただきました。
どのぐらい静かになる?
静音室の外で掃除機をかける音やスピーカーから鳴る音楽が、どの程度減音されるのかを計測してみました。掃除機の音・音楽とも、開放状態では60dB~70dBだったものが、静音スクリーンを閉めると一般的に静かとされる30dB~40dBほどに減衰していますね。
体感としても、掃除機の音は静音スクリーンを閉めることでだいぶ抑えられていると感じます。音楽に関しては音量とは別に、メロディや歌詞など意味のある部分を認知してしまうので、数値よりも大きな音に感じることがあります。では言葉を含む日常会話はどうなるのかというと、そもそも音量が50dBくらいなので、この静音スクリーンによってほとんど聞こえなくなるでしょう。室内同士の計測でこのくらいの性能があるので、家の外から入ってくる音はもっと小さくなりますね。
ガチャッとしっかり圧力をかけて閉める引き戸がいいですね。パッキンが気密性を持っているのでそれで遮音性が良くなっている。隙間があると音響的な遮音性能がゼロになってしまうので、隙間をなくすのが一番の近道です。
壁ではなくスクリーンであることの
メリットとは?
ガラスのスクリーンで区切ることで、視覚的なつながり感が生まれるのがとてもいいですね。壁で区切るとどうしても狭苦しく感じてしまいますが、ガラスだと奥行き感があって広く感じられる効果があると思います。
家族の暮らし方という点では、状況によって引き戸を開け閉めして音の抜け具合を調節することも可能ですし、「ご飯だよ」とか家族に呼びかけたい時はちょっと開けて呼んだりとかもできる。また、部屋を広く見通せるところに設置することで、仕事をしながら子どもを見守るといったこともできると思います。
防音ではなく「静音」室の用途とは?
自宅でテレワークをするなら、リモート会議に没入して声が大きくなったとしても、この遮音性能があれば十分に効果があると思います。ドラムやピアノ等の楽器の演奏は本格的な防音室でないと難しいですが、ライトなリスニングルームとしても活用できそうですね。
まとめ
暮らしの中で聞こえてくるさまざまな音。家づくりの際にはその全てを遮断してしまうのではなく、ベースとなる静かな空間を確保しつつ、住宅のサウンドスケープが感じられるような間取りや仕組みを検討してみてはいかがでしょうか。ダイワハウスの快適静音室「やすらぐ家」に採用している、生活音や家族の気配の伝わり方を調節できる静音スクリーンも参考にしてみてください。