愛するペットは家族も同然。
しかし地震や台風などの自然災害からペットを守る防災対策は万全ですか?
「避難所には一緒に行けるの?」「ペットのためには、どんな準備が必要?」など、
不安を抱えている方も少なくないでしょう。
そこで今回は、災害危機管理アドバイザーとして活躍する和田 隆昌さんに、
人とペットの防災対策について伺いました。
自然災害はいつ起こるかわからない
東日本大震災から2021年で10年、社会の防災対策として、自助(自分で災害に備えること)を重要視する意識は年々高まっています。内閣府の調査※1によると、ここ1~2年の間に家族や身近な人と、災害について話し合ったことが「ある」と答えた方は、57.7%と半数以上になります。
しかし、大地震に備えて「食料や飲料水、日用品などを準備している」という方は45.7%、「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」という方は38.8%と、実際にこれらの防災対策をしている人は半数以下です。また住まいの耐震診断を実施している人は28.3%であり、自宅の安全確保についてはまだまだ意識が低い状況と言えます。
防災の大切さは感じていても、忙しい毎日に追われて備えが手薄になっている方も多いでしょう。しかし自然災害はいつ起こるかわかりません。日頃から防災対策を行い、いざというときに備えることが重要です。
ペットの防災対策の重要性
2011年に発生した東日本大震災では、多くの人命が失われました。それとともに多数のペットも命を落としており、わかっているだけでも3,000頭以上の犬が亡くなっています※2。登録制度のない猫やその他のペットも合わせると、その数は想像を超えるでしょう。
また震災直後の現地では、行方がわからなくなったペットを探す方の姿も多く見られました。ペットの失踪届も多数出されていましたが、ほとんどが行方不明のままです※2。
ペットの安否がわからないのは、飼い主にとって非常に悲しいことでしょう。ペットと暮らす方は災害に備えて、ご自身とペット、両方の命を守る防災対策が必要です。
ペットの防災対策、事前に確認すべきこと
ペットとともに災害に備えるためには、事前に確認しておくことがあります。災害が起こった際、ペットと一緒にどのような行動を取るべきか、次の項目を確認しながら家族で話し合いましょう。
まずは自身の安全を確保
大切なペットを守れるのは飼い主だけです。ペットとの防災対策の基本は、飼い主の身の安全を確保すること。災害の種類や程度に応じて、家族と一緒に行動指針を事前に決めておくことが重要です。
指定避難所と避難ルートを確認
指定避難所と避難ルートの確認は、ペットの有無にかかわらず行うべき防災準備です。
まずは自宅付近の「指定避難所」を確認しましょう。指定避難所とは、市町村が緊急時の避難・滞在先として指定した施設のことです。主に学校や公民館などが指定されています。自宅の住所にかかわらず利用できるので、複数の避難所を確認しておくといいでしょう。
また、指定避難所の場所を確認したら、避難ルートもチェックします。実際にペットを連れて避難ルートを歩き、避難所までの所要時間や、通行できない場合の迂回路などを把握しておきましょう。
「同行避難」の可否を確認
ペットを飼っている方にとって「ペットと一緒に避難所に行けるのか」は、重要なポイントです。ペットと一緒に避難することを「同行避難」と言います。ペットの同行避難の可否は指定避難所によって異なるので、ペットの一時避難所や係留施設の設置予定と一緒に問い合わせておきましょう。
ただし災害時は、全てにおいて人命が優先されます。同行避難ができる避難所であっても、場合によってはペットを受け入れてもらえないこともあります。2016年に発生した熊本地震の際は、同行避難情報があった避難所に対して、実際に同行避難が確認された避難所は約6割にとどまりました※3。
ほえ声や物音、臭い、アレルギーなどの健康上の理由が原因で、ペットの受け入れを反対する方が多い場合は、同行避難が断られることもあります。また、飼い主が他の避難者へ配慮して、自主的にペットを連れて避難所から出ていく、ペットだけを自宅に戻す、といったケースも見られました。
避難所以外の選択肢を考える
同行避難の可否を確認するとともに、避難所以外の選択肢も検討しておくことが大切です。現在は新型コロナウイルス感染対策もあり、避難所に行くことさえ難くなることが予想されます。
指定避難所以外にも、ボランティア団体や動物病院、ペットホテルなどが災害時の受け入れをしている場合もあります。このような情報は、自治体や保健所、動物病院などで把握できるものもありますが、地域によっても異なります。明確なルールがないため、まずはかかりつけの動物病院で相談してみるといいでしょう。
災害の状況によっては、被災していない地域の親戚や知人宅に、ペットを預ける方法もあります。防災対策の一つとして、事前に親戚や知人と相談しておくと安心です。
台風や大雨で自宅が浸水想定区域に入る場合は、早めの避難が必要です。しかし、地震の場合は、自宅に十分な耐震性能があり、周囲に土砂災害の可能性がなければ、避難所に行かずに「在宅避難」をするという選択肢もあります。
ペットを逃がすことは、新たな問題につながる
「首輪を外して逃がしてあげれば、自分で生きていけるかもしれない」という思いから、ペットを意図的に逃がす方もいるでしょう。しかし、逃げた大型犬が集団で野犬化し人に危害を与えるなど、新たな問題につながる可能性もあります。
どうしても同行避難が難しい場合は、ペットが逃げ出さない対策を行い、一定期間水や食料を自分で補給できる方法を考えましょう。大切な家族の一員だからこそ「災害時も飼い主が責任をもって面倒を見る」という意識を持つことが大切です。
暮らしの中でできるペットの防災準備
ペットとともに災害を乗り越えるためには、暮らしの中でできる防災準備が重要です。ここからは、ペットのための防災準備について解説します。
飼育場所の安全管理
まずはペットを飼育している場所の安全管理をしましょう。室内のケージなどで飼育している場合は、ケージや周囲の家具が転倒、落下しないよう固定します。室外で飼育している場合は、小屋の周囲に倒壊の恐れがあるブロック壁やガラス窓がないか確認しましょう。
また動物は災害時に、パニックを起こすこともあります。室内飼育のペットがパニックになり、人の手が届かない隙間に入り込んでしまうと、避難の遅れにつながります。あらかじめペットが逃げ込みそうな隙間は、しっかりふさいでおきましょう。外に飛び出さないように、玄関にペットゲートなどを設置しておくとさらに安心です。室外飼育のペットも、首輪やリードが外れないか、定期的にチェックしておきましょう。
備蓄品の準備
災害時は人命が優先されるため、ペットの水や食料の配給は断られることが一般的です。そのためペット用の水や食料は、備蓄として飼い主が準備する必要があります。備蓄の量は人と同じく1週間程度が目安です。
水や食料だけでなく、避難の際に必要なリードやキャリーバッグ、ケージ、排せつ物の処理道具なども準備しておきましょう。また、災害時にペットがけがをしたり、病気にかかったりしても、なかなか治療を受けることはできません。ペットの健康面についても準備が必要です。
健康管理としつけ
災害時はペットも大きなストレスを感じます。そのため免疫力が低下して、病気にかかるリスクが高まります。日頃からペットの健康管理には気をつけて、環境の変化があっても健康を維持できるよう心がけましょう。
避難所では、多頭飼育のような状態になることも少なくありません。望まない繁殖や病気のまん延を防ぐためにも、不妊・去勢手術や各種ワクチンの接種、ノミの駆除も行いましょう。
また、避難所でトラブルなく過ごすためには、日頃のしつけが重要です。
「待て」「おいで」「おすわり」「伏せ」など、飼い主の指示に従って動ける訓練をしておきましょう。さらに災害時もなるべく落ち着いて避難できるように、リードやキャリーバッグに慣れさせておきます。他の避難者の迷惑にならないよう、無駄ぼえしないしつけや、決まった場所での排せつを癖づけることも重要です。
トラブル防止はもちろんですが、健康管理やしつけは災害時のペット自身のストレス軽減にもつながります。
各種証明書の準備
備蓄品と合わせてペットのワクチン接種や不妊・去勢手術の各種証明書、既往症や治療歴がわかる書類のコピーを用意します。同行避難の際は、これらの証明書がないとペットを受け入れてもらえない場合もあります。
必要な書類は地域によって異なるため、自治体や地元の動物病院で確認しましょう。
迷子にならないための対策
同行避難中に、やむを得ぬ事情でペットと離ればなれになってしまうこともあります。保護されたペットが、飼い主のもとに戻れる対策を取っておきましょう。
首輪と迷子札は、迷子のペットを見つけた方がすぐに飼い主の情報を把握しやすい方法ですが、脱落する恐れもあります。そのため防災対策には、首輪や迷子札に加えて「マイクロチップ」の活用が推奨されています。
マイクロチップは皮下に注入するため、脱落やデータの消失の恐れがなく、災害時にも確実な身元証明になります。マイクロチップの埋め込みについては、動物病院で相談しましょう。
災害後、迷子になったペットを探しに行くことも考え、ペットの写真も備蓄品に入れておきます。さらに携帯電話にペットの写真を保存しておくのも有効です。
車中泊やテント泊の準備
東日本大震災や熊本地震の際も「同行避難をしたが、ペットを受け入れてもらえなかった」「近隣の避難所は同行避難ができなかった」という理由で、多くの飼い主がペット一緒に車中泊やテント泊をしていました。
日頃から備蓄品の一部を車に積んでおくと安心です。特にリードやケージの準備は欠かせません。ペットと一緒の車中泊やテント泊では、リードやケージがないと避難住民用の指定駐車場に入れないケースもあり、常に失踪・離別のリスクも抱えます。備蓄品と一緒に車に保管しておきましょう。
昨今のキャンプブームで、手に取りやすいアウトドア用品もたくさん販売されています。キャンプ用の充電器や防寒用具、テントを用意して、レジャー感覚でペットと一緒に車中泊やテント泊の練習をしてみるのもいいでしょう。
避難訓練への参加
地域での避難訓練等の機会に、近隣の住民とペットを連れて避難する方法を話し合っておきましょう。このようなコミュニティーが築けていれば、いざ災害が起きたときも周囲と協力し合ってペットを守れます。また、災害時にペットが逃げ出してしまったときも、情報が入りやすくなるでしょう。
ペットと一緒に参加できる避難訓練も行われています。これらの活動は地域の獣医師会やボランティア団体が運営しているケースが多いので、かかりつけの動物病院や自治体などに問い合わせてみましょう。
「災害後も継続して住める家」がペットを守る
ペットとともに災害を乗り越えるための避難のポイントや、事前の対策について解説しました。しかし、ペットと自分の命を守るためには「住まいの安全性」が何より大切です。
「在宅避難」であれば、ペットと離れる不安も少なくなるでしょう。ペット自身も慣れ親しんだ住まいのほうが、落ち着いて過ごせます。
在宅避難のメリット
- プライバシーが守られる
- 住み慣れた場所で精神的ストレスが軽減される
- 少人数で生活できるため、感染症のリスクが減る
- 犯罪に巻き込まれるリスクが減る
- 通勤や通学といった日常生活を再開しやすい
ここからは在宅避難を可能にする「災害後も継続して住める家づくり」について解説します。
耐震性が高い住まい
地震対策では、耐震性の高い家に住むことが何よりも重要です。地震発生時の安全確保にもなりますが、家屋が倒壊しないことが在宅避難の大前提になります。まずは自宅の耐震診断を受け、必要に応じて耐震補強を行いましょう。
最新の住宅には、地震のエネルギーを吸収する耐力壁を備え『震度7クラス(東日本大震災は震度7、マグニチュード9)の地震にも耐える耐震性を実現した住まい』もあります。
家の耐震性に加え、窓ガラスの破損防止、家具や家電の転倒防止も必要です。窓ガラスの破損防止はけがの予防だけでなく、ペットの脱走防止にもなります。
防災防犯ガラスは、地震による衝撃や台風による飛来物でも割れにくく、万が一破損してもガラス片が飛び散りにくいので、ペットも人もけがをする心配が少ないでしょう。
備蓄しやすい住まい
備蓄品は可能な限り、玄関周りに保管しましょう。玄関は非常時の脱出経路でもあるため、避難時に必要な物資をすぐに持ち出せます。
万が一家具が倒れたり、家の一部が破損したりした場合、室内の収納では備蓄品が取り出せなくなる可能性があります。新築する場合は、ペットの備蓄品も合わせて保管することを考え、玄関周りに大型の収納を作ると便利です。
インフラ停止時にも暮らせる住まい
家屋が倒壊せず備蓄品で生活できたとしても、電気やガス、水道といったインフラが止まってしまうと在宅避難も長くは続きません。特に電気が止まると、照明や冷暖房設備も使えず、情報収集もできなくなります。温度変化に弱いペットと暮らしている場合は、ペットの命にもかかわるでしょう。
そこで活躍するのが、インフラ停止時にも生活を確保できる電気を自給自足する家です。ダイワハウスの「災害に備える家」に取り入れられている、業界初※4の全天候型3電池連携システムは、太陽光パネルとエネファームで創った電気を、蓄電池にためる仕組みです。蓄電できる「切換盤」を採用し、太陽光発電とエネファームを連携しているので、雨の日でも約10日分※5の電力と暖房・給湯を確保できます。
昨今の台風被害で、「停電」が起こったニュースを目にした方は多いのではないでしょうか。大災害のライフライン被害では「停電」が約90%※6を占め、「停電」からの完全復旧には8日間※7かかる場合もあります。しかし、自宅に発電・蓄電できる設備があれば、インフラが停止しても生活が一定期間維持できる「災害後も継続して住める家」になるのです。
水の確保も必要です
在宅避難をする上で、飲料水を保管できる収納があれば断水時でも安心です。大型犬や超大型犬になると、1日に1~2リットル以上の飲料水が必要な場合もあります。一般的に3日間で4人家族に必要な水の量は、約36リットル。合計「2リットルのペットボトル21本分」のスペースを用意しておくのが理想的です。
まとめ
自然災害はいつ起こるかわかりません。災害時に大切なペットの命を守れるのは飼い主だけです。いざというときに落ち着いて行動ができるように、日頃から防災対策をしておくことが大切です。
避難の際はペットも一緒に連れて行く「同行避難」が基本ですが、現実には課題も少なくありません。避難所に行かず自宅で過ごす「在宅避難」であれば、ペットと一緒に慣れ親しんだ場所で生活を立て直すことができるでしょう。
ペットと家族の暮らしを守るために、災害後も継続して住める家を目指して、住まいの安全性を見直してみてはいかがでしょうか?
PROFILE
防災ガイド
和田 隆昌さん
災害危機管理アドバイザー。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取り、自治体や企業の災害対策コンテンツを作成。専門誌編集長を歴任。アウトドア、サバイバル術も得意。2020年6月9日発売、中高年のための『読む防災』(ワニブックス)他、講演会、各種セミナー(リモート可)TVなどマスコミ出演多数。
- ※1平成29年度 防災に関する世論調査(内閣府)
- ※2東日本大震災におけるペットの被災概況(環境省)、東日本大震災における被災動物対応記録集(環境省)
- ※3熊本地震における被災動物対応記録集(環境省)
- ※42019年2月当社調べ(プレハブ住宅業界)
- ※5水道・ガスが使える場合
- ※6内閣府(防災担当)災害情報 2017~2019年より
- ※7内閣府(防災担当)災害情報及び各電力会社報告資料より