猫にとってストレスがない住環境とはどんなものでしょうか?
今回は、猫専門病院の獣医師である山本宗伸先生に、猫の習性について解説していただくとともに、
猫と人間の両方が快適に暮らすために必要な住まいの条件を伺います。
Profile
獣医師
猫専門病院Tokyo Cat Specialists院長
山本 宗伸先生
日本大学獣医学科外科学研究室卒業後、「Syu Syu CAT Clinic」で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院「Manhattan Cat Specialists」で研修を積む。国際猫学会ISFM、日本ねこ医学会JSFM所属。自身も猫と暮らしている。
高い場所、窓の外を観察、ひなたぼっこ…
行動から読み解く猫の習性
窓際でゴロゴロお昼寝をしたり、高い場所にも軽々と登ったりと自由気ままに過ごしている猫。このような「猫あるある」のふるまいや行動には、猫の習性が隠されています。
猫は高いところにいると安心する
「人間は低い場所の方が落ち着くものですが、猫は高い場所の方が安心できると言われています。これは、高い場所に位置取ることで敵の襲来をいち早く察知するため。身体の小さな猫が身を守るための本能だと考えられています」
猫は窓の外を眺めるのが大好き
「窓の外には動くものがたくさんあります。飛んでいる鳥や風に揺れる葉っぱ、散歩する犬など、好奇心旺盛な猫にとってはどれも刺激的。外を眺めることでたくさんの刺激を受けて、元気になっていると考えられます」
猫はひなたぼっこで毛のお手入れもする
「猫が陽だまりを好むのは、暖かくて気持ちがいいだけでなく、被毛についた雑菌を紫外線に当てて殺菌するためと言われています。布団を干すように自分の身体を太陽の光に当てることで、いつでもサラサラの体毛をキープできるのです」
猫は隠れ場所があると嬉しい
「広くて見晴らしのいい場所は敵に見つかりやすいため、猫は身を隠せるような場所を好む性質があります。ダンボール箱の中や引き出しの中、紙袋の中など、せまい場所に入りたがるのは安心したいため。臆病で警戒心の強い性格の猫ほど、その傾向は強いです」
猫の習性に合わせた家づくり4つのポイントとは
猫ならではの行動の数々は猫の本能によるものだと分かりました。では、本能の赴くままに猫が室内でイキイキと暮らすには、どんな家づくりをすればいいのでしょうか?先生の解説とともに、ダイワハウスの建築事例をご紹介します。
ポイント1:外を見下ろせる高い場所に窓を設ける
「猫は高い位置から見下ろすように外を眺めるのが好きなので、高所に窓を設けるか、掃き出し窓であれば窓辺に家具を置くなどして床面よりも高い位置から外を眺められるようにしましょう。窓辺に猫が寝転がれるスペースがあれば、日向ぼっこやお昼寝もできて一石二鳥です。また、寒がりの猫は冬場になるとおひさまを求めて家中を移動します。猫が移動することも想定して、窓辺の計画を考えるといいですね」
リビングの上部に設けた横長のFIX窓。猫が行き来できるトンネルが足場となり、ひなたぼっこをしながら外の観察ができる。
ポイント2:キャットステップで上下運動を促す
「平面的な家は猫にとって刺激がなく、運動不足から肥満を招くこともあります。登る・降りる・ジャンプするといった上下運動ができるキャットステップや高い場所に登れる足場を作ってあげると、猫がイキイキと遊ぶ様子が見られます。市販のキャットステップを取り付ける場合は、グラつきや倒れてしまうことがないよう、安全性をしっかり確保しましょう」
構造上必要な柱をキャットステップとして生かせば、安定性が高く、インテリアにも統一感が生まれる。市販の突っ張り式のキャットステップを設置する場合は、設置場所の天井下地の強度を確認する必要がある。
ポイント3:隠れ場所を作る
「飼い主のことが好きでも、常に人の視線にさらされている状態は猫にとってストレスです。身を隠せる狭い隠れ場所があると、猫は安心してくつろぐことができます。特に多頭飼育の場合は、猫同士がケンカしたときの避難場所として、猫の頭数分の隠れ場所を作ってあげるのが理想的です」
収納スペースと猫の隠れ場所を兼ねた造作ベンチ。
ポイント4:頭数+1個の猫用トイレが置けるスペースを確保する
「トイレスペースは猫が過ごす居場所から遠くない、静かな場所に設置しましょう。キレイ好きな猫は汚れたトイレを嫌がるため、猫の頭数+1個が必要です。トイレのサイズはのびのびと砂かきができる体長×1.5倍以上が目安です。多頭飼育で相性の悪い猫がトイレを使っていると我慢してしまうこともあるので、トイレスペースを2箇所に分けて設置したり、トイレの入り口を2方向にしたりなどの工夫をするといいでしょう」
階段下を活用しながらも、明かりが入る窓を設けて快適に過ごせるようにしたトイレスペース。猫のトイレ置き場は意外とスペースが必要なうえ、ニオイの問題もある。排泄物の処理の動線なども考慮して、あらかじめ計画しておきたい。
誤飲、ケガ、トラブル防止のためにできることは?
室内で過ごす時間が長い猫のために、安全・快適に過ごせるよう配慮しておきたいいくつかのポイントを教えていただきます。
猫の誤飲を防ぐキッチン収納の工夫
「室内飼いの猫の事故で最も多いのが誤飲と誤食です。多くは下痢をするだけで命に関わることは稀ですが、大切な猫のためにしっかり対策をしておきたいものです。身軽な猫をキッチンに侵入させないことは難しいので、イタズラされると困るゴミ箱や食品庫を収納して隠してしまうのが効果的だと思います」
猫がイタズラしやすいゴミ箱や食品庫、登りやすい冷蔵庫も扉の内側に隠せば安心なうえ見た目もスッキリ。
滑りにくく弾力性のある建材を選ぶ
「上下運動が得意な猫は、2mくらいの高い場所から落下しても怪我をするようなことはまずありません。しかし、着地した先のフローリングや、足場が滑りやすいと怪我につながることがあります。フローリングや猫が使う造作の足場は滑りにくく、衝撃を緩和する弾力性のある素材を選びましょう。また、猫は家具や壁をはじめ、カーペットやタタミなどの床面でも爪とぎをしてしまうこともあるため、傷や汚れが目立ちにくい建材や、メンテナンスしやすい壁紙を選ぶといいでしょう」
木の葉型のステップには猫がすべりにくい素材を貼って転落事故を防いでいる。
猫と暮らすためのミニ・コラムユリ科の観葉植物やアロマオイルには気をつけて
「インテリアを彩る観葉植物ですが、猫にとって有害なものは約700種類あると言われています。代表的なのがユリ科の観葉植物で、誤飲すれば命に関わるため、観葉植物を置く場合は、猫に毒性がないか確認してから室内に置くようにしましょう。また、アロマオイルに使われる精油も猫にとって有害なので、猫が届かない場所にしまいましょう」
まとめ
今回は多くの猫に共通する代表的な習性や、トラブルが起こりそうなポイントをご紹介しましたが、猫の中には怖がりの子もいれば運動が苦手な子もいたりと、その個性はさまざまです。実際に家づくりを検討される際には、愛猫の性格や行動パターンを考慮した動線を設計に取り入れて、猫も人も住みやすい理想的な家づくりを目指しましょう。