「ミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)」は、毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大のデザインの祭典です。見本市会場で行われる世界最大規模の家具見本市「Salone del mobile(サローネ・デル・モービレ)」には、世界中から38万人以上が来場。同時期にミラノ市街各所で展示会やイベントが開催されました※。
今回、ミラノサローネを長年視察しているクリエイティブプロデューサー・高橋三和さんと、大和ハウス工業のインテリアコーディネーター・三瓶典子の対談が実現。最新のインテリアトレンドや、そのエッセンスを家づくりにいかに取り入れるか等について語り合いました。
※これらを総称して「Milan Design Week(ミラノ・デザイン・ウィーク)」と呼ばれていますが、日本では「ミラノサローネ」という通称が一般的です
Profile
高橋 三和さん
株式会社REMON 代表
イタリアでデザインを学び、ミラノのデザイン事務所で家具デザイナーとして活躍後、帰国。現在は株式会社REMON代表として、ブランディング、商品開発プロジェクトの企画・プロデュースに携わる。ミラノサローネには17年間通い続け、さまざまな角度からトレンドをリサーチしている。
三瓶 典子
大和ハウス工業株式会社
名古屋支社 住宅事業部 設計部 設計課主任。インテリアコーディネーターとして15年のキャリアをもち、お客さまからの信用も厚い。2019年春にミラノサローネを初めて視察。
「多様性」「環境配慮」はインテリア業界でも注目のキーワード
- 高橋さん:私がミラノサローネを初めて訪れたのが、17年前。それから毎年欠かさず視察していますが、今年はハッキリした個性的な色が前面に出てきている感じを受けました。
- 三瓶:私は今回初めての視察でしたが、青と黄の補色の組み合わせやカラフルなファブリックなど、思い切った色合わせが印象に残っています。
- 高橋さん:植物の世界を思わせるボタニカルカラーも目立ちましたね。昨年は深くスモーキーな色合いでしたが、今年はより明るく元気な感じになっています。ソファの張地のバリエーションも豊富で、特にテキスタイルの開発が進んでいることを実感しました。色や織りの表情が多彩で、ベルベット調やツイード調などが多かったのは、ファッションのレトロ志向も影響しているのだと思います。
スイスの家具メーカーVitraの展示。黄、緑、赤、ピンク、オレンジなど鮮やかな色の競演が印象的
イタリアの家具メーカーMOROSOの展示。ボタニカル柄のファブリック、植物を思わせるピンクや緑などオーガニックな雰囲気
- 三瓶:インテリアデザインにも、今の時代の気分が反映されているのでしょうね。
- 高橋さん:私は“デザイン=社会の潮流が可視化されたもの”だと考えています。たとえば色なら、不景気な時はモノトーンが流行するんですね。ただ、それが続くと今度は気分を上げるような鮮やかな色が入ってきたり。
今年のミラノサローネで、多様性を連想させるマルチカラーが目立ったのも時代の流れだと感じています。多様性の尊重は、あらゆる分野で今や欠かせないコンセプトになっていますよね。
フィンランドの家具メーカーArtekの展示。このスツールは、フィンランド産バーチ材を日本・徳島産の藍で染めたもの
- 三瓶:花や蝶の柄など、自然界のデザインを意識したものもありました。
- 高橋さん:自然と言えば、インディゴブルー、藍染めの製品が今年特に多かったですね。サステナブル、環境配慮の観点からも、今度ますます広まるのではないかと思っています。
- 三瓶:リサイクル素材の活用も目立ちましたね。ただ、完成度が高いので一見してリサイクルだと気づかないものばかりでした。
- 高橋さん:いずれもきちんと実用化・商品化されており、単なるリサイクルではなく、より価値の高いモノを生み出す“アップサイクル”が実現しています。これからリサイクル素材を活用した製品はますます増えていくでしょうね。
今回の視察では、「多様性」「環境配慮」がインテリア業界でも重要なキーワードになっていることを実感しました。
スペインのメーカーGANのリサイクルテキスタイルのカーペット(左)、アメリカの家具メーカーEMECOのリサイクルプラスチックの椅子(右)など、環境配慮型の製品も目立った
- 三瓶:日本の家具メーカーの高い技術力、特に木の加工の精巧さや繊細さにも注目が集まっていましたね。もう少し上手にアピールすれば、さらに良さが伝わるのではないかと感じました。
- 高橋さん:「樹齢100年の木を用いた製品は、100年使えるものにする」、「伐採したら次の苗木を植えて、森林を持続させる」といった、循環型のビジネスを実践している点もアピールポイントです。そのようなストーリーをもっと語るといいのではないでしょうか。尊敬されるブランドになりファンを増やすという点においても、海外のブランドはとても戦略上手ですよ。
使い手にゆだねる、自由でボーダーレスなデザイン
- 高橋さん:ライフスタイルに合わせて自由に変更可能な“モジュラーシステム”も今年注目のトレンドですね。たとえば、ユニットの組み合わせで完成させるソファは、数の増減でフォルムを変えられます。家族が増えたら家具を買い替えるのではなく、ユニットを増やして対応できるしくみです。
- 三瓶:買い替えではなく買い足しという発想はサステナブルで、環境配慮にもつながりますね。
私が注目したのは照明です。天井にダクトレールを通して、好きな位置に器具を移動したり、数を増やせるタイプのものがありました。以前は、ノイズ(邪魔なもの)だったダクトレールもデザインの一部になっていて、さすがだなと感じましたね。 - 高橋さん:かっちりとまとめるのではなく、使い方の自由度を高める。多様性に対応するために無難なものをつくるのではなく、逆に使い手にゆだねる。そんなフレキシブルな姿勢が、自由でボーダーレスな製品づくりにつながっているのでしょうね。
- 三瓶:あと、円形のテーブルも多かったですね。上座下座が固定されにくい円卓も、ある意味ボーダーレスデザインと言えるかもしれません。
イタリアの家具メーカーB&B Italiaの展示。いくつものユニットを組み合わせて、自分たちに合うスタイルのソファを実現できる
天井に配された照明用のダクトレールも、ユニークなデザインの一部となっている
円形のテーブルが目立ったのも、ボーダーレスな潮流のあらわれ?
- 高橋さん:素材の仕上げを均一にせず、偶然の産物を楽しむようなデザインもありましたね。照明の傘をすりガラスにして手づくり感を醸し出したり、テーブルの天板ガラスに腐食加工を施して一つひとつ異なる表情を楽しんだり。
- 三瓶:天然石のように、同じ柄や色が一つとしてないことがかえって魅力になるような……完璧な仕上げを求めず、自然にゆだねる姿勢を感じました。
- 高橋さん:そういう自然の産物を楽しむ余裕が、使い手側にも出てきたということでしょうね。
インテリアの土台がしっかりしていれば、冒険も楽しめる!
- 高橋さん:今回ミラノサローネを見学されて、実際のインテリアコーディネートにどのように生かせそうですか?
- 三瓶:最先端のインテリアに触れて刺激をもらい、「無難に収めるのはつまらない!」と思いましたね(笑)。家は一生ものですが、インテリアは土台がしっかりしていれば冒険も可能です。例えば、きちんとつくられた家具なら、張地や色を変えながら長く使い続けられます。最初に大胆な色を取り入れても、後からいくらでも変えることができますから。
- 高橋さん:「家を建てた時は派手な色が好きだった。10年経って、少し落ち着いた色にしたくなった」ということはありますよね。ライフステージが変わるごとに、インテリアも変化する。そして、昔の部屋の写真を見ながら「あの時代はこんな気分だったよね」と語り合うのも乙ではないでしょうか(笑)。
- 三瓶:お客さまは「一生に一度の家づくりだから」と完璧を求めて、いろいろと詰め込もうと望まれることが多いのですが、ちょっと余白を残した方がうまく付き合っていくことができるものです。クッションやラグなど冒険しやすいもので遊んでみるなど、トライアル&エラーを楽しみつつ、わが家らしさをつくっていくのもよいと思います。
- 高橋さん:以前暮らしていたイタリアでは、親やその上の代から受け継いだ家具を今の暮らしに上手に取り入れていました。新築だからとすべて買い替えるのではなく、今までの家具に合わせて少しずつ買い揃えていくのも素敵ですよ。
- 三瓶:家具も代々受け継ぎながら、家の歴史をつくっていくわけですね。今回、ヨーロッパの家具づくりの歴史の深さや層の厚さを本当に実感しました。
- 高橋さん:ミラノサローネで得たエッセンスがこれからのお仕事にどう生きるか、楽しみですね。
- 三瓶:当社にはインテリアコーディネーターが約200人おり、支社・支店ごとに話題のスポットを訪ねるツアーを組んだり、最新のトレンドを学ぶ勉強会を行っています。次々と新しいものが生まれる業界ですから、常に引き出しを増やしてお客さまへのご提案をブラッシュアップしていく姿勢が求められます。
私も今回、ミラノサローネでリアルに感じたトレンドやエッセンスを、日々のコーディネートに生かしていきたいと考えています。そして来年、またミラノサローネに行きたいですね!(笑)
※掲載の情報は2019年8月現在のものです。