新型コロナウイルス感染症を機に多くの企業が導入した自宅でのテレワーク。
近年、ワークライフバランスを実現するために働き方の多様化が進む中で、
今後もテレワークのニーズは高まることが予想されます。
プライベートな時間を過ごす住まいにおいて、
仕事空間を共存させて効率良く働くには設計の工夫が必要です。
大和ハウス工業のハウジングマイスター(社内認定)として空間設計を担当する藤井麻貴子が、
テレワークの効率を高める家づくりをナビゲートします。
数多くの物件を手がける中で採用したアイデアや、
テレワークに適した自邸を建てる過程で得た気付きについて、前・後編でご紹介します。
Profile
大和ハウス工業株式会社
福岡支社 住宅事業部 設計課 主任技術者
藤井 麻貴子
一級建築士、インテリアプランナー、ハウジングマイスター(社内認定)
日常生活の動作を効率良く行い、少しでも多くのお客さまにご自身の時間を持っていただくために「楽に暮らせる家」を家づくりの基本と考えている。社内コンペにおいて「テレワーク」をテーマに奨励賞を受賞した経験を持つ。
職種・仕事の内容別に
最適な作業環境や必要なものを考えてみる
新型コロナウイルス感染症の外出自粛に伴うテレワークでは、急きょダイニングテーブルにノートパソコンを広げて仕事をしていた方も少なくなかったかもしれません。作業に適したワークスペースを設計の段階から計画しておけば仕事の効率はさらに高められるはずです。まずは、ワークスペースの条件をリストアップしてみましょう。
どんな職種でも共通して必要なもの
デスクと椅子
まず何よりも必要なのは、作業に応じた大きさ・高さのデスクと椅子。パソコンや書類、文房具に計算機、タブレット、場合によってはプリンターやスキャナーなどの大型機器など、自分にとって使用頻度の高い仕事道具を過不足なく置けるデスクが理想です。しかし生活空間である住宅においてワークスペースは優先度が低いため、手狭になってしまいがち。市販のデスクだとちょうどいい寸法のものがなく、無駄にデッドスペースが生まれてしまうことも。空間に合わせた造作デスクのほうが、結果的にスペースを無駄なく使えるのでおすすめです。
収納棚
生活空間に仕事道具や書類が侵食してこないよう収納棚は必須。しまうものの種類やサイズに合わせた収納棚をつくって、毎日の片付けが苦にならないようにしておきましょう。
電源・配線計画
パソコンや電話、Wi-Fiルーター、プリンタなどに必要な電源と、充電器の置き場所も事前に決めておけばスマートです。また、コード類がむき出しだと引っかかって危険な上に掃除もしにくくなってしまうので、これらが目立たないような配線計画も必要です。
その他、休憩中にリフレッシュできるよう、外の風景を眺められる小窓を設けておくのもおすすめ。自然光を取り入れると作業中の目の疲れも軽減されます。
さらに、職種別に必要となりそうな要素も以下に挙げてみます。
書類が多い職種
個人情報が書かれた書類や重要な書類を扱う職種では、家庭内の私物と混在させない対策が必須。書類の量に合わせた大容量の収納に加えて、セキュリティーに配慮したクローズドタイプの個室も必要となります。
電話対応・オンライン会議が多い職種(営業職など)
大事な顧客への電話対応・オンライン会議が多い職種では、音の問題や映り込む背景に配慮が必要。理想はクローズドタイプの個室ですが、難しい場合はご家族が過ごす空間から離れた静かな場所を選び、他の部屋との位置関係や背景のインテリアを工夫することでも解決できます。
デスクトップパソコンを扱う職種
(クリエイターなど)
ワークスペースには通常、奥行き45〜50cmの造作デスクをご提案することが多いですが、デスクトップパソコンを設置するなら最低でも60cmは必要。奥行きが取れない場合は、その分デスクの幅を広げる方法もあります。
さらに、グラフィックデザインなどを見比べるときや思い浮かんだイメージをどんどん書き出して俯瞰して眺めたいときなど、仕事の成果物やアイデアメモなどをペタペタ貼るためのディスプレーコーナーがデスクまわりにあると、より思索が深まるかもしれません。
自邸のテレワーク環境をご紹介。
3つの小部屋で個々に仕事や勉強に集中
一例として、私(藤井)の自宅のワークスペースをご紹介します。同じ大和ハウス工業の設計士である夫、息子と3人で暮らす自宅は、海に面した建坪約30坪のコンパクトなサイズです。限られた空間を有効活用するため、さまざまな用途に対応する3畳のタタミスペースを3ヵ所けています。どの部屋にも造作の座卓と収納スペースを設け、家具は置いていません。
1階に1ヵ所、2階に2ヵ所の計3ヵ所のタタミスペースを設けた。1階は藤井、2階の左側は夫、右側は子どもが使用している。
ステイホーム中にはこの3つのスペースで夫婦それぞれがテレワーク、さらに休校中の子どもが家庭学習をしていました。夫は2階、私は1階と離れることで、オンライン会議や電話応対が重なったときの音の問題もクリアできました。
「コンパクトでも開放的な家」がコンセプトなので各部屋に扉は設けていませんが、これによって家族の気配は感じられつつ、適度な距離感が保たれるので仕事がはかどります。
タタミスペースにしてあるのには理由があります。仕事柄、大きな設計図面を広げながらパソコンで作業をすることが多いですが、大型デスクを自宅に置くのは現実的ではなく、タタミに図面を広げてパソコンを座卓で操作するのが最も効率がいいのです。
大きな窓から海が望める夫のワークスペース。入口はロールスクリーンで仕切ることができるが開放的なほうが好みなので開けて作業している。写真では廊下を挟んだ手前側に子どもの学習スペースがある。
収納を工夫すればワークスペースが
さまざまな用途に使える空間に変化する
私が仕事をしている1階のタタミスペースは子どものプレイルームを兼ねています。仕事道具や子どもの遊び道具は奥の収納棚に整理整頓して片付けます。収納に扉を設けずロールスクリーンを採用しているのは、「扉を開ける」というプラスワンの手間を省くことで、子どもに片付けの習慣を身につけてもらうため。また、座卓の背面に収納棚がくる配置なので、仕事で使うときはロールスクリーンを下ろせば、すっきりとしたオンライン会議の背景になる仕組みです。
左:1階リビング横のタタミスペース。
右:奥のロールスクリーンを上げると収納棚が出現。上げたままでも雑然としないよう、ラベリングした市販のボックスですっきり整頓。
間取りの都合で専用のワークスペースを持つのが難しい場合でも、収納の工夫を施せば、ワークスペースや子どものプレイルーム、来客用寝室、家事室とフレキシブルに変化させることができる一例です。
造り込みすぎず、余白を持たせることも時には有効
ステイホーム中、実際に自宅でテレワークをしてみて新たな発見がありました。通常の照明ではオンライン会議で顔に影がかかってしまったり、資料をスマートフォンで撮影するときに暗すぎるなどの不便さがありましたが、この問題を解決するには角度を自由に調整できるクリップ型のスポットライトが役立ちました。造作デスクを計画するときには、こうした補助照明を上部に取り付けられる場所や配線計画を考えておくことをおすすめしたいです。
デスクまわり。机上を照らす照明器具の電源の位置は計画しておきたい。
また、お客さまのワークスペースをデザインする際、「市販の可動式の書類ワゴンを使いたい」という声もよくお聞きします。場合に応じて自在に移動できる収納を併用することで作業効率が高まります。
このように、すべて造作にこだわるのではなく可動式のアイテムも柔軟に取り入れると、より使い勝手のいいワークスペースに仕上げることが可能です。ただし、足元にワゴン収納を置く場合、デスク下には作業者の足とワゴン収納が入る余裕をあけておかねばならず、あらかじめ設計段階でも配慮しておく必要があるでしょう。
まとめ
生産性の高いワークスペースをつくるには、普段どんなシチュエーションで働いているのか、作業に必要なスペースはどれくらいで、どのような仕事動線なのかをできるだけ細かく想像することが重要と言えそうです。
後編ではもう一歩踏み込み、仕事空間と生活空間の距離感について考えます。テレワークをしていると、仕事の合間をぬって家族の世話をしたり、家事をこなしたりといった状況になることもあります。「職」と「住」が共存する住宅とはどのようなものなのでしょうか?こちらよりご覧ください。