住宅にはさまざまなテイストがありますが、木の質感を生かした住まいには根強い人気があります。
床や天井、ドアなどの建具に木を使ったり、木製家具をコーディネートしたり、
ほっと安らげる心地よさは他の素材では得られないもの。
今回は、内装や家具に使われる木の特徴や、知っておきたい注意点など、
木の魅力を生かした住まいづくりについて、建築家の佐川旭さんにお伺いしました。
身体で心地よさを感じられる、木を生かした住まいの魅力
木が使われた空間で過ごすと心が安らぐ、気持ちが落ち着くというイメージがありますが、これには科学的に説明できる理由があります。
理由の一つは、光の反射率が低く目に与える刺激が少ないということ。内装材の反射率を比較すると、白のペイントは75%、ビニールクロスは40%~60%ですが、木材は10%~50%程度。あまり意識されていませんが、自然素材ならではの目にやさしい特性がリラックス効果を生んでいます。
もう一つの理由は、香り成分のフィトンチッドにあります。樹木が虫や細菌から自分を守るために発散しているのですが、森林浴をしたときに空気の清々しさを感じられるのはこの成分によるものです。ストレスを緩和してリフレッシュできるほか、消臭、脱臭、抗菌、防虫などの働きがあることが知られています。
また、木材は年数を経るごとに味わいが出てくるのも魅力です。時間の経過とともに建物は古くなっていきますが、自然素材の木は色や質感が変化していく経年美を楽しめます。傷や小さなひび割れなどが発生することもありますが、それが必ずしもマイナスにならず魅力と感じられます。
温もりの感じられる手触りも木ならではのもの。床やドアなどは、身体が触れるたびに、やさしい心地よさを感じられるでしょう。現在は、木目調のシートなど、ぱっと見ただけでは本物そっくりに見える素材も登場しています。しかし、本物の木だからこそ感じられる特徴が、実はいろいろとあるのです。
木の種類や、加工法の違いなどの基本知識
日本の住まいで、よく使われてきた木
木には針葉樹と広葉樹があり、木材にしたときの使用法や、質感から受ける印象が異なります。ケヤキやナラ、クリ、サクラなどの広葉樹は重厚感があり、硬くて丈夫です。傷つきにくいため、床などの内装材としても使われています。また、同じく広葉樹のタモはドア枠などの建具や家具に使われています。
針葉樹にはヒノキやスギ、マツ、ヒバなどがあり、古くから日本建築で使われてきました。見た目にもやわらかさが感じられ、独特の表情を見せるのですが、加工しやすい一方で傷がつきやすいというデメリットもあります。床に針葉樹を使うのは、室内では靴を履かない日本らしいところかもしれません。
高級感を演出する、世界三大銘木
ウォールナット、マホガニー、チークの3種類の木は、世界三大銘木と呼ばれています。いずれも非常に丈夫で重厚感があるため、住宅だけでなく宮殿や寺院などの歴史的建築物、豪華客船などに多く使われてきました。その見事な美しさで見る人の心を惹きつけます。
三大銘木はいずれも海外から輸入される木材です。マホガニー、チークは輸出入が制限されているため、建物に使用することは難しいかもしれませんが、以前輸入されたものを加工した状態で入手できることもあります。また、昔つくられたアンティーク家具などを購入して楽しむことは今後も可能でしょう。
木の加工の仕方による分類
木は自然素材のため、温度や湿度などの影響を受けて変形することがありますが、加工をした木材を組み合わせて使うことで、強度を高め、見た目を美しく整えることができます。それぞれの種類や特徴について解説します。
無垢材:原木から切り出したままで使用される木材。美しい見た目や、その本来の質感を楽しめるのが特徴です。他の木材と比較して、強度や傷つきやすさ、価格面でデメリットがありますが、経年変化による味わいを感じられます。
集成材:小さく切った木材同士を圧着させたもの。大きさや形を調整できるほか、木材を組み合わせることで木の強度を上げて、品質を安定させることができます。湿度などによる変形、変化が起こりにくいというメリットがあります。
合板:薄くスライスした板を接着剤で貼り合わせたもの。反りや割れが生じにくく丈夫でコストを抑えられ、資源の活用にも役立っています。集成材や合板は接着剤を使用しているため、以前はアレルギーの問題がありましたが、現在は規制されていますので、ほとんど問題はありません。
突板:木材を刃物で0.2~0.5mmほどに薄くそぎ取ったもの。大根のかつらむきのようなイメージです。見た目が美しい木材からつくられたものは、合板などに接着することで表面を美しく整える用途に使われます。
適材適所で木を生かし、快適に暮らせる住まいに
木の住まいは、どこに何の木を、どれだけ使うかがポイント。「適材適所」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、実は建築現場での木材の使い分けから生まれたものです。
耐久性や手触りのよさなど、場所や役割に合わせて木を選ぶ
生活の場となる住まいでは、注意していても床に物を落としたり、壁や建具を傷つけたりしてしまうことがあります。無垢材の床は美しい質感が魅力ですが、その特性上、傷がつくことは避けられません。また、自然の木をそのまま使っているため、時には反りや木の伸縮が生じることもあります。そのような変化を含めて風合いを楽しめる方に向いています。
好みの木の質感や色合いを取り入れつつ、安定した品質の床を希望する場合は、突板のフローリングがよいでしょう。反りやひび割れの心配がほとんどなく、床暖房を使用できるタイプもあり、費用的にもリーズナブルです。優れた品質の突板もあり、特に近年は種類も豊富で良質なものが多く出回るようになりました。
床は、壁や天井より目に入ってくる面積が多くなるため、インテリアの印象を決める大切な要素となります。そのため、どんな種類の木を床に使うかはとても重要。しかし、コストや暮らしやすさを考慮すると、すべての床を無垢材にする必要はないかもしれません。家族団らんの場となるリビングなど、長い時間を過ごす部屋の床に無垢材を使用し、そのほかは突板とするなど、メリハリをつけたほうがよいでしょう。
また、床以外で木を広い面積で使うのにおすすめなのが天井です。人の手が触れることがなく、汚れにくいため、ワックスがけなどのお手入れの必要もありません。どこかの天井に経年変化を楽しめる無垢材をワンポイントで使用するだけで、住まいに安らぎ感と重厚感を醸し出してくれます。
室内の40%以下を目安に木を使い、種類に統一感を持たせる
木には人をリラックスさせる効果がある一方で、室内に使われる木の面積が多すぎると、逆に落ち着かない気分になってしまうといわれています。木目や節など、木の細かな模様がたくさん目に入ってくると、視覚的に疲れてしまうのがその原因のようです。
床や天井、壁など、室内で木を使う面積は40%以下程度に抑えるとよいでしょう。また、種類の異なる木を混ぜると統一感がなくなってしまいますので、ナチュラル、和モダン、ヴィンテージなどインテリアのテイストや、コーディネートしたい家具に合わせて、木の種類や色合いが調和するようにします。
床がインテリアの印象を決める重要な要素とお伝えしたとおり、まずは床にどんな種類の木を使うかを決め、その次に壁の素材や色、サッシや建具などを決めていくとよいでしょう。その際に大切になるのが、それぞれの要素の質感をそろえることです。
たとえば、無垢材の床に一番美しく調和する、珪藻土の塗壁がおすすめですが、それは艶消しの質感と光の反射率が近いからです。無垢材の床に、ビニールクロスの壁が組み合わされているのを想像してみてください。無機質で人工的な壁紙では、せっかくの有機質な無垢材と調和がとれなくなってしまうこともあるのです。
木の家具や雑貨をインテリアの効果的なアクセントに
欧米では、アンティーク家具をずっと大事に、家族で受け継いでいく文化があるようです。そういった存在感のある家具を部屋の中に置くことで、上質な雰囲気を効果的に演出できます。彫刻や人形、絵の額縁など、小さな雑貨もインテリアのポイントとしてぜひ活用してみてください。
たとえば、「日本の骨董(こっとう)家具が似合う、モダンな和の空間にしたい」という思いを出発点にして、木の種類や色合いを選んで、部屋全体のインテリアをコーディネートするという方法もあります。
理想を具現化するため、専門家のサポートを受ける
最近はSNSなどで住まいづくりについての発信が多くあり、かなり細かい情報までインターネット上で簡単に手に入れることができます。知識を得ること自体はよいのですが、情報がたくさんあるぶん、いざ自分の住まいをつくろうと思ったときに、迷うことが多くなっているかもしれません。
情報過多になりがちだからこそ、住まいづくりの専門家である設計士やインテリアコーディネーターの力を上手に借りられるとよいでしょう。「人が大勢集まるならリビングの天井はこれくらいの高さが心地よい」「毎日忙しくても会話ができるようリビングに階段を」など、暮らしに合った住まいの全体像について提案を受けられます。
自然の木を生かした住まいの場合は、時間の経過とともにメンテナンスが必要になる可能性があるため、専門的な知識のある人のサポートが特に大切です。住まいは完成時がゴールではなく、そこから数十年にわたる暮らしのスタートとなります。家を建てた会社が、かかりつけのお医者さんのような存在として長期間サポートできる状態が理想です。
営業担当、設計担当とインテリアコーディネーターなどが連携し、理想の住まいづくりをチームでサポートしているのがダイワハウス。インテリアコーディネーターの中で優れたスキルを持つ「エクセレント インテリアコーディネーター」など、住まい手のニーズに応じてスタッフの力を借りることができます。
長期保証制度や、定期点検、診断サービスのほか、突然の不具合が発生したときにダイワハウスサポートデスクが24時間365日対応する体制も整っています。
住まいに関する相談や困りごと以外にも、暮らしの変化に合わせたリフォームやリノベーションのプラン提案など、住まいと暮らしをサポートし続ける仕組みがそろっています。
まとめ
今回の記事では、木の魅力を生かす住まいづくりについてお伝えしました。木には自然素材ならではの優れた特徴があり、安らぎを与えてくれる独特の美しさがあります。実際に、どのように木を取り入れるかを決めるのは、専門知識が求められる部分もあります。ぜひ、専門家の知識やセンスを参考にして、自分たちだけの住まいづくりを楽しむことをおすすめします。
PROFILE
一級建築士 インテリアプランナー
佐川 旭さん
1951年福島県生まれ。(株)佐川旭建築研究所 代表取締役
用と美を兼ね備えた作品を得意としている。住宅(これまで200軒以上を設計)、街づくり、公共建築などを中心に講演・雑誌執筆活動をする傍らテレビにも出演。