賀茂川の絶景を背に、次作の制作に励む中川さん(左)と亀山さん(右)。
アトリエにはさまざまなオブジェやワークショップで作った作品が飾られている
ご夫妻で絵本やイラストレーションの制作を手掛けるユニット、tupera tupera(ツペラ ツペラ)。
東京から京都へ拠点を移して約1年が経とうとしています。自然体で創作にのぞむお二人に、
家づくりと作品づくりのこと、そして子育てについてお話をうかがいました。
切り絵などの手法を使った絵本づくりやプロダクトデザイン、日本各地でイベント・テレビや空間のアートディレクションなど、幅広い分野で活躍する絵本作家ツペラ ツペラ。亀山達矢さん・中川敦子さんというご夫妻で活動しています。代表作の絵本『かおノート』や、アートディレクションを担当したNHK・Eテレの子ども向け番組「ノージーのひらめき工房」などでご存知の方も多いのではないでしょうか。
美大の予備校時代に東京で出会い、大学時代を経て2002年からユニットとして活動してきたご夫妻。昨年、家族の生活の場と、創作の拠点を関西に移しました。4年前から土地を探し始め、東京や神戸などさまざまな街を訪れては検討し、たどり着いたのは京都・賀茂川沿いの土地。風にそよぐ緑と川の景色の美しさに惚れ込み、「この眺めのためだけに、ここに決めました」と亀山さん。友人の建築家3人に設計を依頼し、ご夫妻からもアイデアを出し合って、アトリエ兼住居を建築しました。
1階と2階を使い分けるプランニングは、仕事関係の来客が多いことを前提にしたもの。賀茂川の絶景をのぞむ2階にはアトリエ兼打ち合わせ室を設けました。主に家族の生活や親しい友人のもてなしに使うキッチン、リビング、ダイニング、そして主寝室は1階にレイアウト。階段を上り下りすればオンとオフを切り替えることができ、夜でもふと思いついたときに作業ができる便利さがあります。
「人が訪れやすい家にしたかったんです」と中川さん。さまざまな人との出会いや他分野とのコラボレーションをきっかけにして面白いアイデアが生まれ、ツペラツペラの世界が広がってきたのだから、という想いがそこにはあります。
意図した訳ではありませんでしたが、振り返れば今年は活動を始めて15年の節目。視界の開けた川のそばの土地で、ご夫妻と2人の子どもたちの暮らしが始まっています。
絵本や雑貨など、ツペラ ツペラの作品のみを飾るギャラリー
ツペラ ツペラの創作活動は、絵と文章を分業するなど担当が分かれている訳ではなく、やりたい方がやりたいことをやるという自由なスタイルです。瞬間的に何かを作り上げたり、アイデアを生み出したりするのが得意な亀山さん。一方、中川さんはじっくりと長い時間をかけて一つのことに取り組み、練り上げていくのが得意です。それぞれの特徴を生かして、二人三脚で創作活動を行っています。
アトリエには、飾りのない白いテーブルが二つ。朝起きてアトリエに入ると、このテーブルの上には何もない状態になっています。今日一日の仕事をテーブルに広げ、黙々と、時には二人で作品について話し合いながら進めていきます。
ギャラリーには不思議な生き物のオブジェや、NHK・Eテレのキャラクターが並ぶ
「色をたくさん使う作風なので、アトリエはシンプルな内装にしたかったんですよ」と亀山さん。グレーの壁面には制作中の作品のアイデアやメモなどがマグネットで貼られています。またアトリエ内のギャラリーには、これまでに世に出した絵本やグッズなどがずらりと並び、ツペラ ツペラの世界を一望することができます。
引っ越しにあたって特注したというマップケースには、二人の財産とも言える、さまざまな色や模様の紙がぎっしり。切り絵の素材として使うために収集しているものです。「絵作りをしていて、なかなかしっくりくる紙が決まらないのは調子が悪い時。調子がいい時は、使いたいと思う紙がすぐ見つかるんですよ」と中川さんが舞台裏のお話も聞かせてくれました。
特注でつくったマップケースの中には、使いかけの紙がいっぱい
アトリエではかすかな音量でFM局の音楽が流れ、賀茂川に面したワイドな窓からはきらきら光る水面や風に揺れる木々、羽を休める野鳥の姿やジョギングする人々の姿を眺めることができます。天井ではサーキュレーターが静かにくるくると回り、心地良い環境をつくっています。
「ぼんやりと川の流れを見ていると、心穏やかな時間が過ぎていきます。仕事をするのも忘れそうですよ」と亀山さん。創作に集中できる環境でありながら、休息を必要とする時には頭をからっぽにすることもできる空間です。
ギャラリーの裏手には、「ごろ寝スペース」と二人が呼んでいるロフトがあります。創作の合間に、人工芝を貼った床に寝転んだり、体育座りをしたり。めったに使うことはないそうですが、こうした遊びの空間を備えていることが、アトリエにゆとりの空気感をもたらしているのかもしれません。
床に人工芝を貼った「ごろ寝スペース」。天井からはモビールが揺らめく
さまざまな仕事を手掛けるツペラ ツペラですが、絵本の創作はもっとも時間と集中力を要するのだそうです。いい加減な作品を作りたくないからと、物語のタネをじっくり温め、しっかりストーリーを練り、たっぷり時間をとって絵作りをする。二人が大切にしてきた絵本づくりのルールです。
15周年を振り返る巡回展の準備や家づくり計画、引っ越しなど忙しかった時期を経て、「これからは腰を据えて絵本づくりに取り組む時間を持てそうです」と語る中川さんでした。
次作『かぜビューン』の制作の様子。下絵に合わせて紙を丁寧に切り、レイアウトしていく
忙しい創作活動に加えて、ワークショップにも積極的に取り組んでいるツペラ ツペラ。主に担当しているのは瞬発力に長けた亀山さんで、週末になると日本各地のさまざまな会場に出かけ、地元の図書館などが主催するワークショップで壇上に立ちます。
亀山さんのワークショップの信条は二つあります。一つは万全の準備を整えること。必ずイベント前日から現地に入って、他のスタッフとともに周到な用意をします。もう一つは「教えない」こと。子どもが自分で考えて真剣に作っているところを邪魔したくない、教えることで可能性を縮めてしまいたくないという想いがあります。
「僕自身も将来のことを計画したり、目標を立てたりするのが苦手なんですよ」という亀山さん。自然体で無理をせず、肩ひじを張らずに仕事をする。そんな力の抜け方が、子どもや大人の心をつかむ楽しさいっぱいの作品を生み出しているのかもしれません。
自然体のスタイルは、ご自身の子育て方針にも垣間見えます。10歳の長女、5歳の長男に対して、勉強も何も強制せずのびのびと育てているお二人。子どもたちもママとパパが楽しそうに働いている様子を生活のすぐそばで見て、お絵かきや工作を身近に感じているようです。
新居のリビングや階段横のニッチなど、いたるところに設けられた展示スペースには、ツペラ ツペラの作品の他、子どもたちの作品や、亀山さんのお父さんからプレゼントされた木のオブジェも。三世代の作品が飾られて調和している様子に、何とも言えない温かさが漂っていました。
青やオレンジなどのさし色を使ったダイニングとキッチン。左手の階段を上るとアトリエがある
二人の一日は、毎日規則正しく過ぎていきます。朝8時に長女を小学校へ送り出した後、長男を幼稚園に送っていきます。一息ついたら午前の仕事。2階に上がって気分にスイッチを入れ、アトリエで制作をスタートします。また、打ち合わせのある日は編集者らをアトリエに迎えます。
お昼は1階のキッチンで簡単に作り、集中力が途切れないようにアトリエで食事を取ります。その後、午後の仕事に取り掛かり、夕方になると長男のお迎えへ。家族がみんな揃ったら、亀山さんが「一日のうち一番の楽しみ」という夕食を取り、お風呂に入って一日が終了します。
お迎えに行くのも、食事を作るのも、夫婦どちらの担当ということはありません。仕事と同じように「できる方がやる」というスタイルが、二人にとって一番自然なようです。
仕事もプライベートも、新しい土地に移ったからといって大きく変わったというわけじゃないですよと、笑うお二人。どこに暮らしても自分たちらしくいられるのは、積み重ねてきた日々への自信なのかもしれません。これからのツペラ ツペラの歴史には、どんな楽しい未来が描かれていくのでしょうか。
リビングから数十センチ上がったところに客間を設置。入口に建具をはめれば、独立した和室としてもゲストの宿泊部屋としても活用できる
和室の建具は、突板のシートでツペラ ツペラ風アレンジ
太陽が亀山さんで、月が中川さん。二人の姿を模した人形たち
亀山さんは1976年三重県生まれ。中川さんは1978年京都府生まれ。2002年よりtupera tuperaとして活動を開始。絵本、イラストレーションを始め、工作、ワークショップ、アートディレクション、雑貨制作などさまざまな分野で幅広く活動。
《絵本》
2017年11月末発売予定
ツペラパラパラ 1 うーん、うん/ツペラパラパラ 2 こーい、こい(青幻舎)
判型/ 75mm×140mm 総ページ数/216ページ
《展覧会》
ぼくと わたしと みんなの tupera tupera 絵本の世界展
場所/ 三重県立美術館(以降、埼玉、愛知、山形、福岡を巡回)
会期 / 2018年3月17日~6月10日
2017年10月現在の情報となります。