2021年から動き出す新しい住宅政策とは?(8)人生100年時代への対応~長寿化について
公開日:2022/01/21
POINT!
・2065年頃には、人口の構成の変化に伴い、財政の収支バランスもかなり変わる
・生活様式を改善し、実質的に歳を取る=活動が停滞する期間をできるだけ短くすることは可能
今回は「人生100年時代への対応~長寿化」についてご紹介します。このテーマは、「(5)子育て世帯・高齢者世帯への対応」でもお伝えしましたが、その時は主に現役世代の方の視点から お話ししました。今回は、目標4「多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり」について、特に2022年以降、徐々に後期高齢者になっていく団塊の世代の方にクローズアップし、マクロ経済的、鳥瞰的に補足していきたいと思います。
図1:「居住者・コミュニティ」の視点
出典:国土交通省「新たな住生活基本計画の概要」
団塊の世代とは?
団塊の世代とは、大辞泉によると「昭和22~24年(1947~49)頃の第一次ベビーブーム時代に生まれた世代。他世代に比較して人数が多いところからいう」との説明があります。
人口ピラミッドで見てみても確かに大きく突出した大きさで、1990年の年齢別の人口を見ると、最も多い年齢の人口は、男女共約120万人でした。その子世代も第二次ベビーブームとなり、「団塊ジュニア」と呼ばれています。こちらも同年の年齢別の人口を見ると、最も多い年齢の人口は、男女共100万人以上でした。最近の出生数は男女ともに年間40万人なかばですから、団塊の世代はそのおよそ3 倍の方がいらっしゃる計算になります。
1990年代には、この「団塊の世代」が最も購買力が高い40代になり、また、同時に子世代である「団塊ジュニア」が大学や高校など高等教育を受ける10代後半の年齢と重なった関係で、GDPの6割を占める個人消費が旺盛となり、バブル景気につながったともいわれています(図2を参照)。
図2:人口ピラミッド 1990年
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口ピラミッド画像(1965~2065年)」より
図3:人口ピラミッド 2025年
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口ピラミッド画像(1965~2065年)」より
これから数年後にやってくる2025年の人口ピラミッド(予測)を見ると、「団塊の世代」は、多くの人に介護が必要になる後期高齢期である75歳以上となり、子世代である「団塊ジュニア」も50歳代になります。つまり、高齢化が大きな課題となります(前ページ図3を参照)。
高齢化による財政危機?!
さまざまな理由が挙げられますが、「団塊ジュニア」の次に大きな人口増加の波は現れなかったこともあり、人口減少、高齢化も大きく進むこととなりました。
この高齢化が進むことで、現状でも増加の一途をたどっている社会保障費が今後もますます大きな問題になることは容易に予想できます。
2021年度予算の国の一般会計歳出106.6兆円の内訳を見ていくと、年金、医療、介護、子ども・子育て等のための支出である「社会保障費」、国債の償還(国の借金の元本の返済)と利払いを行うための「国債費」、「地方交付税交付金」などに使われ、これらで約3/4を占めています。
図4:2021年度予算
(注)「その他」には、新型コロナウィルス感染対策予備費(4.7%(5.0兆円))が含まれる。
出典:財務省「これからの日本のために財政を考える」より
1990年度と2021年度予算の歳出を比較すると、社会保障費が大きく伸びている一方で、公共事業や教育など他の経費は横ばいとなっていますから、景気を下支えする財政政策は限界に近いと思われます。
歳入を見ると、「税収などの収入」の増加に対し、借金である「公債金」は約8倍と大幅に増加しています。これは高齢化に伴い社会保障費が増え続け、税金や借金に頼らざるを得なくなっているということです。高齢化や人口減少が明確化した2005年前後に行われた公的医療保険や介護保険、年金など社会保険関連の改正は、国家財政上でも今後の歳出増加を抑えるような方策となっています。
図5:2021年度予算(歳出と歳入)
出典:財務省「これからの日本のために財政を考える」より
財政危機(=収支バランスの悪化)は、(1)歳入が減ること、(2)歳出が増えること、(3)運用難になることから生じます。
このため、「団塊ジュニア」が90歳代になる2065年頃には、現在とは人口の構成が変わるだけでなく、財政の収支のバランスもかなり違ったものになっているはずです。
図6:人口ピラミッド 2026年
出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口ピラミッド画像(1965~2065年)」より
政府の対応は
「人生100年時代」がユーキャン新語・流行
語大賞候補にノミネートされたのが2017年。この年に男性は4人1人、女性は2人に1人が90歳まで生きると予想されています。
わが国の問題点のひとつは、人口減少と高齢化により、経済成長率が低下していることです。
本来、経済成長は、少子化を止め、人口を増やす(=量的拡大する)ことで実現します。政府は安心して子育てができる社会づくりに取り組んではいますが、まだまだ生みづらく、育てにくいと感じる方が多いのではないでしょうか。実際、時間が掛かる上、新型コロナ禍で停滞していますが、短期的には、外国人の方に移り住んでもらうという施策を打っています。
この解決方法として、経済効率を高める=費用対効果を上げることで、経済を活性化させる≒経済成長率を高めたいと考えているようです。
以下のシミュレーションをご覧下さい。
わが国では長らく、老後≒余生を経済的な不安なく送るために、現役時代に収入の一部を積立貯蓄や長期運用をするというのが、一般的な考え方として定着していました。
「人生80 年時代」の場合、20~60歳まで40年働き、その後60歳~80歳までの20年間が余生だとすると、単純に1/3≒33%貯蓄できれば問題なかったわけです。長期間の投資により高い利回りで運用できれば、この原資は少なくて済みます。
ただ、これが「人生100年時代」の場合、20~60歳まで40年働き、その後60歳~100歳までの40 年間が余生だとすると、単純に1/2=50%の貯蓄をする必要に迫られます。つまり稼ぎの半分しか使えないわけですから、いくら何でも大きすぎます。
ここからは私見ですが、仮に20~80歳まで60年間、働くことができたらどうなるでしょうか?
その後80歳~100歳までの20年間が余生だとすると、単純に1/5=25%貯蓄できれば問題ないわけです。
事実、政府は高齢者や女性の雇用促進に力を入れています。
図7:人生100年時代の収入イメージ
歳を取ることは止められません。しかし、生活様式を改善し、実質的に歳を取る=活動が停滞する期間をできるだけ短くすることは可能です。
そして、健康寿命を延伸させ、要介護期間を短期化したり、就労を促したりすることで、国の最大の支出項目である社会保障費を削減しながら、個々人の収入増加を図る。そのためには労働時間の長寿命化≒定年の廃止が不可欠で、日常生活に制限がない、五体満足に働ける「健康寿命」を延ばすことが必要です。
令和3年版「高齢社会白書」を見ると、健康寿命は、平成28(2016)年時点で男性が72.14年、女性が74.79年となっており、それぞれ平成22(2010)年と比べて男性1.72年、女性1.17年と延びており、同時期の平均寿命の延び(男性1.43年、女性0.84年)を上回っています。ちなみに、現在(令和2年)の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳です。
そもそも、現在の「65歳以上=高齢者」と決めたのは、昭和30年代です。当時、日本を含めた先進国の平均寿命が65歳だったこと、この時期に今の国民皆年金制度が誕生したことから、年金も65歳からの支給が原則となりました。ただ、それから60年近くを経た現在、平均寿命は男性で80歳代前半、女性は80歳代後半になっています。
60年という2世代分の時間軸が流れるうちに、高齢者という概念自体が変化しているように感じます。
図8:健康寿命と平均寿命の推移
出典:内閣府 令和3年「高齢社会白書」
まとめ~私たちができること
高齢化が進むことで、今後さまざまな変化が起きるでしょう。
特に、このコロナ禍の影響で、公助機能=行政の財政状況は、より厳しい状況になり、余裕がなくなりつつあります。
土地活用のメインフレームである賃貸住宅経営も、「これまでと同じように行えばよい」ではなく「個別の状況で異なる」と考え、個別に状況を確認し、常に専門家に相談できる体制を作ることが大切です。
具体的には、個別にライフプランを組み、将来の想定をしましょう。その上で、その構成要素である、「お金の健康」=ファイナンシャルプランニング(FP)を考えてみましょう。
賃貸住宅経営は、株式運用などのようにその価格自体が日々大きく変動することはないので、大きな利益を上げられませんが、長期で安定的な収入を得ることができます。
つまり、高齢化に対応しやすい運用方法です。ですから、現在お持ちの物件の特性を活かしながら、より良い方法を知る必要があります。
自宅にするのか?賃貸住宅にするのか?あるいは賃貸併用住宅などにするのか?
ただし、高齢化により経済的な問題だけでなく、適切なタイミングで意思決定できないことも起きう
るでしょう。
例えば、相続など行動を起こす適切なタイミングは、心身共に健康なうちです。総合的なノウハウを多く持った専門業者に相談をして、道筋を立てておきましょう。