2021年から動き出す新しい住宅政策とは?(2)住生活基本計画の概要と考え方(問題解決のための発想)
公開日:2021/05/31
POINT!
・住生活をめぐる課題に対応するため、国土交通省は「住生活基本計画」で「3つの視点」と「8つの目標」を定めた
・情報を集め、社会の変化に対応できるようにしておくことは賃貸住宅経営を失敗しないために有効
前回は、「2021年から動き出す新しい住宅政策とは?(1)住生活基本計画と変化する理由(現状と課題)」についてご説明しました。問題解決するためには、まず、「問題が何であるか?」正しく認識する必要があるからです。今回はその続きで、問題解決のための発想と具体的な内容についてお伝えしていきます。
問題解決のための発想!?
コロナ禍の影響もあると思いますが、最近のご相談では「先行きが見えない」という言葉をよく聞くようになりました。
20年間、非販売型の独立系FPとして活動してきて、「1歩先を読む」ためには3つの視点が必要だと感じています。
現状を正確に把握するため、高く広い視野でさまざまな方向からモノゴトを見る「鳥の目」と、逆に低い視点から詳細に相手の動きも含めてモノゴトを見る「虫の目」がまず大切です。そして、将来の方向性を確認するために“時流を読む”「魚の目」も必要です。
特に、コロナ禍により今後の政策や法改正など世の中の仕組みが大きく変わる、変わらざるを得ないタイミングで、このような情報を先回りして収集することが、自分の身を守る意味からも大切です。適切な情報を一歩先読みし、先に行動できるよう環境を整備しておくことは、賃貸住宅経営を失敗しないためにも有効です。
2021年3月に閣議決定された住生活基本計画(国土交通省)では、「3つの視点」から、具体的に「8つの(政策)目標」を定め、総合的に推進政策を動かそうとしています。
- 国土交通省「新たな住生活基本計画」 における「3つの視点」と「8つの目標」
- (1)「社会環境の変化」の視点
目標1 新たな日常、DXの推進等
目標2 安全な住宅・住宅地の形成等 - (2)「居住者・コミュニティ」の視点
目標3 子どもを産み育てやすい住まい
目標4 高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ等
目標5 セーフティネット機能の整備 - (3)「住宅ストック・産業」の視点
目標6 住宅循環システムの構築等
目標7 空き家の管理・除却・利活用
目標8 住生活産業の発展
出典:「新たな住生活基本計画の概要」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001392036.pdf)より加工して作成
3つの視点とは?
前回の住生活基本計画から視点=着目点を分け、具体的な目標=ゴール設定をしています。具体的に3つの視点とは、(1)「社会環境の変化」の視点、(2)「居住者・コミュニティ」の視点、(3)「住宅ストック・産業」の視点です。問題解決の目指すべき方向性を私たちにわかりやすく示すために、「スタート」である立ち位置を示しているということです。
問題解決のために3つの視点からヒントを得ようという試みは意外と多く、今回の計画では、まさに(1)「社会環境の変化」≒カネ、(2)「居住者・コミュニティ」=ヒト、(3)「住宅ストック・産業」=モノ、順番は違いますが、「ヒト・モノ・カネ」という要素別の視点で目標立てをしたように思われます。
具体的な8つの(政策)目標
先ほどの3つの視点がスタートラインであれば、この目標は「ゴール」ということになります。具体的に以下のような8つの(政策)目標を掲げています。
まず、「社会環境の変化」からの視点として
- 目標1 新たな日常、DXの推進等
- 目標2 安全な住宅・住宅地の形成等
という2つの目標を掲げています。
第4次産業革命といわれるITを中心とした技術革新が進むなか、上手にそれらの技術を生活に取り込もうという新しい流れと共に災害対策などを意識した対応になります。
次に「居住者・コミュニティ」からの視点として
- 目標3 子どもを産み育てやすい住まい
- 目標4 高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ等
- 目標5 セーフティネット機能の整備
とという3つの目標を掲げています。
前回の住生活基本計画で、社会保険と同じように、高齢者中心の対応から子育て世帯も含めた多世代型の生活配慮者への対応にシフトしています。その流れの中で、賃貸住宅の整備や管理についても対応が言及されました。
最後に「住宅ストック・産業」からの視点として
- 目標6 住宅循環システムの構築等
- 目標7 空き家の管理・除却・利活用
- 目標8 住生活産業の発展
という3つの目標を掲げています。
中古=既存住宅に関する流通や管理の環境整備、住宅の長寿命化に向けた対応、環境問題や空き家に関する諸問題などの問題解決に向けた施策が打たれる予定です。
掲げられた成果目標は?
「世間には大志を抱きながら大志におぼれて、何一つできない人がいる。言うことは立派だが、実行が伴わない。世の失敗者には、とかくこういう人が多い」とは、鎌倉幕府第8代執権北条時宗の格言です。いくらより良いことを思い、行動しようとしても、そもそも実現する可能性が低ければ、絵に描いた餅になってしまいます。
21世紀に入り、人口減少&高齢社会になり、効率性が求められる社会になっています。行政も単にスローガン的な計画を立てるわけではなく、実現可能性を考慮して計画を立て、実行しています。そのために、統計上の成果目標も定めています。
参照:住生活基本計画(全国計画)における成果指標(国土交通省)
例を挙げると、目標2『安全な住宅・住宅地の形成等』では、2018年(平成30年)で13%ある「耐震基準(昭和56年基準)が求める耐震性を有しない住宅ストックの比率」を2030年(令和12年)にはおおむね解消させると明言しています。そのための方法は、耐震基準を満たす住宅に(1)補修するか(2)建て替えるかのどちらかになるはずです。現時点で耐震基準を満たしていない賃貸住宅をお持ちのオーナー様は選択を迫られることになりそうです。
また、目標3『子どもを産み育てやすい住まい』では、2018年(平成30年)で約1割だった「民間賃貸住宅のうち、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅の割合」を、2030年(令和12年)には2割にする目標を掲げています。大きな政策目標ではありませんが、昨年2020年の最初の緊急事態宣言時に自粛生活を強いられた際、最もクレームが多かったのは遮音性と通信機能の問題といわれていました。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、「新たな日常」に対応した生活様式や働き方への転換を迫られるなか、オーナーとしても積極的な改善が求められることを意識しましょう。
次回から詳細な内容をご説明していきます。