相続税・贈与税の基本(3)土地活用による相続対策
公開日:2023/12/26
不動産の評価額は、その土地がどのように活用されているかによって大きく変わってきます。ここでは、不動産の活用方法による相続税についてご紹介します。
賃貸住宅を建築した場合の評価減効果
自用地の上に賃貸住宅を建てたときに相続対策として効果があるのは、建物の評価引下げ効果と土地の貸家建付地による減額の2つの効果があるからです。
例えば、現金1億円と、更地で評価額1億円の土地を所有していたとします。この状態で相続が発生すると、相続財産の評価額の合計は2億円です。
ところが、借地権割合60%の地域の土地に現金1億円で賃貸住宅を建築すると、建物の評価額と土地の評価額の合計で約1億2,400万円になります。建物の相続税評価は固定資産税評価額で評価することになっており、建築した直後でもおおよそ建築価額の60%前後(※)になります。その評価額から、建物を第三者に賃貸しますので「借家権割合30%×賃貸割合」が控除されます。つまり、おおよそ建築価額の「60%×(1-30%×100%)=42%」程度まで評価額が下がるのです。
また、第三者に賃貸している建物が建っている土地の評価は貸家建付地として、その地域の「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」の分だけ評価額から控除することになっています。借地権割合が60%の地域の場合には、「60%×30%×100%=18%」が土地の自用地価額から控除されます。
- ※実際にはケースによって異なります。
図1:賃貸住宅を取得したときの評価引き下げ効果
建物の所有を目的として他人に土地を貸すと、相手に借地権が発生します。一方、建物を建ててこれを他人に賃貸すると、借りた側には借家権が発生し、下図のように評価することになります。借地権割合は地域によって異なりますので、評価減額の目安は次のようになります。
図2:賃貸住宅を取得したときの評価引き下げ効果
土地所有者の所得が大きい場合
上記で紹介した評価減額は土地所有者本人が賃貸住宅を建築し賃貸した場合に成立しますので、相続対策としては土地所有者が建物を取得するべきです。しかし、土地所有者の所得が大きく、多額の所得税・住民税を納めているときは、この対策により賃貸住宅経営として収入が増加し、所得に対して高額の税金を納付しなければならないことになりかねません。所得として残った資産は、累積して将来の相続財産に加算されることになるため、相続発生までの期間が長期にわたる場合には、そのための対策が別に必要となります。
また、この対策は借入金によって実行しないと効果がないと思い込んでいる人もいますが、自己資金で実行しても借入金で実行しても評価引下げ効果は同じです。借入をすれば金利の支払いが必要になります。
自宅用地の一部転用による対策
自宅用地が広い場合、その利用の仕方によって評価額を下げることができます。角地の部分を第三者への貸駐車場にすることや、思い切って広めの敷地に賃貸住宅を建てることも考えられます。
自宅用地の一部を有効活用する
480m2の角地の自宅があり、この敷地のうち300m2に貸家を建てて賃貸住宅経営を始めたとします。そうすると全体が1つの評価単位だったものが、2つの利用単位として別々の評価単位になります。全体の評価額が1億4,328万円だったものが、利用形態の変更後は2つの評価額の合計で1億3,635万円となり、693万円評価額が下がります。さらに、賃貸開始後は賃貸住宅の敷地は貸家建付地になり、評価額が1,660.5万円も下がり、全体としては2,353.5万円も評価額が下がることになります。もちろん、賃貸住宅を取得することによる建物の評価引下げ効果は通常と同じようにあります。
図3:自宅用地の一部賃貸住宅への転用
特定居住用宅地等の特例の適用を受けられる場合は注意が必要
小規模宅地等の特例の適用面積は、特定居住用宅地等については最大330m2です。特定居住用宅地等の特例の適用を受けることができる場合には、この対策をとらないほうが特例適用後の評価額が低くなる場合も考えられます。
例えば、特定居住用宅地等の小規模宅地等の特例の適用を受けることができる330m2を残し、30万円の路線価の側の150m2だけ戸建貸家や青空駐車場として賃貸又はコインパーキングとすることも考えられます。青空駐車場は賃貸住宅のように貸家建付地や建物の評価引下げ効果はありません。青空駐車場の場合は収入確保と特定居住用宅地等の特例の適用を限度面積まで受けることができます。
老朽貸家の整理で納税資金確保
低い家賃で入居率も悪い老朽貸家は、相続対策としても問題です。相続開始までに整理し建て替えることができれば、相続対策と納税資金準備対策となります。
老朽貸家の悪循環
木造の老朽化した貸家は、「古いので修理がなおざりになっている」→「古くて手が入っていないので家賃が安い」→「家賃が安くて割に合わない」→「何もしない」という悪循環に陥ってしまっているケースが多いようです。
そして、この状態で相続が発生すると、「家賃が安すぎて物納は認められない」→「延納するにも家賃が少ないので困難」→「空室が多く貸家建付地割合が100%控除できないため土地の相続税評価額は高い」という悪循環となってしまいます。
簡単ではない老朽貸家の解決
悪循環に陥った老朽貸家の整理は簡単ではありません。立退料も必要ですし、入居者との交渉もしなければなりません。しかし、放っておくと結果的に更地の優良な土地を手放して相続税を払い、残ったのは厄介な収入の少ない老朽貸家と敷地だけといったことになりかねません。これらは物納が困難ですし、売却するにしても相続税評価額で売れる可能性も低いでしょう。多少時間とお金はかかりますが、土地所有者の方ができるだけ元気なうちに老朽貸家解消のプロに相談し、相続対策を行うことで、納税資金の準備もしておきたいものです。