不動産オーナーのための「2024年度 不動産関連の税制改正」
公開日:2024/02/09
不動産投資・賃貸住宅建築投資が活発になるかどうかは、金利動向や不動産市況が大きく影響します。加えて、不動産投資・賃貸住宅建築投資では、税務面の効果も合わせて考える方も多いため、税制も大きな影響をもたらします。
2015年に相続税制の改正(基礎控除額の引き下げ、小規模宅地等の特例の範囲拡大など)が行われましたが、これにより(その他、低金利政策の影響もありますが)、前年の2014年に土地活用としての賃貸住宅建築が大幅に増えたことなどは、その代表的な例です。
区分所有マンションの相続税評価額算出方法の一部変更
区分所有マンション相続税評価額と実勢価格との乖離を是正する相続税評価額の算出方法の一部変更が2024年1月から導入されます。「タワーマンションの上層階などで、実勢価格よりも相続時の相続税評価額がかなり低く評価されている状況を活用して相続税を抑える」(通称:タワマン節税)ことに対する施策と言われています。
図:相続税評価額と市場価格の乖離の実態
国税庁資料より転載
相続税評価額と市場価格の乖離は、2018年(平成30年)の時点で、マンションは2.34倍、一戸建ての平均乖離率は1.66倍でした。このようにマンションにおいて市場価格と相続税評価額が大きく乖離しているのが分かります。また、グラフ内のように、マンションの約65%で評価額が半額以下になっている状況です。
このような現状を打開するために、今後マンションに対する相続税評価額の新しいルールが施行されます。具体的には、はじめに「乖離率」(市場価格と相続税評価額がどれだけ乖離しているかを示すもの)を算出します。これが、1未満であれば相続税評価額が市場価格よりも高くなっており、「1」を超えると相続税評価額が市場価格よりも低くなっていることになります(現状のタワーマンションの場合、多くが後者に該当)。この乖離率が基準値より低い場合と、高い場合には、相続税評価額が補正されることになります。
この改正により、区分所有マンションを活用した相続税評価額の圧縮を検討する人が減る一方、分譲タイプの賃貸住宅の需要が増えることが予想されます。
不動産市場の活性化を図るための特例処置の項目
ここからは、「令和6年度 国土交通省税制改正概要」をもとに、新設・改正・延長される予定の不動産・建築に関連する税改正についてお伝えします。注:2024年1月からの通常国会の審議で変更になる可能性もあります。
令和6年度国土交通省税制改正概要(主要項目)では、第一の柱として「持続的な経済成長の実現」を挙げています。そのなかで、「不動産市場の活性化」がトップ項目に上がっています。ここでは、その主な項目を解説します。
1)土地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度の延長(固定資産税等)
土地を所有すると課せられる固定資産税ですが、以下の固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度などが令和9年まで延長されます。なお、固定資産税のベースとなる固定資産評価額は3年に1度評価替えが行われますが、2024年はその評価替えの年にあたります。
- ①負担調整措置
商業地および住宅用地について、負担水準(=前年度の課税標準額÷評価額)に応じて、課税標準額が調整されます。 - ②市町村等が一定の税負担の引下げを可能とする条例減額制度
- ③下落修正措置
固定資産税評価額は原則では、3年間据え置かれますが、地価が下落した場合などに毎年の固定資産税評価額を下落修正されます。
2)土地等に係る不動産取得税の特例措置の延長(不動産取得税)
土地の需要を喚起することにより、土地などの流動化・有効利用を促進し、経済回復を着実に進めていくため、下記の特例措置が3年間延長されます。
- ①宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準の特例措置
(具体的には1/2控除されます) - ②土地等の取得に係る不動産取得税の税率の特例措置
(特例として3%、本来は4%)。
3)工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置の延長(印紙税)
工事請負契約書、不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置が3年間延長されます。請負契約・売買契約の金額において印紙税は異なりますが、20%~50%減額されます(金額が小さな契約ほど減額が大きくなります)。
ちなみに、2022年5月18日からの宅建業法改正により、不動産売買においてオンライン契約・メールなどでの契約書授受が認められましたが、このような場合印紙税はかかりません。
住まいの質の向上・無理のない負担での住宅の確保の項目
第2の柱として「豊かな暮らしの実現と個性を活かした地域づくり」を掲げ、そのなかで「住まいの質の向上・無理のない負担で住宅の確保」を促す税制について、10の項目があげられています。そのうち、主要なものを解説します。
1)住宅ローン減税の要件は、借入限度額及び床面積要件は維持、ただし要件追加
住宅ローン減税により、所得税・個人住民税が減額されます。住宅ローン残高の0.7%分が控除されます。すでに昨年の税制改正で、2024年から一部変更が決まっていました。
例えば、長期優良住宅では、2023年までは借入限度額(住宅ローン減税対象額)は5000万円でしたが、2024年からは4500万円になります。しかし、今回の改正で、「子育て世代・若者夫婦世帯」(「19歳未満の子を有する世帯」又は「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」)については、昨年のまま5000万円分が適用されます。また、ZEH住宅は4500万円から3500万円となりますが、「子育て世帯・若者夫婦世帯」はそのままとなります。(2024年に入居する場合)
また、床面積要件は50m2以上ですが、2024年中に建築確認を取得した新築物件に関しては40m2以上となります(所得制限1000万円)。
2)住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置の延長(登録免許税の軽減)
住宅取得に係る負担の軽減、良質な住宅ストックの形成・流通の促進を図るため、住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置が3年間延長されます。
- ①所有権の保存登記について税率軽減(本来0.4%→特例0.15%)
- ②所有権の移転登記について税率軽減(本来2%→特例0.3%)
- ③抵当権の設定登記について税率軽減(本来0.4%→特例0.1%)
このような税制改正は、賃貸住宅経営への影響が少なからずありますので、ご自身の状況に当てはまりそうな場合は、税理士に相談することをおすすめします。