住宅賃料の詳細データの入手法と今後の見通し
公開日:2024/09/30
都市部における住宅賃料は、2013年ごろから少しずつ上昇していましたが、過去10年のマンション価格上昇幅に比べると、それほど大きく上昇していませんでした。しかし、ファミリータイプのマンション・賃貸住宅は2021年後半から、また主に単身世帯が住むワンルーム・コンパクトタイプのマンション・賃貸住宅の賃料も2022年以降、上昇が鮮明になってきました。また、賃料上昇基調が続くことからも分かるように、都市部における賃貸住宅の稼働率も高水準で推移しています。
詳細データが少ない住宅賃料データについて
賃貸住宅経営において、「保有する物件の各部屋はどれくらいの賃料が妥当か」を知っておくことは重要です。また、周辺地域の同種の賃貸住宅の空室率の現状についても同様です。
しかし、公表されている賃料や空室率などのデータは多くありません。特に、住宅賃料(家賃)の公的なデータは、5年に1度公表される総務省の「住宅・土地統計調査」くらいしかありません。同調査の中の「借家の家賃」という項目がそれに該当しますが、あくまでも抽出された世帯へのアンケート調査で、対象も変わります。時系列でみると、5年間は横ばい、5年後に一気に上がる(もしくは下がる)となっており、正確な状況を反映しているようには見えません。
また、マンションや賃貸住宅を管理するハウスメーカー系管理会社や賃貸住宅建築専業系管理会社、その他賃貸住宅を管理する会社が、自社で管理する物件の詳細な賃料データを公表している例は、ほぼありません。
また賃貸ポータルサイトなどでは、募集家賃は掲載されていますが成約家賃は分かりません。ワンルーム・コンパクトタイプは公募家賃=成約家賃の場合が多いですが、広いファミリータイプの物件はそうとも限らないので、正確な数字が分かりません。
シンクタンクが公表しているデータとしては、一般財団法人 日本不動産研究所が年2回、上期と下期に分けて集計・分析・公表している「住宅マーケットインデックス」があります(データはアットホーム社、ケン・コーポレーション社が提供)。ただし、この調査は東京23区のデータのみとなっています。
透明度の高いJREIT銘柄の決算資料
住宅賃料関連のデータとしては、上場している不動産ファンドであるJREITのレジデンス系銘柄のIR資料は、透明度が高く、それなりのボリュームがあるデータですので、参考になります。また、JREIT銘柄は2024年9月現在で58銘柄ありますが、上場している銘柄ですので、該当銘柄のWEBサイトを見れば、保有する資産の運用状況を、誰でも入手することができます(決算資料、資産運用報告書など)。賃料の状況、新規賃料(入れ替え時賃料)と継続賃料のUPDOWNの状況、継続賃料の賃料改定割合と各JREITが保有している施設全体の賃料に関する細かな状況を知ることができます。もちろん、空室数・空室率の状況、過去からの推移も掲載されています。 保有資産(運用資産)のほぼ100%が賃貸住宅である「レジデンス系REIT銘柄」は4つあります。また、大和ハウスリート投資法人(8984)のように、一定割合(大和ハウスリートの場合26.3%:2024年9月現在)、賃貸住宅が組み込まれているJREIT銘柄もあります。
JREITのIR資料からの都心の住宅賃料動向を読み解く
まず、賃貸住宅100%のJREI銘柄であるコンフォリア・レジデンシャル投資法人(3282)の資産運用報告書(執筆時最新は2024年7月期)によれば、入れ替え時賃料変動率は、2024年7月期では9.9%の上昇、前期2024年1月期では6.4%の上昇、前々期2023年7月期は4.6%の上昇、と徐々に上昇幅が大きくなっていることが分かります。一方、更新時賃料変動率は、2024年7月期は0.7%、2024年1月期は0.5%の上昇、前々期2023年7月期も0.5%の上昇となっています。継続賃料には上昇幅に大きな変化が見られませんが、確実に賃料は上がっていることになります。
(このREITの保有賃貸住宅は東京23区内が86.9%、部屋はほとんどがワンルームかコンパクトタイプとなっています)
また、ポートフォリオの26.3%が賃貸住宅の大和ハウスリート投資法人の資産運用報告書(執筆時最新は2024年2月期)では、保有賃貸住宅の入替時賃料は、18期連続で賃料増額となっており、月額賃料は、全体で+2,329,000円、入替前の賃料対比 で+2.5%となっています。このうち、都心主要5区では、+1,812,000円、入替前賃料対比+4.7%と記載されています。また、平均月額賃料は、坪あたり2022年2月期の11,060円から2024年2月期には11,159円となっています。
都心5区のマンション賃料
別のデータでは、先に述べた一般財団法人 日本不動産研究所「住宅マーケットインデックス」の調査結果(執筆時点最新は2024年3月公表分)を見ると、都心5区のマンション賃料は新築・中古の全タイプで上昇、また調査開始以来の最高値を更新しています。大きなサイズの部屋では、前年同期比では+1.2%(前期比ではほぼ横ばい)でしたが、標準・小型タイプでは前年同期比で+1.8%(前期比ではそれぞれ、+1.3%、+0.5%)となり調査開始以来最高値となったようです。
管理会社の情報
公表データは少ないですが、本来、管理会社は賃料などに関する詳細データを保有しています。そのため、すでに賃貸住宅を保有し、管理会社に委託しているオーナーは管理会社に詳細なデータを求めると良いでしょう。
2025年の賃料は上昇か
ここまでお伝えしたように、すでに都市部ではファミリータイプ・コンパクトタイプ・ワンルームタイプとも賃料上昇が続いています。また、地方都市でも、徐々に上昇基調となってきているようです。
とくに、単身向け物件の入れ替え年数は概ね3年程度ですから、物価上昇が2022年から始まってすでに丸2年が経過、そして2024年は3年目ということになります。消費者物価指数はまだ2%を超える(コア指数)伸びを示していますので、まだしばらく上昇が続く可能性が高いと思われます。