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マンションの長寿命化に向けた「マンション建替円滑化法」の拡充を検討
公開日:2025/01/31
老朽化マンションの急増
老朽化したマンションの増加が大きな課題となりつつあります。国土交通省によると、2013年に41万戸だった築40年以上のマンションは、2023年末には137万戸、2043年には464万戸に達すると推計されています。特に、高度経済成長期(1955年~1975年頃)に建てられた鉄筋コンクリート造のビルやマンションが築40年以上を経過し、老朽化が進行しています。
図1:築40年以上のマンション数の推移(国土交通省推計)
出典:国土交通書「令和7年度税制改正概要」(令和6年12月)
鉄筋コンクリート造の耐用年数は法律上では47年ですが、これは税務上の減価償却のために設定されたもので、実際の建物の寿命とは異なります。しかし、建替えが行われないまま経年が進むと、安全性や資産価値の低下といったさまざまな問題が懸念されます。特に耐震性能の不足や設備の老朽化は深刻な問題であり、建物自体の寿命が限界を迎えているケースも少なくありません。こうした老朽化マンションの再生を進め、都市の機能向上や安全性を確保することが急務となっています。
老朽化マンションの再生において最大の阻害要因となっているのが、費用負担の問題を中心とした区分所有者間の合意形成です。マンションの建て替えにかかる費用は区分所有者の負担となるため、たとえ建物の老朽化が進行していても、金銭的な負担を理由に建替えを望まない方も少なくありません。マンションの経年化とともに、居住者の高齢化も進み、高齢の方にとって、建替えに伴う引っ越しや建替え後の住環境の変化は大きな負担であることは想像に難くありません。また、管理組合の機能低下や資金不足も大きな課題です。修繕積立金の不足で必要な修繕が先送りされることもあり、建物の劣化がさらに進む悪循環が生じているケースもあります。
「マンション建替円滑化法」に基づくマンション建替え
マンションを建て替える際に、大きくかかわるのが「マンション建替円滑化法」です。法律による手続きで透明性が高いこと、自主管理が可能で所有権を維持できることが特徴です。
マンション建替円滑化法(正式名称:マンションの建替え等の円滑化に関する法律)は、老朽化したマンションの建替えや再生を促進するため、2002年に施行された法律です。従前、マンションの建替えは区分所有者の5分の4以上の賛成が要件とされており、反対者がいるために建替えが進まないケースが多発していました。そのため、区分所有者が建替えに合意する際の要件を緩和し、建替えに伴う手続きをスムーズにすることを目的として本法律が制定され、これにより、特定の条件を満たす場合は3分の2以上の賛成で建替えが可能となりました。
2011年の東日本大震災を受けて2014年に改正が行われ、耐震性が不足するマンションの建替えを円滑にするため、マンション敷地売却制度の創設、建替え後の容積率の緩和特例の制度が創設されました。さらに2020年の改正では、マンションの適正な維持管理、老朽化の抑制、老朽化マンションの再生に向けた取り組みを強化するため、要除却認定の対象となるマンションの条件が拡充され、団地における敷地分割制度が創設されました。
これまで二度にわたってマンション建替円滑化法の整備がされてきましたが、合意形成の困難さや莫大な費用負担、法的手続きの複雑さが依然として障壁となり、建替えや大規模修繕が必要であるにもかかわらず、なかなか進んでいないのが現状です。都市部では再開発プロジェクトと連動した建替えが進むケースもありますが、特に地方においては、採算性の問題や人口減少の影響により建替えそのものが現実的でないケースも見られます。
マンション建替えの円滑化に向けて
こうした背景から、2024年12月に公表された「令和7年税制改正」では、建替え決議の円滑化を図るため、区分所有法において、区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組みの創設が検討されることとなりました。区分所有法(正式名称:建物の区分所有等に関する法律)は、マンション法とも呼ばれ、分譲マンションなど一棟の建物の一部を所有する場合の所有権について定めた法律です。今回の改正では、建物取壊し敷地売却、建物更新(一棟リノベーション)等の仕組みが区分所有法に創設されることが見込まれています。
さらに、この区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組みに対応するため、マンション建替円滑化法において、二つの事業手続(組合設立等)の新設が検討されています。
- ・マンション取壊し敷地売却事業(仮称)
この事業では、区分所有者および議決権の一定の多数決により、老朽化したマンションの取り壊しと敷地の売却を決定し、組合を設立して事業を進めます。これにより、老朽化した建物の解体と敷地の有効活用を図ることができます。 - ・マンション更新(一棟リノベーション)事業(仮称)
この事業では、既存のマンションを取り壊さずに、一棟全体をリノベーションします。区分所有者および議決権の一定の多数決により、建物の更新を決定し、組合を設立して事業を進めます。これにより、建物の価値向上や耐久性の向上を図り、住環境の改善を目指します。
図2
出典:国土交通書「令和7年度税制改正概要」(令和6年12月)
令和6年度マンションストック長寿命化等モデル事業
今後マンションの建替えをさらに進めていくためには、区分所有者、行政、専門家が協力し、より柔軟な対応策を模索していかなければなりません。
国土交通省では、マンションの長寿命化に向けた事業前の立ち上げ準備と工事実施に対する補助制度として「令和6年度マンションストック長寿命化等モデル事業」を実施しています。これは、マンション管理の適正化、再生円滑化を進める支援制度で、事業には、マンションの長寿命化に資する新しい工法や材料、新機能の導入等を行う「先導的再生モデルタイプ」と管理水準の低いマンションが地方公共団体と協力して、管理適正化を図っていく「管理適正化モデルタイプ」の2種類があり、それぞれ計画段階から工事実施段階までの費用を補助します。
令和6年度の第2回募集では、先導的再生モデルタイプ(計画支援)6件、先導的再生モデルタイプ(改修工事支援)2件、先導的再生モデルタイプ(建替工事支援)2件、管理適正化モデルタイプ(計画支援)1件、11件の応募の中から7件が採択されました。
マンションの建て替えや再生は、単に建物の更新にとどまらず、地域コミュニティの再構築にも寄与する問題です。老朽化マンションの問題に対処することは、安全で快適な住環境を守ることでもあり、官民双方の一層の取り組みが必要とされていると言えるでしょう。