暮らしのニーズに寄り添う「壁」、暮らしを彩る存在感のある「壁」。
京都の伝統産業・友禅の型紙に端を発するキョーライトの壁材には、
長い歴史の中で培われたものづくりの魂が宿っています。
京都が生んだ新しい価値
石のようなソリッド感や凹凸感。年月を経て美しくエイジングした鉄さびの風合いや、土を高温で焼き上げたタイルのようなテクスチャー。自然の造形を思わせる質感や手触りは、住まいの壁を個性的に彩り、インテリア空間全体のグレード感を高めます。これらの壁材が伝統工芸に由来する類まれなシルクスクリーン印刷技術、立体印刷成型によってつくられるものだとは、だれが想像できるでしょうか。
「ヴィンテージストーン」という商品名を与えられたこの壁材は、現代の住まいをデザイン面と機能面の両方で支える内装用不燃化粧板として生まれました。これまでは主にサニタリースペースで用いられてきましたが、昨今のLDKのオープン化にともなって活用の範囲は大きく広がっています。キッチン、リビング・ダイニングを美しく見せる壁材として、そして本物とはまた異なる価値を有する存在として支持されています。
製造販売を手掛けるのは、株式会社キョーライト(本社:京都市)です。同社の歴史は古く、創業は1933(昭和8)年にさかのぼります。当時の社名は「佐野意匠型紙店」。創業者の佐野義男氏が郷里の伊勢で盛んだった伊勢型紙の彫刻技術を学び、その後京都で会社を興したのが始まりでした。やがて同社は京都で最大手の型紙屋へ成長します。
染織の型紙彫刻技術を応用・発展させながら、先進的な印刷技術を磨き、時代の要請に応えてきたキョーライト。伝統の街であり、新しいものを生み出す文化の中心地「京」の地名を冠した社名には、ものづくり企業の矜持が宿っています。
光を受け、オブジェや植物の影を映すヴィンテージストーン/スレートベージュの壁面。本物のタイルを思わせる質感で空間に上質感を表現します
伊勢型紙の貴重な価値を保存し続けるために
京友禅などの型染に用いられる伊勢型紙は、美濃和紙を柿渋で3枚貼り合わせ、1年以上乾燥させたものがベースになります。模様には季節の花や木々、身近な動物や竜などの空想上の動物などが繊細な筆致で刻まれます。代表的な文様を一つ挙げるなら「麻の葉」でしょう。この文様は魔除けの意味ももち、赤ちゃんのおくるみの生地や子どもの着物などにも好んで用いられてきました。
静かな存在感をたたえるヴィンテージストーン/スレートブラックの壁面
職人の手によって精魂込めて刻まれた型紙は、一点一点が芸術品のように輝きを放ちます。キョーライトが所蔵する型紙のコレクションは約1万8千点。その価値を現代に伝え、未来に生かすため、同社は立命館大学アート・リサーチセンター(立命館大学ARC)と協力してデジタルアーカイブ化しました。立命館大学ARC 型紙データベースで検索を行うと、多種多様な文様が刻まれた型紙を参照することができます。
「先人から受け継いできたものを、次の時代へ伝えたい」と語るのは、代表取締役社長の佐野聡伸氏。先代、先々代が大切に収集保存してきた型紙のコレクションは、今や同社のアイデンティティーであるばかりでなく、失われつつある日本の伝統文化を次世代に継承する歴史的資産となっています。
キョーライトが収集保存する伊勢型紙には、歴史の重々しさが漂う
革新の精神が伝統を支える
キョーライトが受け継いできたのは、型紙の技術だけではありません。伝統を生かしながら未来を切り開く進取の精神を糧に、厳しい時代の変化をいくつも乗り越えてきました。
時代とともに着物文化が下火になり、それに付随して型紙の生産量も低下の一途をたどるようになると、1955(昭和30)年、自社のシルクスクリーン印刷技術を生かした色柄の美しい住宅用建材の開発に乗り出しました。また、船舶向け内装材の分野では、多様な意匠性や耐水性、耐久性を備えた建材を開発。当時国内シェア8割に達するまでに成長しました。
型紙を使って染めた生地のサンプル帳「みけし」。みけしとは「貴人の衣服」の意味
住宅不足や職人不足に日本中があえいだ高度経済成長期、キョーライトの提供する壁材はそれらを解消する一助として、広く世に受け入れられます。高い耐久性により水回りやコンロ周りなど過酷な条件の場所での使用を認可され、同時にお手入れのしやすさによって末永く美観を保てる住宅用建材として周知されることとなりました。また、熟練の職人でなくとも簡単かつ正確に取り付けできる施工性の高さ、タイルなどに比べて現場加工が容易で扱いやすいことも人気を集めた理由でした。
多くの利点を備えたキョーライトの製品は、こうして住まいに欠かせない壁材として知られるようになったのです。
ヴィンテージストーンの工場作業風景。
基材に立体スクリーン印刷を施し、デザインパターン層を加工する
六角形の幾何学模様が並ぶ「麻の葉」の伊勢型紙
麻の葉の文様を施した壁材
クリエイターの感性を刺激する環境
キョーライトが本社を置く京都には、豊かな自然の風景があり、風雅を愛する人々の生活が息づいています。この土地が長い歴史の中で育んできた美意識は、業態が変わった現在も同社のクリエイティビティを刺激し続けています。
デザインチームの部屋には、実物の伊勢型紙や染織生地の見本帳が、すぐ手の届く場所にあります。現代のライフスタイルや住まいのトレンドにフィットする色柄やモチーフを探る時、それら古い史料の中にヒントを見つけることも珍しくありません。
例えば、前述の麻の葉の文様は、キッチンなどに用いられる内装用不燃化粧板のモチーフとして命を吹き込まれました。私たちのDNAに深く刻まれた自然を愛する感性が呼応するのでしょうか。このデザインは多くの人に愛され、現代的な暮らしの中にもしっくりと溶け込んで、飽きることのない美しさで輝き続けています。
時代の要請に応える新しい挑戦
一方で、住まいの規格変更や高性能化に合わせて変えていくものもあります。LED照明が主流になると、光源が反射するまぶしさに配慮してつや消しタイプの製品を開発。また、天井の高くなったハウスメーカーの商品に向けて大きな規格のパネルをつくったり、油跳ねや指紋などの汚れが付きにくく手入れの手間がより少ない素材を開発したりするなど、進化はとどまることがありません。
佐野氏は真摯なまなざしでこう語ります。「かけがえのない、一生に一度の住まいづくりをされる方には、本当に質の良いもの、世代を超えて愛着をもてる建材を選んでいただきたい。それが私たちの製品であるなら、これほどうれしいことはありません」
メンテナンス性や施工性に優れたヴィンテージストーンは、戸建て住宅だけでなく、近年は集合住宅や公共施設、商業施設、ホテルのエントランスなどの壁面にも重宝されるようになっています。今後は海外にも積極的に進出し、アジアをはじめとする諸外国にも質の良い住宅用建材を届けたいと考えるキョーライト。歴史を重んじながら新しい可能性を探ることは、同社の、そして日本の伝統を守り続けることに他なりません。京都に根差し、未来へ果敢に挑戦していくものづくり企業の魂がそこにあります。
特殊UV塗装により美しい光沢が備わった、ボーダータイル調の壁材(写真正面)。水回り、コンロ周りなどの過酷な環境に耐える強さは、何層もの特殊なコーティング塗装によって生み出されます。写真左手とキッチンカウンターの下部はヴィンテージストーン/モルタルダーク
PROFILE
株式会社キョーライト
代表取締役社長
佐野 聡伸氏(さの としのぶ)
2020年4月現在の情報となります。