働くお母さん(ワーママ)を対象に「子どもの家事参加」に関する意識と実態について、インターネット調査(子どもの家事参加・非参加家庭各250人、合計500人)および訪問調査を実施いたしました。
有識者からのアドバイス編
どうしたら子どもと家事がシェアできる?有識者からのアドバイス!
実は仕事と似ている?期待しすぎない、やらせる、褒める、できる環境与える、成功体験を増やす
生田倫子(いくたみちこ)さん
神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部准教授
日本家族心理学会常任理事、日本ブリーフセラピー協会理事
大学教員の傍らカウンセラーとしても活躍中。家族や会社組織の諸問題を扱う、家族心理学、家族療法、ブリーフセラピーが専門。
著書「ブリーフセラピーで切り抜ける対人トラブル即解決法」日総研発行
「実際にできる」より「自分はできる」と感じる方が、子どもは家事を楽しんで手伝える
一人で家事に向き合い孤軍奮闘の母親
まず初めに、子どもと一緒に家事をしている母親より、子どもと一緒に家事をしていない母親は、ストレスがだいぶ高いですね。一人で家事に向き合い孤軍奮闘している様子がイメージされます。体力的なストレスというよりは、「なんだか孤独だな、余裕がないな」という気持ちのストレスが、影響しているのではないでしょうか。
具体的に「各家庭の事例」を見ると、子どもに家事をさせているという母親の認識は、実際に子どもが手伝っている絶対量に比例していないことがわかります。子どもに手伝わせていないという家庭でも、よく聞いてみると「それは結構手伝っているのでは?」と思える回答もあり、全くやっていないわけではないようですね。
「実際にできる」より「自分はできる」と感じる方が、子どもは家事を手伝える
心理学に「Narrative Story(ナラティブ・ストーリー)」という概念があります。これは、認識というものは「実際どうか」よりも、「どう語られるか」に影響(支配)されるという知見です。
今回に当てはめれば、子どもが手伝うと答えた方の中には、「手伝う」と言うより、実際には「ままごと」くらいの関わり方、「手伝う」のハードル自体が低い可能性があります。しかしながら、子どもの立場になると「家事を手伝ってくれるいい子」というナラティブ・ストーリーが作られることで、子どもがそのストーリーに影響を受け、「自分は母親を助けることが出来る」、「家庭に役に立っている」という、自己効力感(自分はできるのだ!という気持ち)が生まれ、ひいては「他にも手伝えることがないか考える」という能動性につながり、さらに手伝いをするという好循環が生まれます。
また親子というのは、えてして「世話をする―世話をされる」という役割に固定されがちで、それを「相補性」というのですが、実はその相補性が固定しすぎると関係が不安定になるという心理学の知見があります。要するに、「親が一方的に子どもにしてあげる」のではなく、たまには「子どもが何かをしてあげる―親がしてもらう」という目に見える役割交代がたまにはあったほうが、関係が良くなるのです。
「監督兼トッププレーヤー」の役割を同時に求められる母親
「子どもに家事をさせること」には賛成ながら、実際には「自分でやった方が早い」という気持ちになってしまう場合、以下の要因が考えられます。子どもに家事をさせる場合、母親は監督役割、つまり指示を与えたり褒めたりする、「マネジメント役割」をとらなければなりません。しかし、本物の監督や上司であれば、マネジメント役割だけすればいいのですが、家事の場合は実際には、「監督」と「トッププレーヤー」を兼任しなければなりません。「自分でやったほうが早い」という現象を分析すると、この「二役割の兼任」が大変という意味ではないかと思います。
いつまでも自分だけがプレイヤーでいると、他のプレイヤーが育たず、いつまでも自分だけが家事をすることになります。これって仕事にも似ていませんか?
ほめて、おだてて、慣れさせて…が「本当に家事ができる子ども」を育てることに
始めは、時間や気持ちのゆとりがない時に手伝いをしてもらうのは確かに難しいかもしれません。主婦が本当に家事をシェアしてほしい「仕事から帰ってきてバタバタしている平日の夜」は、いわば「一流のプレーが求められる本番の試合」であり、初心者のプレイヤーを育成する余裕はないのです。であれば、まずは余裕のある休日などに、練習試合よろしく「プレイヤー育成イベント」を企画するのはいかがでしょうか。その日は、自分はマネジメントに徹することが出来るように、他の家事はやらない、もしくはやらなくてもいいことにする。例えば、おかずを一品作ってもらうなら、他は全て前もって作っておく、もしくは買ってくるようにしましょう。
まずは参加してもらうために、素振りが出来ればほめる。走れば、球が捕れれば、続けてほめる。そして練習試合を行うことで「自分も貢献できている!」と子どもに感じさせることが全ての一歩であり、そこでおだてて慣れさせて、徐々に「本当に家事ができる子ども」に育てていくのが現実的かもしれません。
河崎環(かわさきたまき)さん
コラムニスト
スイス、英国での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞、雑誌への寄稿、テレビ・ラジオ出演も多数。政治経済から少女漫画、デザインまで、多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を手がける。2児の母。
著書:「女子の生き様は顔に出る」(プレジデント社)
「家事をさせる」ではなく、「自立した大人になるきっかけ」としての子どもの家事参加
もうママひとりで抱え込まない!家事シェアで「ケアできる視線を持った子」を育てよう!
そして、私たちワーママの側にこそ、自立した子どもを育てるベースが整っているか?まずはそこから始めてみませんか?
お子さんと一緒に家事、していますか?もちろんそれが理想的なのはわかっているけれど、現実は忙しすぎてとてもとても……という共働きママはとても多いのです。ワーママには「時間がない」。子どもを連れて帰宅後の数時間や、貴重な休日を使って家事をこなす必要がある家庭では、子どもに手取り足取り家事の方法を教える、まだ上手に出来ない子どもにじっと寄り添い、その後始末をしてあげる余裕は……ありません。
教育的な良い効果や、親子のふれあい。コミュニケーションが深まり、我が家のやり方・暮らし方が伝承されていく。子どもと家事をいずれはすべきだと思いつつ、でも現実は結局ママとパパで家事をバタバタと済ませたり、「不慣れな家族を巻き込むより自分でやったほうが早いし、きれい」とママひとりで全部抱え込んだりしていませんか?
ところが、ママ本人が辛いばかりでなく、子育てと家族育ての素晴らしいチャンスを逃していることにもなるのです。会社では部下やチームのマネジメントができているのに、「家族マネジメント」はおろそかになってはいませんか?自立した部下やチームが育たない組織の行き着く先は「依存」、そして「破綻」……なんて脅す気はありませんが、子どもの成長期は短く有限なのに入り口で足踏みしているのは、モッタイナイ!
「名もなき家事」を結局ママが背負ってしまって、しかも感謝もされないという現実は、子どもの家事参加、つまり「家事をする子」育てでどんどん解決していくのです。だって、普段から自分で家事をする人なら、考える前に手が動くような当たり前のこと、それが「名もなき家事」だからですよね。
家事なるものすべてを当たり前のこととして、考えなくても気づく、できる子を育てる。それが実は子育ての上で一番大事な「自立」という力につながります。学習意欲や向上心、自己肯定感など、すべては「自分で自分のことをしようとする意欲」「そんな自分を好きでいられる気持ち」次第。
では、私たちワーママの側にこそ、自立した子どもを育てるベースが整っているか?まずはそこから始めてみませんか。以下の10のチェックリストをやってみてください。
「子どもの家事参加準備オッケー?」10のチェックリスト
CHECK【1】
子どもの家事参加には賛成だし、子どもの自主性育成・成長に良い効果があると思う
CHECK【2】
最初から完璧に何かをできる人はいない。できることからやってもらい、できる範囲を広げればいい
CHECK【3】
「名もなき家事」をどうしたら家庭内で解決できるか考えたことがある
CHECK【4】
あいさつやスキンシップなど、家族間のコミュニケーションは子育てにとても大切だと思う
CHECK【5】
仕事や職場でのマネジメントは自分なりに頑張っているし、得意な方
CHECK【6】
人に作業をお願いするには、相手の個性に合わせて理解しやすい説明や方法が必要
CHECK【7】
できなかったことに目を向けるより、できたことに目を向け褒める方が、上達すると思う
CHECK【8】
子どもには多少失敗しても、チャレンジさせたいと思っている
CHECK【9】
「一人のスーパーマン」がやるより、チームでやるほうが効率的だし、メンバーに何かあった時も継続できると思う
CHECK【10】
男性も女性も区別なく、家事をして欲しいと思っている
これらの気持ちが1つでもあれば、子どもへの家事参加への心理的準備が出来ていることを示しています。
子どもの家事参加を促す、2つのアクションプラン
家事は、大人だけが独占していてはいけません。子どもの自立とは「自分で自分に食べさせる、着せる」「自分が汚したものを自分できれいにする」という、衣食住での基本的な身仕舞をできるようになることだからです。自分で自分のことをする機会が与えられない子どもが、いざ自立して自炊しろと言われても、何をどうすれば良いのか、何が必要なのかさえわかりませんよね。いま食べようとしている料理は、誰がどういう作業をしていま目の前にあるのか、それを知らずして料理はできないからです。
アクションプラン(1)
「家事は楽しい!当たり前!と、小さなことから見せてみる」
ママやパパが家事をする姿を見ていてもらいましょう。キッチンに子ども椅子を持ってきて、料理する手元を見てもらうとか、リビングで洗濯物をたたむ時に隣に座ってもらうなど、つらつらと会話しながらするだけでいいのです。お子さんは家事の文脈を観察することになり、ママやパパの動きや、何を出してきてどうしているかを知ることになります。そのときの観察や、親との会話での豆知識が、自分でも家事を再現するときに役立つのです。ですから、子どもが小さいのならまず「させる」前に「見せる」。そして何気無い会話の中で、知識を構えずに受け渡す。家事という形でなくても、そういった家族の物語のシェアは、素敵なふれあいであり、親子コミュニケーションではありませんか?
アクションプラン(2)
危険が怖いようであれば「安全な環境」、やる気を引き出すなら「テンションの上がる舞台」を作る
まだウチの子には家事は危険……と思っているママ、たくさんいらっしゃることと思います。では家事を始める適齢期っていつなのか、わからないままに待っていても仕方ありません。調査にご協力いただいたご家庭でも、お子さんが家事を始めた年齢も、始めたこともまちまちです。つまり、家事参加適齢期とは親子双方で作るもの。料理はまだ危険だと思うのなら、安全で、子どもが自分から手を出したくなるような環境を作ればいいのでは?
危険を伴わない調理法や、遊びの延長のようにして自然に使える子ども用のキッチングッズも、豊富に揃っていますね。子どもの意欲を引き出すような「場」を用意してあげること、そして危険ではない方法を、親子で一緒に手を動かしながら教えてあげること。それは自転車の乗り方と同じかも。ある段階を超えたら、親は手を離して子どもがスーッと走るのを見守るのです。
ママとして、本当に自立した大人を送りだしてあげたい
子育ての周辺で物書きを続けてきた私は、心身ともにすり減ってボロボロになっても、仕事にも家庭にもしっかりと向き合う共働きのママたちを、たくさん見てきました。印象的だったのは、「外で働いているから、手をかけていないと思われるのは子どもに申し訳ない」と、まるで罪ほろぼしのようにあらゆるものをママの手作りにしていたお母さん。「周りに協力してもらって働かせてもらっている」といった言葉もたくさん聞きました。結局自分ひとりで抱え込み、睡眠時間もなく心底疲れたお母さんたち。周りの人はどうして助けてあげないのでしょうか。
それは、周りの人々が冷たかったからではなく、「気づく目」がなかったからです。自分も家事をするのが当たり前の家庭で育った夫なら、食事の配膳は何を出してどう並べればいいか分かります。トイレットペーパーがなくなれば、ロールを替えて芯を捨てる。洗濯物を取り込み、仕分けてたたんでしまう。自分で観察して覚えるのです。それを自分ごとと思わずに、「いつのまにか誰か(多くはお母さん)がやってきてくれた」から、他人事だとみなし、関心を持たずにきてしまったのです。
家事は、それこそ家族の中で伝承されるもの。その機会がないまま育ったから、家事できない?それは、本当に自立した大人でしょうか?
いまこれから成長する子どもたちと一緒に歩む私たちは、「ケアできる子ども、観察できる子ども」を育てることで、彼らを本当に自立した大人へと送り出してあげたいですね。それは女子とか男子とかの区別や役割にとらわれない、新世代の「自立した人間」です。
小さな子どもに家事をさせるのは「面倒」?いいえ、今ほんの小さな歩幅で親が一歩を踏み出すことで、子どもたちは大きくたくましく(しかもそのうちひとりでに!)育ってくれるのですから、やらない手はありませんよね。
調査概要
■アンケート調査
調査名:「20代~40代のワーママ500人に聞く、子どもの家事参加実態調査」
実査時期: 2017年10月23日(月)~2017年10月30日(月)
調査方法: インターネット調査
調査対象: 全国/20代~40代の子どもがいる共働き家庭の女性
夫と子どもと同居し、年齢が4歳~小学6年生の長子を持つワーキングマザー(=ワーママ)
回答者数: 500人(20代100人、30代200人、40代200人/子どもが家事に参加する・しない各250人)
■訪問調査
調査時期: 2017年10月28日(土)、29日(日)の2日間
調査対象: 関東在住のワーママの6家庭。30代~40代の共働き家庭の女性(1歳~9歳の子どもを持つ)
「名もなき家事」の解決策は子どもの家事参加にあり?