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快適に暮らす

日常生活の中で
程よい運動負荷が得られる
住まいとは?

現代の住まいはバリアフリーが主流となり、
毎日の暮らしの中での運動負荷は昔の住まいに比べると軽くなっています。
そのような住まいに長く住んでいると、あえて足腰を動かす機会が減ってしまう場合も。
日々の暮らしの中でさりげなく体を動かし、運動量をアップさせる工夫について、
スポーツクラブNASの後藤真二さんに教えていただきました。

Profile

教育学博士 健康運動指導士

後藤 真二さん

スポーツクラブNAS株式会社 スポーツ健康医科学研究室室長。カラダだけでなく、ココロも明るく元気になるクラブづくりのため、プログラムづくりや健康セミナー等を担当。

年齢を重ねると起こる、思わぬトラブルとは?

若くて健康なときにはまったく想像もしないことですが、年齢を重ねると、思わぬきっかけでケガをしてしまいます。膝や足首が曲がりにくくなることで足の運びが低くなり、若いときには気にしなかった段差につまずく。また、筋機能の低下でとっさの動きができずに転倒する、といったことが起こりやすくなります。

「足腰の心配なんてまだまだ先」と思うかもしれませんが、さまざまな運動指導をしている私の経験からいうと、40代でもやや衰え気味の方をお見かけすることも少なくありません。筋肉量は40歳頃から低下し始め、50歳を過ぎると年に1〜1.5%ほど低下するといわれています。若いうちから体を動かすことを習慣化すれば、こうした転倒事故や生活習慣病のリスクを減少でき、健康寿命を延ばすことにつながります。

とはいえ、運動内容があまりにもハードだと、つらくなってやめてしまうことも考えられます。今回は日常生活の中でなるべく自然に、長期間にわたり体を動かし、体の機能を健康に保つ方法について、考えていきます。

健康づくりのPDCAとは?

ビジネスだけでなく、健康づくりにもPDCAサイクルが重要です。

  • Plan(計画)→ 自分の今の体の状態をチェックし、できることを計画してみる。
  • Do(実行)→ 自分の体と生活習慣に合わせて、隙間時間などでできることを実行、継続。
  • Check(評価)→ 自分の体に気を遣い、運動負荷が適当かチェック。
  • Act(改善)→ 回数を増やす・減らす、運動の種類を変える、増やすなど改善してみる。

これをなるべく身近に、日常生活の中でサイクルを回せるように習慣づけたいなら、まずは家の中で気軽にチェックすることから始めましょう。自分の体の状態を知るには、次のような方法があります。

座った状態から片足で立ち上がる

椅子に座り、腕は胸の前でクロス。片足を少し浮かせて、反動をつけずに床についている足だけで立ち上がります。そのまま3秒間片足で立ち続けられれば合格。反対足も同様に。これを定期的に行い、筋力をチェックしましょう。

階段を上り下りする頻度を意識的にカウントする

「そういえば最近、階段を上る機会が減ったな」「前は1日に5〜6回、階段を上がっていたのに、最近は朝晩だけになっているな」というように、ちょっとした移動がおっくうになっていたら、それは衰えた体が負荷の高い運動を無意識に避けている結果かもしれません。

歩く速さを計測する

自宅から最寄駅までの所要時間(徒歩)を計測するのも体力測定にうってつけ。歩く速度は体力そのもの。所要時間が長くなれば体力低下のサインです。

このように、日常生活のちょっとした動作を行う際にも、体の声を聞き、体と対話する習慣を身につけましょう。意識的には無理なら、スマートフォンのアプリ等で自動的に記録し、一定期間で見直すのもいいでしょう。

家の中でのわずかな動きも、
チリも積もれば立派なエクササイズに

ジムに通ったり、ウォーキングやランニングを始めたりしなくても、家の中でのちょっとした動きが、チリも積もれば立派なエクササイズになります。
これらを定量的に捉えるならば、運動や身体活動の強度を表す単位「メッツ」という指標があります。座っているときを1.0とした場合の身体の活動の強度を示したもので、メッツの単位が大きいほど消費カロリーも大きくなります。

主な生活活動のメッツ

  • 座る→ 1.0メッツ
  • 立つ、皿洗い→ 1.8メッツ
  • 歩く→ 3.0メッツ
  • 掃除機をかける→ 3.3メッツ
  • 階段を上る(ゆっくり)→ 4.0メッツ
  • 階段を上る(速く)→ 8.8メッツ

こうしてみると、家事やちょっとした室内の動きも、意外とメッツが高いことが分かります。人間はなるべく無駄な動きを減らそうと、行動や動作を省力化してしまいがちですが、あえて効率化せずに、こまめに立って動くことを意識するだけでもいい運動になりますよ。

また、家の中で運動を行うと以下のようなメリットもあります。

  • 家事やリモートワークの合間に行える
  • 天候に左右されず運動できる
  • リビングで音楽を聞きながら…などリラックスした環境で行える
  • 気恥ずかしい動きやポーズでも、他人の目を気にせず取り組める

ウォーキングやジム通いだと、「今日は天気が悪いから」「夜間だし危ないから」など、できない理由が運動の機会を遠ざけてしまうことがしばしばありますが、家の中で運動できる環境を整えておけば、いつでも気軽に取り組めます。

もっとも身近な運動習慣「立つ」ことのススメ

在宅勤務は長時間座りっぱなしの姿勢になりがちです。近年、座り過ぎによる弊害が世界的にも問題視されるようになりました。ずっと座り続けていると、血糖値や血圧が上がるというデータもあります。テレワーク中でも30分に1回は立ち上がり、少し歩いたり腰を伸ばしたりしましょう。立つだけでも血糖値と血圧が下がります。

また、立つことは自律神経にもメリットがあります。起立時には血液が重力で下がりますが、自律神経が血管を収縮させることで脳血流を維持しています。しかし、高齢になるとこの調節がうまく働かず、湯船から出るときなどにフラつきが起こって転倒につながりやすくなります。立ったり座ったりをまめに行うと、自律神経の働きが鍛えられます。座っている時間が長い方は、まず立つことから始めてみてください。

立った姿勢で仕事をするのもおすすめ。パソコン作業に最適な高さの造作カウンターがあると便利。

家の中で自然といろんな運動を組み込む

筋力や柔軟性をキープするには、なるべく体のさまざまな部分を動かす、それも普段は使わないような筋肉や関節を動かすことが有効です。

エクササイズというほどではないですが、家の中でできるちょっとした動きをご紹介します。どこを伸ばすと何が解決できるのか?仕組みを知っていればどんな場所でも、思い立ったらすぐに鍛えられます。いずれもあまり頑張りすぎず、「気持ちいい」と感じる程度にとどめておくのが長続きするコツです。

ダイニングの椅子を使ったストレッチ&スクワット

長時間のパソコン作業で姿勢が悪くなると、首が前に出てしまい首や肩まわりの筋肉が緊張して凝りやすくなります。背もたれのある椅子に座り、両腕を背もたれの後ろに回り込ませると胸が広がり、肩甲骨が引き寄せられて気持ちがいいですよ。

椅子に座るときは「ゆっくり」を意識すると運動負荷が高まります。ゆっくり立つ→座るを10回繰り返す「椅子スクワット」もおすすめ。回数を終えたときに疲労を感じる程度の負荷が最適なので、体力に合わせて回数はアレンジしてください。

壁ストレッチ

壁さえあれば家事の合間にでもできるストレッチ。壁に自分の体重をあずけることでラクに伸ばすことができます。壁に両手をつき、頭を下げるような体勢で肩甲骨や肩まわりを伸ばしたり(写真左)、壁の近くに立って腕を上げたり(写真右)すれば、肩こりや四十肩の予防に。「気持ちがいい」と感じるところを伸ばしてみてください。

階段の上り下り・段差を使ったストレッチ

階段の上り下りは運動強度が高いので、1日に何度も上り下りをすればかなりの運動量になります。その他、写真のように段差を使って、ももの裏を伸ばしたり(写真左)、膝を体に引き寄せて後ろ足の付け根を伸ばしたり(写真右)、踏み台昇降もできます。階段エクササイズは手すりにつかまって、安定した状態で行いましょう。階段がリビングにある間取りなら、テレビを見ながら、家族と会話しながら体を動かすことができます。

和室での立ち上がりやストレッチなど

椅子に比べると、畳や床など地べたに座った状態から立つ動きは運動負荷が高めです。畳コーナーや和室があれば、日常生活での動作にバリエーションが出るほか、寝転んで行うストレッチもやりやすいです。

スロープ

車いす用のスロープなどの「坂道」があれば、斜面を横歩きしてみてください。普段はあまり使わない太ももの内側の筋肉を鍛えることができます。股上に向かって立つだけで、足首を曲げるストレッチになります。

ロースタイルリビング

ロースタイルリビングの段差は何度も行き来すれば階段の上り下り運動になり、音を立てずに上り下りすれば運動負荷を高められるので、日々の暮らしの中でさりげなく運動量をアップさせるのに最適です。踏み台昇降運動のほか、写真のようにストレッチを行うと、床で行うときよりも深く膝を伸ばすこともできます。天井が高いので、開放感がありトレーニングにぴったりです。

ロースタイルリビングで楽しむ おうちストレッチ

このように家の中に多様な空間・構造体があれば、それだけ動きのバリエーションが増やせます。

まとめ

高齢になると足腰が弱るだけでなく、視認性も低下するため思わぬ転倒や踏み外しが起こり得ます。住まいを設計するときは将来に備えてバリアフリーで安全を担保することは大前提ですが、それに甘えて体を動かさなければ体力は低下するばかりです。壁や階段、ロースタイルリビングの段差などをうまく使って、体力に合った運動を日常に組み込み、自分にとって適度な運動の“チリツモ”で、健康寿命を延ばしましょう。

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