地震や台風に強く、火災にも強い。
一年中健やかに過ごせて、静けさも大音響の音も楽しめる。
そんな良い家ができるまでには、地道な研究開発の積み重ねが欠かせません。
大和ハウス工業の総合技術研究所では、
日々、研究員たちがさまざまな「課題」の「答え」を探しています。
実験映像とともに「ダイワハウスの家」ができるまでの舞台裏をご覧ください。
第1回は「耐震」の研究開発をご紹介します。
Profile
総合技術研究所 建築技術研究部 工法研究グループ 研究員
岡崎 浩徳
一級建築士・構造設計一級建築士
「余震は必ず発生する、何度も発生する」と考える
よく「地震に強い家」とうたっている住宅を見かけますが、ダイワハウスは地震大国の日本で家をつくりつづけて、すでに60余年。「地震に強い家」からさらに先へ進んで「繰り返す地震に強い家」へと進化しています。
開発のターニングポイントになったのは、2011年の東日本大震災でした。大きな余震が何度も起こる中、総合技術研究所の研究員たちは、以前からの開発テーマとして取り組んできた「長時間の地震や繰り返される余震に対する強さ」の重要性を一層強く感じるようになりました。そうして開発したのが、震度7クラスの巨大地震に耐える「強さ」だけでなく、強い余震が発生しても何度でも耐えつづける「粘り強さ」を持ったエネルギー吸収型耐力壁「D-NΣQST(ディーネクスト)」でした。
しなやかに動く「Σ形デバイス」が、地震エネルギーを効果的に吸収
エネルギー吸収型耐力壁「D-NΣQST」が耐震性能を持続させる鍵は、 「Σ形デバイス」にあります。強い揺れを受けると上へ下へとしなやかに動く独自の断面形状により、地震エネルギーを効果的に吸収。震度7クラスの地震に連続して耐える粘り強さを発揮します。
エネルギー吸収型耐力壁「D-NΣQST」の仕組み
揺れを受けると「Σ形デバイス」が上へ下へとしなやかに動く
→応力を「Σ形デバイス」に集中させることで柱や梁の損傷を防ぐ
- ※「Σ形デバイス」側に柱がない場合、「Σ形デバイス」は金物で柱や梁と取り合います。(右図)なお、その場合も構造耐力性能は変わりません。
- ※0.5P巾の場合、耐力壁の形状が異なります。(1P=91cm)
なぜ粘り強いのか。その秘密は、柱と斜めの筋かいをつなぐ「Σ形デバイス」にあります。デバイスが上下にしなやかに動いて地震エネルギーを吸収し、建物へのダメージを最小限に抑えるのです。「Σ」形を生みだすまでの道のりは苦難の連続でした。「III」のような縦形は堅すぎる。「三」のような横形は柔らかすぎる。H形やK形、Z形も違う。100通り以上の試作をつくっては検証を繰り返し、ついに強さとしなやかさを兼ね備えた最も効果的な「Σ」形にたどり着きました。
「Σ形デバイス」が地震エネルギーを吸収する理由(イメージ)
しかし、まだ完成ではありません。「D-NΣQST」を搭載した「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」実物大の建物を使って、国立機関の実大三次元震動破壊実験施設「E-ディフェンス」(愛称)で加震実験を実施。震度7相当の巨大な衝撃を4回連続で繰り返し与えたところ、柱・梁の損傷はなく、新築時の耐震性能を維持することが実証されたのです。
実大三次元震動破壊実験施設「E-ディフェンス」(国立研究開発法人防災科学技術研究所)にて、2013年9月に実施された「xevoΣ」の大規模な加震実験。
「E-ディフェンス」は実際の地震に近いリアルな揺れを再現して、建物1棟をまるごと実験できる施設ですが、家をつくるパーツそれぞれの性能も確認しなくてはなりません。総合技術研究所ではさまざまな実験装置を使って耐震性能を検証しています。
それでは、住宅の工法・構造を研究開発している研究員、岡崎の案内で、実験装置の一つ「門型試験機」を見てみましょう。
壊れない家をつくるために、壊す?
門型試験機は、家を構成するパーツに地震や台風の力がかかったらどうなるかを調べる試験機です。実験では、実物大の耐力壁や柱、梁、外壁パネルなどを床の上に固定。アクチュエーターという駆動装置で地震や台風を想定した力を上から加え、硬さや強度、変形性能を検証します。余震のように荷重を「繰り返し」かけられるのも特徴です。また、柱と梁の接合部がどれくらいの耐久強度を持っているかも確認できます。
門型試験機の赤いアクチュエーターが上下に動いて強度を確認
総合技術研究所にあるのは、最大100tの力を加えることができる100tf(トンフォース)門型試験機。岡崎は「柱の上に5tのアジアゾウ20頭が乗っている、または50tの2階建て住宅が2棟乗っている様子をイメージしてください」と門型試験機のパワーを解説します。
実験映像では、その威力をわかりやすくお伝えするために、ドラム缶と鉄骨の柱で比較実験しています。ダイワハウスの家に使われる建材の強さを感じていただけることでしょう。
研究所では門型試験機の他にも、鋼管コンクリートなど、非常に強固な構造材に400tの力を加えられる「万能実験機」も活用。また、ただのコンクリートに見える「床」も、実は重要な実験設備です。「これは『反力床』といいます。試験体を置いて100tもの力で上から押すので、荷重に耐えられる剛強な床が必要になります。この床の中には高強度の鉄筋が入っていて、床の厚さも1.5mあるんです」と説明。また、施設内には高さ9m近く、厚さ最大2.5mの「反力壁」もそびえ立っています。
反力壁・反力床に試験体を設置し、油圧ジャッキで加力
「住宅を開発するだけなら、ここまで大きなものは必要ありませんが、当社は物流施設や工場、オフィスなど大型の建物もつくっているため、実験環境を整えているのです」
この環境下で岡崎は日々、より高い耐震性能をめざし、さまざまな想定のもとで設計図を描き、試作しては実験するトライ&エラーを繰り返しています。思いどおりの結果が出ないこともよくあります。しかも「これまで世の中にはなかった新しいものをつくろうとすると、一般的な計算式ではわからないことも多い。だからこそ実物を壊す実験が大きな意味を持ってくるのです」と語ります。地震や台風で壊れない家をつくるために、壊す。それが岡崎の仕事です。
研究員は現場で学べ、次の答えを探しだせ
研究開発の最前線にいる岡崎は、ここに至るまで、どう成長し、何を学んできたのでしょう。どうやら研究者としての芽は幼い時から育まれていたようで、「子どもの頃はブロック遊びや庭での砂遊びなど、物をつくることが好きでした」。橋などを建設する土木の仕事をしていた父親の影響も受け、大学の専攻分野はビルなどの建築に使われる高流動コンクリートを選びました。ところが次第に大きなビルから身近な住宅に興味が移り、方向を転換。卒業後、大和ハウス工業に入社します。
その少し前、まだ学生だった1995年、阪神・淡路大震災が発生しました。当時、岡崎がいたのは名古屋。震災後しばらくして岡山の実家へ車で帰る道中、倒壊した高速道路やブルーシートに覆われた街を目の当たりにして言葉を失ったと言います。
その数年後、入社した2000年当時は建築基準法の耐震基準が強化され、住宅の性能をわかりやすく示す耐震等級の表示もスタート。住宅業界では各社が耐震性能を上げようとしのぎを削っていました。岡崎はまず本社の技術開発部で免震住宅の商品化を担当し、7年後、研究所に異動。それからは研究所で構造技術を開発し、その延長で本社の商品開発部に移って商品として軌道に乗せるという行ったり来たりの恵まれた経歴を重ねます。
「自分で開発した技術が商品になって実際に建つまで一貫して見られるのは、研究者として良い経験になります。技術ができても、商品になるまでには設計する人や生産工場の人、情報加工のシステムをつくる人など、さまざまな担当者とのやりとりが必要。そこで寄せられた問い合わせも、改良や次の開発のヒントとして生かせるんですよ」
また、研究員たちは大地震が起こると被災地に行き、建物の状況を調べます。2016年、震度7を観測した熊本地震の時、岡崎は激震地の益城町に入り、大きな衝撃を受けました。「活断層の地盤が1m以上動いていたり、擁壁ごとずれていたり、隣の家が寄りかかっているものもありました。私たちは家の耐震性を上げるために全力を尽くしていますが、それだけでは足りない時もある。地盤や擁壁などの敷地条件もすごく大切なんだ」と痛感。研究所には、地盤を研究する者も、住所から震動を予測するシステムの開発者もいます。「それぞれの成果を組み合わせて、その技術を現場の設計担当者が活用する。そうやって、その土地に最適な家づくりをトータルに提案していければ」との思いを強くします。
耐震だけじゃない、生活の豊かさも開発しよう
大和ハウス工業の商品はざっくり二分すると、「住宅」と、「建築」と呼ばれる法人向けの事業用建築物に分かれます。岡崎は「私たちの研究所は、住宅グループの隣に建築グループがいて、研究員が住宅から建築、建築から住宅へとグループ間での異動もあります。住宅で開発した技術を建築に応用できますし、その逆も然り。それが私たちの強みなんです」と胸を張ります。
例えば「建築」で開発し、さまざまな技術賞を受賞した鉄骨構造システム「DSQフレーム」は、住宅版にチューニングして重量鉄骨の3階建て住宅商品「skye3(スカイエスリー)」に搭載。品質や性能の良さはもちろん、現場での施工を単純化してコストダウンを図れることも採用した理由の一つです。
「私たちはいつも、商品価格を抑えるための合理的な構造につながる技術を探索しています。『Σ形デバイス』も形を工夫することで、一般的に出回っている鋼材を使って強さとしなやかさを実現しました。高価な特殊材料を使っていないので、壁量を増やしてさらに耐震性を上げることも容易ですし、将来も材料を確保して増改築に対応できると考えています」
研究開発に終わりはありません。Σ形デバイスを搭載した耐力壁「D-NΣQST」は、デバイスを2つに増やしてエネルギー吸収能力をさらに高めた耐力壁「KyureK(キュレック)」へと発展。「KyureK」を用いた「xevoΣ PREMIUM(ジーヴォシグマ プレミアム)」では、地震時の内外装の損傷を大幅に低減し、より大きな安心をご提供しています。
大地震の揺れを大幅に低減し、内外装の損傷を抑える「KyureK」
「耐震性能はかなり高いレベルまで上がってきています。『ダイワハウスの家にいれば安心だ』と思っていただけたらうれしいですよね。ただ、家の耐震性というのは、普段の暮らしで感じることはできません。構造の研究者としては、開発した技術を生かして普段の生活で『いいな』と感じていただける提案を増やしていきたい。高い天井や柱の少ない大空間は、リビングでの家族の過ごし方を変えたり、テレワークに対応したり、新しいライフスタイルを生みだします。そんな生活の豊かさを提案することも目標です」
総合技術研究所では「思い付いたら、やってみよう」というチャレンジ精神が奨励されます。机上で計画書ばかり練るよりも、物をつくって実験する。失敗しても予期せぬ発見に出会うかもしれない。そして、またつくって実験する。終わりなきサイクルが、ダイワハウスの家をさらなる高みへと押し上げていくのです。
【vol.2】では、840℃の炎で壁を燃やす研究員が登場します。