地震や台風に強く、火災にも強い。
一年中健やかに過ごせて、静けさも大音響の音も楽しめる。
そんな良い家ができるまでには、地道な研究開発の積み重ねが欠かせません。
大和ハウス工業の総合技術研究所では、
日々、研究員たちがさまざまな「課題」の「答え」を探しています。
実験映像とともに「ダイワハウスの家」ができるまでの舞台裏をご覧ください。
第2回は「防耐火」の研究開発をご紹介します。
Profile
総合技術研究所 信頼性センター 耐火耐久性能グループ 研究員
針金 奏一郎
家の外から840℃の炎、そのとき室内は?
ここは総合技術研究所にある防耐火試験炉の前。研究員の針金が、試験炉での実験の様子を再現していました。点火すると、穴の中に真っ赤な炎が現れました。渦巻くように回転する炎が試験炉の温度を上げていくと、あたりにはゴォーッと恐ろしいほどの轟音が鳴り響きます。最高加熱温度は1100℃。火山から噴出した溶岩でさえ1000℃~1200℃だそうなので、試験炉のすさまじさがおわかりいただけるでしょうか。
では一体、この実験装置で何を証明しようとしているのでしょうか。ずばり「ダイワハウスの家は火災に強い」ということです。実際、自宅から3m離れた隣家から出火すると、自宅の外壁は840℃もの高温にさらされます。そこで実際の火災に近い条件で、家の部材と同様の試験体を燃やして、ダイワハウスの家の防耐火性能を検証しているというわけです。
幅2.7m×高さ3.0mの壁を実験できる防耐火試験炉
実験では、試験炉の前面に住宅の外壁・内壁を模した試験体を取り付けて高温で加熱します。大きな壁になると幅2.7m×高さ3.0mにも及びます。ダイワハウスの鉄骨住宅「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」の天井高が2m72cmなので、およそ住宅1階分の高さだとお考えください。さらに、壁の上に2階や屋根が載っている想定で、試験体に荷重を約40tまでかけることも可能。火災で1階の壁が燃えると、上層階の重みで倒壊することもあるためです。
準備ができたら、いよいよ実験開始。国際規格のISO834で定められた温度・時間で試験体を燃やします。屋外側を加熱する試験では、裏面の屋内側にセンサーを取り付けて温度が上がりすぎないか、亀裂ができて炎が吹き出してこないか、重量に耐えられなくなって壊れないかなどを確認。針金は「屋外側を激しく燃やしても、断熱材などが機能して、屋内側の壁に手で触れることができるんですよ」と自社の防耐火性能に自信をのぞかせます。
試験体の屋内側にセンサーを取り付ける。
合格基準プラス1割増しの性能を目指す
社内の過酷な防耐火試験を乗り越えたら、次のステップである国の認定試験に挑みます。国のお墨付きである「国土交通大臣認定」をもらって初めて「お客様の家」として建てられるようになるからです。しかし、国の試験をクリアできる仕様が固まるまでには、いくつもの関門が待ち構えています。
「最初は本社の商品開発部から、新商品の開発や既存商品をアップデートする際に『この大臣認定を取りたい』と依頼されて始まるケースがほとんどです」と針金。さらに商品開発サイドからは、生産工程の合理化によるコストダウンや施工のしやすさも要求されます。もちろん、商品の価格を抑え、工期を短くしてお客さまに早くお引き渡ししようとするのは、ハウスメーカーとしては当たり前のこと。針金たち研究開発サイドも「防耐火性能を最優先しながら、必要以上にオーバースペックにして価格に跳ね返らないように、性能とコストのバランスを考えます」。
どんな材料を組み合わせて構造をつくるのかも腕の見せどころ。ダイワハウスは、火に強いサイディングやグラスウール、石膏ボードなどの材料をうまく組み合わせることを得意とし、それによって高い防耐火性能を実現しています。例えば鉄骨住宅「xevoΣ」では、高密度グラスウールボードなどのさまざまな防火材料を最適な組み合わせで構成。他にも柱であれば、耐火材を巻きつけるか否か、それとも材料そのものを変えるのか。試験体をつくっては、社内の防耐火試験炉や公的実験機関の設備も利用して実験を繰り返します。行き詰まったら同じ耐火耐久性能グループで相談し、商品開発チームも巻き込んで、弱点を解消するために知見やアイデアを持ち寄って打開策を探します。
外壁内の高密度グラスウールボードは、バーナーで加熱すると、表面は焦げても内部はきれいな状態。(写真右)
また、試験の日までは余裕があるわけではないので、開発にかけられる時間には限りがあります。「だからといって国の試験に合格できるかどうかというギリギリの仕様で試験に臨むことはせず、プラス1割くらいの余裕を持った仕様で持っていきます。そこまでやっても認定試験は社内と条件が微妙に違うので、受かるかどうか不安なんですが……」と苦笑。果たして針金たちの苦労は報われるのでしょうか。ついに国の試験を受ける日がやってきました。
国から「火に強い外壁」と認められる
国の認定試験は、国土交通省指定の性能評価機関で行われます。針金たち研究員とともに商品開発部のメンバーも顔をそろえ、性能評価機関に試験体を持ち込みます。
「xevoΣ」などの「防火構造外壁」の場合、合格基準は、屋外側を加熱して室内表面温度の上昇値を室内の可燃物が燃え出さない温度である「平均140℃以下・最高180℃以下」に抑えることです。また、亀裂が生じて火炎が噴出しないことなども判定基準になります。
認定試験が始まりました。刻々と時間は過ぎていき、誰もが固唾を呑んで見守ります。そうして試験は終了。結果は、国土交通大臣認定の合格基準よりもはるかに低い温度をキープして、高い防耐火性能を実証できました。平静を装い見守っていた針金も、内心で大きくガッツポーズ。これでようやく商品化の道筋が見えました。
防耐火試験における室内側表面温度。
「これまで開発した『xevo』も『xevoΣ』も、研究所の耐火チームと商品開発部が一緒になって取った防耐火の大臣認定があるから、火災に強い商品として成り立っているんですよね。だから、街に建っているダイワハウスの家を見ると、私たちのアイデアや成果が目に見える形で現れているように思えて、そこに民間企業の研究者としてのやりがいや面白さを感じています」
今や防耐火のプロフェッショナルとして活躍する針金ですが、実は元々、建築ではなく電気工学を学び、大学院では超音波を研究していました。超音波は建築物の検査にも利用されることから、卒業後は大和ハウス工業へ。入社当初は、建物の点検診断手法を開発するチームに所属していました。その後、重量鉄骨住宅「skye(スカイエ)」を改良するチームに移り、防耐火の大臣認定取得に携わったのが、防耐火の研究開発に関わるきっかけになりました。
「建築の出身ではなかったので知識が圧倒的に欠けている中で配属され、最初はとても不安でした。それでも周りに長年、防耐火に関わっている先輩方がいたおかげで、今の自分があります」
現在は後輩の指導を任されるまでになり、学校で建築や防耐火を学んできた彼らに対し、ゼロから身に付けた経験を惜しみなく伝えています。先輩たちが教え、導いてくれたように、総合技術研究所の財産である「知」はこうして脈々と受け継がれています。
いつかこの手で住宅火災のない世の中に
「将来は、住宅火災のない世の中をつくることが、私の最大の目標です」
ダイワハウスをはじめ、さまざまな企業の取り組みで防耐火技術は進化し、火災のリスクは少しずつ低減していると針金は感じています。それでも毎日どこかで火災は起こります。総務省消防庁「消防統計」によると、2020年は10,564 件の住宅火災がありました。1 日あたり約28件、1時間に 約1 件、火災が発生したことになります。わが家は気を付けていても、隣から火が出るかもしれません。840℃の炎にさらされる「3m」という隣家との距離は、仮に成人男性の平均的な歩幅が70~80cmだとすると、わずか4〜5歩にしか過ぎません。その短い距離で、家を、人を、どう守るのか。
針金たち研究員は時々、火災に遭われたお客さまの家を訪問し、火害状況を調査することがあります。隣家が全焼して跡形がなくなるほどの猛火なら、どんなメーカーの外壁材であっても、それがコンクリートであっても、多少なりとも焦げるものです。
「実際、隣家が全焼するような火災もありますが、隣に建つ当社のお客さまの家は外壁のサイディングが焦げている程度という状況もよく聞き、そんなときに当社商品の高い防耐火性能を実感します。さらにこれからは、古い家屋にもこの性能を付与するにはどうするか、火災後の損傷をいかに簡単に補修できるようにするか、が求められるのではないでしょうか」
火災のニュースを見るたびに、針金の思いは、ダイワハウスの家にとどまらず、現在の建築基準法を満たしていない他社の古い家にまで広がっていきます。「火災のない世の中」をどうやったら実現できるのだろう。すぐには思い付かなくても、今やっている研究開発の延長線上に、必ず答えはあるはずです。
【vol.3】では、猛烈な暴風雨を再現する研究員が登場します。