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生活を考える

AIが真似できない力!子どもにとって
大切な「読解力」を
育む住まいづくり

SNSの普及やAIの進化など、私たちを取り巻く環境がめまぐるしく変わる昨今、
これからを生きる力として「読解力」が注目されています。
読解力がいま求められている理由、どうして低下傾向にあるのか、
読解力を育むための方法や住まいづくりのコツまで、
学習・教育アドバイザーの伊藤 敏雄さんに伺いました。

未来の社会ではさらに重要になる、読解力とは?

読解力とは

読解力とは、一言で言うと文字や記号、文章などから意味を考えて読み取る力です。本を読んで内容を理解することだと思われがちですが、もっと広い概念で、読み取る対象には絵や資料、会話文などの断片的な情報も含まれます。すべての教科で横断的に必要な力です。

例えば、「京浜工業地帯」という言葉を初めて見たとき、「京」は東京、「浜」は横浜であり、その間あたりの場所を指すのだろうと推測し、読み取ることができます。しかし、読解力が低く、漢字の意味を正しく読み取れない場合は、場所がどこなのかを判断することはできません。漢字一つ一つの意味をしっかり考えられているかどうかが重要なのです。

いま、読解力を高めるべき理由

子どもたちには、コンピューターやAIが苦手とする能力を高めていくことが必要であり、その一つが読解力です。現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進により統計や分析などさまざまな分野でAI化が進んでおり、将来的には多くの職業をAIが担うと言われています。人間が強みとする力を高めて活かすことが、未来を生きていくうえで、とても大切になります。

現在のコンピューターは人間が教えていないことに関して、意味を読み取り行動するということができません。例えば、“コンビニで会議の出席者用にAという銘柄の緑茶を買ってきて”と言われたときに、コンビニでそのお茶がなければどうするでしょうか。

人間であれば、他のメーカーの緑茶を買ったり、どうしても緑茶がなければ烏龍茶や水を買うなど臨機応変に対応しますよね。しかし、AIの場合は、指定されたコンビニにAのお茶がなければ何もせず戻ってきてしまいます。A以外のものを飲み物として学習させないと、飲み物であればよいだろう、という判断ができないからです。

私たちは日常のさまざまな場面で読解力を使っていますが、言葉が持つ意味やこれまでの経験、状況などを組み合わせて考え、行動しているのです。これがAIにはできないことなのです。

子どもたちの読解力は低下傾向に

2018年に実施されたPISA(Programme for International Student Assessment=経済協力開発機構による学習到達度調査)によって、以前よりも日本の子どもたちの読解力が低下傾向にあることが明らかになっています。過去の出題内容と同一問題の正答率は2番目の低さです。

その要因としては、さまざまなことが挙げられますが、私は、一つの理由としてスマートフォンの普及があると考えています。幼少期からスマートフォンやタブレットなどを利用し、写真や動画を見る時間が増え、その半面、文字を書いたり文章を読んだりする機会が減りました。

もう一つは、学校の授業の中で対話や協働的な学びが重視される傾向が増え、個々に問題を読んで解く時間が減っていると考えられます。また、現在の小学校の授業は、最初の5分で“目当て(目標)”を書き、最後の5分で振り返りの時間を持つ、という流れになっています。

協働的な学びには学習意欲を高めたり、思考力を育成するという効果があるので大切なのですが、授業時間は1コマ45分と限られているため、その分どうしても問題を読む・解く時間が減ることになります。

読解力を育むために、家庭でできること

幼児期から家庭での過ごし方を工夫することで、読解力は育むことができます。“本を読むことで、わからなかったことが理解できた”という成功体験を積み重ねることにより、読解力は高められます。

よく“子どもに本を読ませたいが、なかなか読まない”という悩みをお聞きしますが、それは子どもにとって“本を読んでも意味がわからない、面白くない”からです。読んでわかったという体験がないため、本を読もうという気持ちになれないのです。そうならないためには読み聞かせや、親子で一緒に本を読むことから始める必要があります。

成功体験を積み重ねていけば、わからないことはそのままにせず、自分で辞書や本を使って調べることが習慣になります。昨今はスマートフォンで何でも調べられますが、できれば紙の辞書や本がおすすめです。親子で一緒に見ることができますし、指先を使うことも子どもの発達段階においては大切です。スマートフォンでは画面に出てくる内容しか目に入りませんが、紙だとページ全体、他の言葉に触れることもできます。

家庭でできる教科書の読み聞かせ、並行読み

読み聞かせを始めるときの本選び

読み聞かせを始めるにあたっての本の選び方ですが、幼児期は絵本を使うなど、発達段階に合わせて選んでいけばよいですが、小学生の場合は、教科書を使った読み聞かせをおすすめします。子どもの興味が教科書に向くので、学校での学習にも役立ちます。

教科書を読み、一緒に言葉の意味を考えていく

例えば、小学校6年生の国語の教科書に出てくる『海のいのち』では、「太一はすべてをさとった」という文があります。この文章を読んだとき、まずは“さとった(悟った)の意味がわかる?”という問いかけをしましょう。先に親が意味を説明することをせず、“悟る”という単語を漠然と捉えるのではなく、子どもが文脈からどういう意味と理解しているかをたずねます。その後、意味がわからなければ一緒に辞書で調べます。

次に、“何を悟ったのか”という問いかけをします。ここは“与吉じいさが夏なのに横になり、毛布をのどまでかけている”という描写から何を読み取るかということが授業の題材になっています。

実際の授業では、多くの子どもが、人の死に直面するこのような場面を経験したことがないため、きちんと意味を読み取れません。経験がなければわからないのも無理はないのですが、最初から答えを教えるのではなく、まずは考える、調べるということをしていきます。

高学年の場合は、親と一緒にそれぞれ別々の本を読む時間を持つ、並行読みもおすすめです。例えば、子どもが国語、親は英語の教科書をそれぞれ読み、“こんな内容だったよ”と互いにシェアするのです。要所要所で“これはどうして〇〇だと思う?”や“〇〇ってどういう意味か説明できる?”と問いかけ、アウトプットさせることを大切にしましょう。学習参考書も並行読みの題材にできます。

普段の会話でも、読解力は育まれる

読解力を育むためには、普段の会話での習慣も大切です。単語だけでなく、主語、動詞、目的語などを明確に使う会話をしましょう。例えば、ご飯のおかわりがほしいときは、“お母さん、ご飯”ではなく、“お母さん、ご飯のおかわりをお願いします”となります。

もちろん、“お母さん、ご飯”でも、内容を察せてしまうかと思いますが、そこで甘えさせてしまうのではなく、言いたいことを正確に組み立てて表現する、という習慣をつけることが大切です。普段使いがちな“ちょっと”や“少し”といった感覚的な言葉にも意識を向けましょう。お茶碗に半分くらいのような、誰にでもわかる具体性のある言葉を使うことが大切です。

これは、親から子どもに話をするときも同様です。例えば、子どもが学校であった話を聞いてほしいと話しかけてきたとき、“ちょっと待っていてね”ではなく“洗濯物を取り込むから3分くらい待っていてね”と、理由や具体的な時間を入れて答えるのです。

家の中で読解力を育むための工夫

子どもの読解力を育むにあたっては、部屋の使い方を工夫することで実行できることが多数あります。特に幼児期から小学校くらいまでは、勉強や遊びをずっと個室でさせるのではなく、親子が何となく一緒の空間にいる、という状態をつくれるとよいでしょう。

リビングには本棚を置き、知識を得られる場所に

子どもが本を読むためには本棚が欠かせません。独立した書斎ではなく、リビングに本棚を置き、気になるものがあればすぐ手に取れるようにしましょう。テレビの横など日常的に目に留まる場所や、取り出しやすいソファの横がよいでしょう。

例えば、辞書が子ども部屋にあったら、調べたい言葉があったときに子ども部屋まで取りに行かなければなりません。そうなると調べるのが面倒だと感じてしまいます。

最初はわからないことがあったとき、どの本を読めば必要な知識を得られるのかわからない状態です。本をすぐ手に取れる環境をつくることで、“言葉の意味がわからないときは国語辞典”、“場所がわからないときは地図”など、何を見ればよいのかを判断できるようになります。本棚は、本のタイトルがぱっと目に入る形状、本がきちんと並べられる大きさのものを選ぶとよいですね。

用意する本のジャンルは、子どもが興味を持っているものにしましょう。興味がない本は、なかなか読んではくれません。何に興味を持っているかを把握して、その分野の本を増やしていけるとよいかもしれません。内容を理解し知識が増えていけば、興味の範囲も広がります。家族それぞれの本のゾーンが分かれていて、どんな本を読んでいるか共有できる本棚も面白いですね。子どものさらなる興味につながります。

L字型に座れるよう、机やソファの配置を工夫する

読み聞かせや並行読みをするとき、また宿題を見てあげるときは、リラックスして話ができるだけでなく、目を合わせて反応を確かめられるL字型の位置関係を意識しましょう。横に並んで座ると相手の反応が見えないため会話がしづらく、向かい合わせだと無意識の防衛本能が働き、対立的な会話になりやすいといわれています。

勉強机は壁に向けて置くと集中しやすいのですが、そうするとL字型に座りづらくなることがあります。机の横側にスペースを空けておく、机を可動式や組み合わせて形を変えられるものにするなど、ちょっと工夫することで解決できます。

テレビやプロジェクター、パソコンを活用し、家族で同じものを見る

最近では、家族一人一人がそれぞれ違うものをスマートフォンで見ている、という場面が多くなっていますが、それだと子どもが何をやっているかわからず、体験をシェアできなくなってしまいます。オンライン授業や教育系動画などのコンテンツは、親子一緒に大画面で見る機会を持つようにしましょう。

パソコンは個人作業に使うイメージがありますが、リビングに置けば調べ物なども家族でシェアできます。最近はスマートフォンで十分と感じている方も多いですが、パソコンを使いこなせればより早く作業ができるのでさらに便利。子どもがパソコンを使う場面も意識的に増やしましょう。

本を読むときの照明は、明るめに調整を

リビングで本を読むときや勉強中は、リビングでくつろいでいるときに心地よいと感じる明るさよりも、もう少し明るい状態がベストです。間接照明などで調整できるようにしましょう。

読解力を育む、住まいづくりの工夫

子どもが学びやすい、読解力を育む住まいには、どんな設計がされているとよいのでしょうか。住まいづくりのポイントをお伝えしたいと思います。

リビングや廊下に学用品の置き場を。整理整頓が知識の整理にもつながる

持ち物の置き場所を決めて整理整頓することは、頭の中も整頓すること。知識を得ることや学びにつながると考えられます。ランドセルや学用品の置き場所をリビング収納や廊下など、家族共用のスペースに設けることで、親子で一緒に整理整頓ができます。

リビングを宿題や読書の場に。家族が思い思いに過ごせる畳敷きもおすすめ

家に子どもが帰ってきて、荷物を置いてリビングで宿題、という流れが自然にできる動線をつくれるとよいでしょう。部屋の一角に畳スペースがあれば、自由な姿勢で読書や勉強ができますし、家族との距離感も、その時々で調整できます。

子どもが学習できる場所を複数設置し、使い分ける

最近では、企業のオフィスにおいて従業員が業務内容に合わせて作業する場所を使い分ける「アクティビティ・ベースド・ワーキング」という考え方がありますが、子どもの学習の場面においても同様に、勉強の内容によって空間の使い分けができると効果的です。

リビング学習は親子でコミュニケーションができる、様子が見えやすいというメリットがありますが、すぐ親に答えを聞いてしまえるというデメリットも。問題を解く時間は勉強部屋の机に向かって1人で集中する、本を読むときや調べ物をするときはリビングで会話し知識をシェアしながら、といった使い分けがおすすめです。

リビングの横に緩やかにつながるおこもりスペースや、仕切られた勉強スペースがあれば、行き来がしやすく便利なため、動線がスムーズになりますね。

庭やファミリーギャラリーなど、表現活動の場をつくる

子どもが絵や工作などで表現できる場を、家の中につくるのもおすすめです。表現するということは、自分が受け取った情報を再構成し人に伝えるということ。文字情報をイメージに変換するということも読解力を高めることにつながります。庭に砂場があれば、絵を描いたり土遊びで形をつくったり、いろいろな表現ができますし、つくった後の片付けも簡単です。

作品を残す場所として、廊下やリビングにファミリーギャラリーのような空間があるとよいかもしれません。親子や兄弟姉妹の作品も一緒に飾ることで、その意味や意図を読み取ったり、新たな発想を得ることもできます。表現したものを“これは何かな?”ともう一度言語化させるのもよいですね。

子どもの読解力は家庭での習慣によって育まれます。共に学ぶ時間は、親子がコミュニケーションをとる時間を増やすことにもつながります。これから家づくりを考えている方は、敷地や周辺環境、家族の暮らしに合わせて住まいの形を決められる注文住宅など、ぜひ、親子で一緒に学べる、心地よい空間づくりを実現してはいかがでしょうか。

Profile

伊藤 敏雄さん

「勉強はやる気とやり方で決まる!」がキャッチフレーズの学習・教育アドバイザー。心理学や行動科学に基づいた効果的な勉強のやり方を、小学生から高校生までの全教科で指導し、生徒の約9割が偏差値アップした。全国で5,000 人以上の高校生や保護者に、学習メソッドやモチベーションアップ講座などの講演活動を行っている。

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