巨匠と呼ばれた偉大な建築家が残した「名建築」が、日本各地には数多く存在します。それらの建物には意匠の美しさだけでなく、空間を快適にするための秘密がたくさん隠されています。建築界の巨匠フランク・ロイド・ライト(以下、ライト)が設計した「自由学園明日館(以下、明日館)」は、そうした空間づくりのお手本ともいえる建物です。
今回は一級建築士の資格を持ち、大和ハウス工業で住宅設計に携わる目賀田史夫とともに、ライトが設計した明日館の内部を見学しながら、建物の見どころや家づくりで参考にしたいポイントなどを探っていきます。
大和ハウス工業 住宅事業推進部 東日本住宅設計室一課
主任技術者 一級建築士
目賀田 史夫
住宅商品開発部で19年間、住宅商品の企画やデザインを担当。現在は住宅展示場の設計や、大型物件・こだわり請負物件の企画から設計までを担当している。
ライト初期の名作・明日館とは?
明日館は、1921年(大正10年)に東京の目白(現在の豊島区西池袋)に創設された女学校・自由学園の校舎として、巨匠フランク・ロイド・ライトと弟子の遠藤新により設計されました。ライト初期の住宅群に多く見られた「プレイリースタイル(草原様式)」の影響が強く、日本に現存する貴重なライト作品のひとつとして世界的に知られています。
「プレイリースタイルとは、アメリカの大草原に建つ家とはどういう建物であるべきか、模索の末に生まれた建築様式。草原・空・地平線など自然の景観と馴染ませるため、建物の高さを抑えつつ、地を這うような佇まいが特長です。軒を深く出すことで水平ラインを強調させて、家の中と外をつなぎ、自然と一体化させるよう設計されています。創設当時は明日館の周辺も高い建物がなく草原のようだったのでしょうか、プレイリースタイルの特徴を色濃く残していますね」(目賀田)
また、ライトは『有機的建築』を提唱していた建築家でもあります。「建築は単なる機械としての量の問題より、人間の有機的な生活を反映させた質的なものでなくてはならない」と主張し、建物と自然、建物と人との関わり方を大事にしていたと言われています。「中にいる人がいかに心地よく過ごせるか、綿密にシミュレーションしてあるので、何気ないディテールの中にも必ず彼なりの深い目的が潜んでいる」と目賀田は言います。
過去には老朽化から取り壊し寸前だった明日館ですが、1997年(平成9年)に国の重要文化財の指定を受け、その後、約3年間にわたって大掛かりな保存修理工事が行われました。現在は、結婚式やイベント会場として一般の方でも利用することができ、重要文化財の「動態保存」の成功例として注目されています。
設計のプロが語る「明日館」の3つの魅力
完璧主義で、建物はもちろんインテリアや家具に至るまで、細部までこだわりが強かったライト。明日館でもその片鱗が随所に見られるものの、空間全体はまったく堅苦しくない印象。ライトがつくる空間を「どこまでも人懐っこく、人をほっとさせる魅力がある」と、目賀田は話します。
「ガラス窓の使い方を見ても、内外のバランスをとるのが非常に巧みだと思います。窓の下枠の高さはほぼ机と同じ高さに揃えており、生徒が座ると外への広がりを感じられたことでしょう。一方、この下枠を左右の壁面まで貫通させることで空間に安定感が生まれ、学び舎にふさわしい落ち着きも感じられます。船底天井の一番高い位置は恐らく教壇と一致しており、そこに立つ教師への求心力を高めていたようにも思えます。この天井の勾配が途中で切り替わり、窓の上枠へ吸い込まれていくことで、天井面を伝う光がとても美しく見えますね。教師、生徒それぞれが心地よく感じられて、かつ学びに相応しい空間を驚くほど繊細な感覚で表現しています」(目賀田)
さらにライトの建築は、ひとつの空間を“さまざまな視点”で捉えられる特長を持ちます。あらゆる物事を多角的な視点から観察する大切さを、建物を通して暗に示していたともいわれています。
「ラウンジホールの吹抜けには、非常におもしろい仕掛けが施されています。導入部の天井は、ちょっと圧迫感をおぼえるぐらいに低く抑えています。ここからホールへ入ると一気に頭上が吹き抜け、天井まで伸びる印象的な連層窓が建ち現れる。なんともドラマチックな空間体験です」(目賀田)
「天井の低いゾーンから大きな吹抜け空間をのぞき見る感覚も楽しいものです。吹抜けに面する中2階部分は、そんな心地よさを味わえる居場所ですね。ここからの景色は、同じ空間を見ていても1階からのそれとは印象がまったく異なります。ひとつの空間を多様な視点から楽しみつつ、全体として一体感のあるつくりにもなっている。ライトの計算を感じるところです」(目賀田)
外から見ると小ぢんまりとした印象の明日館ですが、内部空間は意外と広く開放的なことに驚かされます。その理由について、目賀田は「入口や廊下の天井をあえて低くすることで、開放的な空間がより強調されているため」と推測します。
「これは家づくりにも言えますが、天井はただ高ければいいというものではありません。天井の高い空間は、気持ちが高揚するというか、活動的な空間に適しています。反対に低く抑えられている空間は、鎮静効果というか、ちょっと落ち着いた気分になります。天井が高いところと低いところでは、空間に求められる機能が異なるため、両方をうまく住宅に取り入れることが大切なんです」(目賀田)
ライトの建築に秘められた「快適空間」のポイント
目賀田は、ライトの建築に込められた「心地よさの秘密」をこのように分析します。
「たとえばその日の気分やしたいこと、一人なのか他人と過ごすのかによって、自分が心地よく感じる場所は様々だと思います。季節や時刻によっても変わりますし。もし住まいが単一でフラットな空間だと、気分に応じた居心地を求めることができなくなってしまいます。その点この建物には実に多彩な居場所が共存し、限られた容積の中に場所の選択肢がたくさんあります。ここに座りたいな、あそこは陽があたって気持ちよさそうだな、こっちの方が作業をするには落ち着くな……という具合に、その時々の気分に応える居場所がそこかしこにあり、とても豊かな空間だと思います」(目賀田)
「それから、やはり天井の扱いが印象的でした。食堂を例にとると、皆が集まって賑わう場所なので、まずはスケールが大きく天井が高い空間にしていた。ところがライトは着工後、現場視察に来た際に、即興で天井から大きな照明を吊るしたといいます。それは想像するに、「生徒がおしゃべりするには、もっと親密な空間にした方がいい」と考え直したからではないでしょうか。印象的な照明デザインによって視線を手前に集めて親密感を作り、一方で天井の高さを意識の外に追いやったのではないかと。ライトは天井の高さが人の心に及ぼす影響をよく知っていたのだと思います」(目賀田)
「天井に高低差をつくって居心地を増す工夫は、xevoΣの設計でも取り入れています。xevoΣでは、頭一つ抜けた開放感を味わえる2m72cm(※1)の天井高を標準とし、従来の2m40cm天井や、床をスキップダウンしてつくる3m超えの天井高と組み合わせることで、居心地に応じた多様な空間をデザインできます。そうしてできあがる住まいには楽しい居場所がたくさんありますし、設計しているこちらもとても楽しいです(笑)。今、全国のダイワハウスの設計士はそういうことを一生懸命工夫して、お客様の住まいを描いていると思いますよ」(目賀田)
- ※1天井高は2m40cm、2m72cm、さらにグランリビングモア(36cmダウン)と折上天井(8cmアップ)を組み合わせることで、最高3m16cm(1階のみ)まで実現。天井高は間取りや建設地、建築基準法(法令)等により対応できない場合があります。
建築をただの物質ではなく、人との関わりから捉え直し、豊かな空間づくりを追求したフランク・ロイド・ライト。xevoΣには「平屋暮らし」といったライトのプレイリースタイルを思わせる住宅もラインナップされています。ライトが提唱しつづけた「有機的建築」を家づくりに取り入れてみたい方は、まずはお気軽にダイワハウスにご相談してみてはいかがでしょうか。
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