日本有数の避暑地として名高い軽井沢で、
ホテル「ししいわハウス」はホスピタリティあふれるサービスを提供しています。
人、自然、建物、そしてアート。これらが交錯して生まれる価値。
ここにしかない体験をもたらす珠玉のホテルをご紹介します。
古くから日本を代表するリゾート地として知られ、近年再び人気が高まっている軽井沢。その歴史は古く、明治時代に端を発します。この地を訪れたカナダの宣教師が風光明媚な環境に感銘を受け、家族や親しい友人達と過ごす別荘を建築したのをきっかけに、大きく発展したといわれています。
現在はアウトレットモールなどでにぎわうJR軽井沢駅から、車を走らせること約15分。自然豊かな別荘地である千ヶ滝エリアに入ると、木立の中に小さなホテルがふと現れます。その名は「SHISHI-IWA HOUSE(ししいわハウス)」。「ししいわ」とはかつて使われていた、この土地の旧名称です。
ししいわハウスは、全10室で構成された小さなリゾートホテル。2019年2月の開業以来、さまざまなメディアで注目され、国内はもちろん海外からも多くのゲストが訪れています。
自然の中に主張しすぎることなく佇む外観は、樹木に囲まれ、まるで何十年も前からそこに存在してきたかのよう。もともとこの土地に自生していた楢(なら)、紅葉、桜などの木をできる限りそのまま生かすように建築されたそうです。外周のどこにも角がない有機的なフォルムは既存の木を切らないよう、木々に添うようにという配慮のもとにデザインされました。人工的なイメージが取り払われ、四季の景色に溶け込むように存在しています。
ホテル建築としては珍しい木造パネル工法の建物を設計したのは、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞受賞建築家の坂 茂氏(ばん しげる)です。建物自体はもちろん内装も坂氏のデザイン。有機的な形状ゆえに施工には約1年という長い時間が費やされたそうです。規格化できない一つひとつの部材を丁寧な手作業で調整し、寸分の狂いもなく仕上げた職人の手仕事。ディテールの繊細さが全体の美をさらに引き上げています。
玄関から中に入ると、そこは木の構造体が美しい吹き抜け天井の空間になっています。「こんにちは」と温かい笑顔で迎えてくれたのはジェネラルマネージャーの山田和彦さんです。「ライブラリー」と名付けられたこの部屋は、ゲストが最初にもてなされるレセプションエリア。チェックイン後は、座り心地の良いソファに腰かけて蔵書を手に取ったり、大きな木枠ガラスの扉越しに自然の風景を楽しんだりできます。
ししいわハウスの大きな特徴は、ユニークなコミュニケーションのスタイルを提案している点にあります。全10室の個室は3つのクラスター(集団)に分けられ、それぞれのクラスターにミニキッチン付きリビング・ルームが設けられています。さらに、3つのリビングを、グランド・ルームが結びます。
通常のホテル建築が有するパブリックゾーンの床面積は全体の2割程度であるのに対し、ししいわハウスでは約5割。なぜそれほど交流の場を広く取っているかというと、「ソーシャルホスピタリティ」をコンセプトとしているからです。
根底には、人と人の交流から癒やしが生まれ、喜びを得られるという考え方があります。家族や仲間との語らいの時間、あるいはここで初めて出会った人との触れ合いによって、旅はより思い出深いものとなることでしょう。「リゾートホテルには、プライベートな時間を過ごす個室だけでなく、人と人が時間を分かち合う場所が必要だと思うのです」と山田さん。“ホテル”というよりも、建築家が建てた“家”に泊まる感覚を味わっていただければ、とのこと。「HOTEL(ホテル)」ではなく「HOUSE(ハウス)」という名前にも、そうした思いが表れているようです。
ライブラリーは吹き抜け天井が特徴的。木製パネルの構造がユニークな空間をつくり出しています
リビング・ルームにはソファやダイニングセット、ミニキッチン。我が家のようなくつろぎ感を味わえます
波状の屋根と曲線的な形状が特徴的。外壁にも杉材が用いられ、屋根の曲線とともに柔らかな印象を与えています
館内で使われている家具は坂氏がセレクトしたもの。自身がデザインしたソファやテーブルやベッドも用いられています。環境に優しく強度に優れた「紙管」を建材や家具の材料として用いるのが得意な坂氏らしく、グランド・ルームのダイニングチェア、リビングのテーブルの脚、個室のベッドヘッドやリーディングライトなどに紙管が見られます。また、フィンランドの建築家で家具デザイナーでもあるアルヴァ・アアルトの名作ソファなども置かれています。
「本物に触れていただくことにこだわりがあります」と山田さんが語るように、館内の至るところに掛けられているアート作品も全てレプリカではなく本物。1960年代の具体美術の巨匠・吉原治良をはじめ、著名なアーティストの作品が惜しげもなく展示されています。
どこにもない。そして何にも似ていない。オリジナリティーあふれるホテル空間には、唯一無二の芸術作品がとてもよく似合います。
坂氏が得意とする「紙管」のダイニングチェア。一つひとつの紙管の丸みが体にフィット
朝陽で満たされたグランド・ルーム。3つのリビングから自由に出入りできます。広いウッドデッキにより、中庭の自然との一体感を感じられます
きめ細かな繊維がつくり出すなめらかな肌触りのシーツに包まれてベッドに横たわると、深い眠りの先にさわやかな朝が訪れます。窓を開けると朝陽とともに野鳥の声が。手を伸ばせば届きそうなほど近くに自然が存在し、澄んだ空気が心と体を満たします。
「標高約1000メートルの軽井沢の気圧は、ちょうど胎児が母親の胎内で感じる圧力と同じという説があります」(山田さん)。ただゆったりと過ごしているだけで心が安らぎ、森林浴のようにリフレッシュできるこの場所。近くには美術館や有名な教会などの観光施設もたくさんありますが、どこにも出かけずにあえて滞在を楽しむゲストも多いそうです。
人気の高いひのき風呂つきの個室。ワイドな掃き出し窓の景色を眺めながら贅沢なプライベートタイムを
ししいわハウスで使われているアイテムには、一つひとつに選ばれた理由があります。ゲストのために個室に用意されているのは、ペットボトルではなく美しいガラスのカラフェに入れられた水。できるだけゴミを出さずに自然にやさしい滞在をという願いが込められています。
バス・アメニティーには、環境に配慮したドイツのブランド。100%天然由来成分でできた生分解性のシャンプーやコンディショナーを使うことで、滞在中のゲストはおのずと環境保護への思いが高まることでしょう。
朝食はグランド・ルームで。一枚板の大きなダイニングテーブルに集まると、フルーツや牛乳、パンなどコンチネンタルスタイルのモーニングが供されます。新鮮な地元産の食を味わい、朝陽に照らされる中庭の景色を目で楽しみながら、ゲスト同士の会話が弾みます。
人、自然、建物、そして現代アートに触れる小さなリゾートホテル、ししいわハウス。忙しい毎日のリセットに、いつか建てる家の参考にと訪れる人も多いのだとか。ここでしかできない特別な体験を求めて、大切な人とぜひ訪れてみませんか。
季節ごとの見事な風景を楽しめる個室のバルコニー。再生プラスチックを使ったアウトドア家具は坂氏デザイン
地元産の新鮮な食材を使ったコンチネンタルスタイルの朝食
シンプルな個室カウンター。無駄を省いたデザインが見晴らしの良さを際立たせます
坂茂建築設計代表。東京、パリ、ニューヨークにオフィスを構え、木材など構造材の美しさを生かした建築で知られる。紙管建築や大型木造建築の先駆的作品で、プリツカー賞(2014年)をはじめ、数多くの建築賞を受賞。
SHISHI-IWA HOUSE(ししいわハウス)
- 住所/
- 長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-646
- TEL/
- 080-7691-6020
- HP/
- http://www.shishiiwahouse.jp/
取材撮影協力 / SHISHI-IWA HOUSE(ししいわハウス)
2019年12月現在の情報となります。