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特集 新風館(しんぷうかん)

新しい風がつなぐもの

京都の中心、烏丸通と姉小路通、東洞院通(ひがしのとういんどおり)に面した一角に、
大正時代の趣を残すクラシカルな建物がたたずんでいます。
今回は、約1世紀の時を超え、開かれた施設へと生まれ変わった「新風館」を訪ねました。

未来に価値をつなぐ2度目のリニューアル

新風館の前身は「京都中央電話局」。1926(大正15)年に建てられ、後に京都市指定・登録文化財第一号に登録された、歴史的価値のある建物です。設計を担当したのは逓信省技師(当時)の吉田鉄郎氏。近代モダニズム建築の先駆者と評され、旧東京中央郵便局や旧大阪中央郵便局などの建築作品も手掛けた人物です。

新風館は電話局としての役目を終えた後、創建当時の姿を残しつつ商業施設として再開発され、約15年にわたって街の人々に親しまれました。その後2016年に一時閉館し、4年の歳月をかけて2度目の再開発を実施。建築家・隈研吾氏による新棟も建設され、2020年6月、ホテルや店舗、映画館などからなる複合施設としてリニューアルオープンを果たしました。

コロナ禍のため人影まばらな時期もありましたが、近年は開館時間を迎える前からにぎわい始めます。ふらりと訪れる近隣住民や、足どり速く会社に向かうオフィスワーカー、古都の観光をのんびり楽しむ外国人旅行客など、さまざまな人の姿が見られます。

1度目の開発も、2度目の開発も、コンセプトは「伝統と革新」。大正モダンの優美な建築は、未来に物語を紡ぐために生まれ変わり、その価値をつないでいるのです。

旧京都中央電話局(NTTファシリティーズ所蔵)

姉小路通に面したエントランス。アーチ状の入り口奥にレトロな照明がのぞき、大正時代の情緒がたっぷり

風が通り抜ける自然との触れ合いの場

「新風館」という名前の由来は、京都に新しい風を吹かせたいという願いから。その名を体現するように、街に対して開かれた造りになっていることが、館内のどこにいても感じとれます。

面する3つの通り(烏丸通、姉小路通、東洞院通)にはそれぞれ特徴的なエントランスが設けられており、路地のような通り庭(パッサージュ)を通って中庭にたどり着くようになっています。京都の街並みの特徴である町家や路地のスケール感を敷地内にも表現することで、街との一体化を目指したデザインです。

特筆すべきは中庭の豊かな自然。旧棟(下画像左)と新棟(下画像右)に囲まれ、人の手による創造物と見事な調和を見せています。植えられているのは京都の山々に自生する樹木や草花。小川を思わせる水の流れとともに、自然の縮図を形づくります。

モミジやシダ植物などを中心とした植栽が美しい中庭

また、それらの織りなす豊かな季節感の中に、京都ゆかりのアーティストの手による彫刻作品が加えられ、人と自然をつなぐ潤いの場が完成しました。中庭を背にしつらえられたベンチで本を読む人やテイクアウトのスイーツを味わう人、築山の周りをぶらぶらと散歩する人、葉陰に小さな生き物の姿を見つけて喜ぶ親子連れ…。さまざまな人々が思い思いの目的でこの中庭を訪れ、自然との触れ合いに心を癒やされています。

実用的な館内のサイン類にもデザインが光ります

中庭の緑を背に、心地良い風を感じながら静かなひとときを

大正と令和をつなぐディテール

5つの丸い石は役割を変えて中庭へ

中庭のあちこちで見かける球体は、花こう岩でできた「車輪除けの石」。昔は馬車や自動車の車輪が壁に当たらないように設置されていたのだとか。現在は中庭を飾るオブジェとして5石が置かれています。

創建時の趣を再現したタイルやサッシ

2020年の再開発では、創建時と異なる部材で補修されていた箇所の手直しを実施。元の部材と色味の近いタイルやサッシで修繕して、できる限り当時の建物外観に近づけました。

室町時代の遺構の石組を復元

新風館のある場所は、白河法皇の院政時代に院御所が構えられていた土地。鎌倉時代や室町時代には武家屋敷がありました。リニューアル前の調査で15世紀頃の池から滝石組(たきいわぐみ)が発掘され、現在は屋上庭園内に据えられています。

1階部分の天井が高い歴史的な理由

昔の電話交換機にはかなりの大きさがあったため、電話局は天井高が高く設計されていました。
こうした理由で、旧棟はもちろん、旧棟と天井高をそろえた新棟も、1階は天井が高く開放感のある空間になっています(写真はエースホテル京都内のカフェ「Stumptown Coffee Roasters」)。

京都らしい伝統と革新の館

古くから「伝統と革新」の気風が根付く京都で、歴史のあるもの、価値のあるものを守りながら、新しい時代に呼応する施設を目指した新風館。2回目の再開発においても、伝統を重んじつつ新しい挑戦を柔軟に取り入れていく、京都らしいコンセプトを大切に計画されました。その精神は、建物の外観や内観のそこかしこに形となって表現されています。そして、それらの唯一無二のデザインが、他にはない個性を際立たせます。

烏丸通側のエントランス。時を重ねたタイルの外観が街路樹の緑と調和しています

また、時折開催するカルチャーイベントにおいても、京都の文化や情報を広く発信しています。これまでのラインナップを見ると、雅楽の演奏会や地元大学のオーケストラによる演奏会、京都在住の畳職人による作品展示など趣向も多彩。今後も折に触れてさまざまなカルチャーイベントを企画していくそうです。

訪れる人と地域をつなぎ、自然と人をつなぎ、過去と現在の時間をつなぐ新風館。これからもさまざまなものをつなぐ場として、京都の街に欠かせない存在であり続けることでしょう。もしも京都を旅する機会があれば、時を超えた魅力を体験しに、新風館を訪れてみませんか。

建物内を横断する大断面の木組み架構

ランダムな角度を描く銅色のルーバー

南面・東面を覆う金網のスクリーン

東西の文化をつなぐエースホテル京都の
デザイン

アメリカのライフスタイルホテルブランド・エースホテルが、日本で初めて出店したのが新風館でした。 交流や体験を創造する同ホテルの存在が、新風館全体の賑わいをさらに高めています。

天井の高いフロントロビー。東西の文化の融合や、地元住民や旅行者同士の交流を目指して設計された空間に、開かれたムードが漂います

客室にも洋の東西を融合したユニークなしつらえが。写真は、青い市松模様の襖に和紙の照明、明るい黄色のソファで構成された一室

姉小路通に面したホテル入り口。存在感をたたえながら主張しすぎない木目の看板が、訪れる人を温かく迎えます


取材撮影協力

新風館

〒604-8172
京都市中京区烏丸通姉小路下ル場之町586-2

https://shinpuhkan.jp/

2024年10月現在の情報です。

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