新型コロナウイルス感染症をきっかけに、多くの企業で導入された在宅勤務。
アフターコロナの時代になっても、テレワークは時間や場所にとらわれない
労働形態の一つとして続いていく可能性が高いでしょう。
今回は、大和ハウス工業のインテリアコーディネーター、野元祐美子が、
仕事の集中力や作業効率を高めるインテリアについてご提案します。
机と椅子の高さやアクセントカラー、照明計画など、
インテリアのアイデアでご自宅でのテレワーク環境がさらに快適になります。
Profile
埼玉西支社 住宅事業部 住宅設計課
野元 祐美子
インテリアコーディネーター、二級建築士、
エクセレントインテリアコーディネーター(社内認定)
住まいづくりはお客さまそれぞれの思いを形にすることだと考えます。言葉にできない思いをくみ取り、より良いご提案ができるよう心掛けています。
細かな部分に気を配ることでインテリアの仕上がりは大きく変わり、美しいものになります。
シンプルで機能的な空間を目指し、プロだからこそ気付くことをお客さまと共有しながら、居心地の良い住まいづくりのお手伝いをさせていただきます。
ワークスペースを快適にする3つの条件
ご自宅のワークスペースを考えるとき、専用の個室をつくる方法と、リビングなど家族の共有空間の一角につくる方法があります。そのどちらにも共通する、テレワークを快適にする3つの条件をまずは確認してみましょう。
1)机と椅子の高さ・作業に合わせた机の広さを計画
フルリモートで長時間、ご自宅で仕事をする場合には、机と椅子のマッチングが疲労度を大きく左右します。パソコン作業のときはキーボードの厚みの分だけ机をやや低めにする方が疲れにくいなど、作業内容によって最適な高さがあるので、ワークスペースにはご自分の作業内容に合わせた机と椅子を設置する、または自由に高さが調整できる昇降式の椅子を取り入れるのがいいでしょう。
LDKの一角にワークスペースをつくるときには、ダイニングチェアを併用することも多いと思います。ダイニングチェアは高さ70cm前後のダイニングテーブルに合わせてつくられているので、ワークスペースの机の高さも70cm程度に合わせておくといいでしょう。
使う方の身長や体のバランスによってベストな高さは変わるので、お客さまには当社のリビングサロンのテーブルの高さ(埼玉西支社では72cm)を実際に体感していただきながら、打ち合わせの中で決めていくことが多いです。
事務用机の奥行きは60cmあると理想ですが、ノートパソコンだけの作業なら45cmあれば十分です。その場合、幅を120cmほど確保できると様々な作業にも対応できます。また、スペースが限られている場合、サイズの合った机を設置するのが難しくなるので、空間を有効活用できる造作カウンターがおすすめです。机のように引き出しはなくとも、足元に市販のワゴンなど可変性のある収納棚が置けるスペースを計画しておくと使い勝手が良くなります。
2)使いやすい位置に過不足のない収納スペースをつくる
例えば書類仕事なら、A4サイズの書類が入る奥行き23cmの収納スペースを、机から手の届く位置に計画しましょう。机と収納スペースはL字に配置されていると取り出しやすいですが、書斎が細長い場合などは机の上部や背面に収納スペースをつくります。
収納棚に扉をつけるとスッキリと見えますし、ほこり対策にもなりますが、書類をしまうときに扉を開けるというひと手間が増えるのと、有効寸法が減ってしまうのがデメリット。中間的な間仕切りとしてロールスクリーンをご提案することもあります。
「見せる収納」「隠す収納」どちらがいいかは、お客さまの状況にもよります。設計段階でお客さまのご自宅に伺わせていただく際には、お仕事内容やモノの量をはじめ、これまでの生活において感じられていた収納のお困りごとなどもヒアリングしながらベストな収納法を見つけていきます。
3)タスク・アンビエント照明で必要な明るさを確保
部屋全体を明るく照らすのではなく、天井照明(アンビエント照明)の照度を控えめにし、作業用照明(タスク照明)で必要な明るさを確保するのが「タスク・アンビエント照明」の考えです。
リビングの一角にワークスペースをつくる場合はもちろん、個室タイプの書斎でも、全体を明るく照らすのではなく、天井埋め込みタイプの温白色(自然な色)の照明に、デスク周りを照らす昼白色(青みがかった色)の照明を組み合わせると、他の空間とのバランスも良く、必要な照度を確保できます。
タスク照明は利き手とは逆側に設置して、手暗がりにならない工夫も必要です。タスク照明はクリップライトなど可変性のものを後から追加することもできますが、あらかじめ必要な電源の数やコンセントの位置を想定して住宅を設計しておくと、延長コードなどを準備する煩わしさから解放されます。
テレワークスペースの実例【1】おこもり感で集中できるホテルライクな書斎
こちらのお客さまは書籍やご趣味のカメラを収納できる、ご自身のスペースをつくりたいということで、大きな収納棚を擁する4畳ほどの個室タイプの書斎をご提案しました。
家全体の天井高は2m72cmですが、書斎だけはあえて2m40cmに下げています。当社設定品の書棚に合わせて天井の高さを下げることで、間延びしないおこもり感のある空間になりました。
落ち着いたブラウンを基調に、床にはカーペットを採用して、お客さまのご要望であるホテルライクな雰囲気に仕上げています。ワークスペースは床材選びも重要です。フローリングだと、キャスター付きの椅子で動いたときに意外と音がするのと滑りやすいのに加え、ペンなどを落とした音が鳴り響いてしまうことも。カーペットやカーテンのような布製のものを取り入れると、オンライン会議のときの声の反響が軽減できます。
テレワークスペースの実例【2】来客用和室を書斎として活用
こちらのケースでは来客用に和室をつくりたいというご要望と、会社を経営しているためご自宅での事務作業が多いということで、6畳の和室をワークスペースとして有効活用することをご提案しました。
和室を小上がりにして足元を掘り込み、足をおろせるようにしています。手前は掘りごたつで、畳をはめればフラットな和室に。後方には造作カウンターを設け、複数人で同時に作業をすることもできます。場合に応じて柔軟に利用できるワークスペースの一例です。
テレワークスペースの実例【3】リビングの一角に造作カウンターを設置
リビングの一角に幅170cm、奥行き45cmの造作カウンターを設置して、ワークスペース兼3人のお子さまの勉強スペースをつくりました。落ち着いたブルーの壁紙がインテリアのアクセントになっています。
アクセントカラーを取り入れるときは、集中しやすいブルー系や、落ち着くグリーン系の色をよくおすすめします。赤系は精神的に緊張感を与えるので避けた方がいいでしょう。最近は、彩度を抑えたグレーがかった水色や薄いグリーンも人気です。特に、リビングの一角につくる場合は彩度を抑えた色の方が、カーテンやソファなど他の家具とも調和しやすくなります。
照明はどの位置に座ってもしっかり照らせるよう、両方向にスポットライトを付けました。オンライン会議のときなども、角度を変えることで顔を明るく照らすことができます。
テレワークスペースの実例【4】マルチな用途で使えるカフェ風スペース
2階のセカンドリビングに設置したこちらのワークスペースは「カフェのような雰囲気にしてほしい」というお客さまのご要望があり、落ち着いた水色の壁紙や意匠性の高い照明、見せる収納など、カフェのようなデザインでまとめました。不定期の在宅勤務やお子さまの勉強スペースなど、ご家族で様々な時間を過ごせそうです。
部屋の色味は、機能の面から考えるのはもちろんですが、お客さまのお好きな色を参考にすることも多いです。持ち物や住み替え前のお部屋の配色などから、お客さまにとってしっくりくる色合いを選び出してご提案しています。
テレワークスペースの実例【5】格子でゆるやかに仕切ったテレビ裏のワークスペース
最近はテレビを設置した壁の裏を回遊式の収納スペースにする設計が人気ですが、ここにワークスペースをつくるお客さまも増えています。壁や格子で仕切ることで、リビングの一角でも集中空間がつくれます。インテリアのアクセントにもなるこちらの格子は設計士のアイデアで、どの高さまでを壁に、どこからを格子にするか、お客さまと打ち合わせを重ねて決めていきました。テレビ裏の限られたスペースでも格子にすることで圧迫感を感じにくく、光や空調の効果も妨げません。
格子の裏側には幅173cm×奥行き45cmの当社設定品のPCカウンターを設置しました。設定品は価格が手頃で、引き出しやノートパソコンを収納できるスペースも備わっています。掃除の邪魔になりやすく、見た目にも美しくないコード類は、足元の奥にあるサブカウンターに置けばスッキリ。
まとめ
住宅の中でテレワークに適した空間をつくるには、最低限必要な条件を整えるのに加えて、作業の動線や体のサイズ、好みの色、生活様式などに合わせてできるだけ細かくカスタマイズしていくことが、業務効率をアップさせる秘訣です。ご自宅でもパフォーマンスを落とさず仕事したいとお考えの方は、ぜひ参考になさってください。