家づくりを考えるとき、建物を優先して、
エクステリアは後回し…という方は意外と多いかもしれません。
しかし、内(建物)と外(エクステリア)のつながりにこそ、
快適な住まいづくりのポイントが隠れているのです。
この連載では、ダイワハウスの設計士が「ここちよいエクステリアの作り方」を、
フロントガーデン、メインガーデン、植栽計画といったテーマ別にご紹介します。
連載の後半では、おうちでのキャンプやアウトドア気分でのテレワークを叶えるエクステリア、
非日常を感じさせるリゾート風ガーデンの作り方といった実例もたっぷりご紹介します。
第2回目はフロントガーデンがテーマです。
エントランス周りや玄関アプローチは、その家の印象を左右する大切な部分。
機能と意匠を両立させたすてきなフロントガーデンの作り方について
大和ハウス工業の設計士、石野純一が解説します。
Profile
大和ハウス工業 東京本社 住宅事業本部 東日本住宅設計室一課 主任
技術士(建設部門・都市および地方計画) 一級造園施工管理技士 1級エクステリアプランナー
石野 純一
戸建住宅のみならず集合住宅や公園緑地など多様な造園設計に携わってきました。植物や石など自然を扱う造園は計画どおりに進まず思い悩むことがある一方、無限に存在する答えを楽しみ、ある一定の道筋をお客さまとともに探っていくことが住宅外構設計の面白さであり醍醐味(だいごみ)です。常に目指すのは、時が経過しても飽きることがなく、気持ちがゆったりするデザイン。心地よくさりげない景観づくりが大切だと感じています。
家の印象を決めるフロントガーデンの重要性
フロントガーデンとは道路に面した部分、つまり門周りや玄関へのアプローチ、駐車場周りを指します。メインガーデン(主庭)が家族でくつろぐプライベートな空間であるのに対して、フロントガーデン(前庭)は敷地の外を通る人の目にも触れ、来訪者も足を踏み入れるパブリックな空間と言えるでしょう。家の格式や空間の豊かさを視覚的に訴えかける、いわば家の「顔」と言える部分なので、建物とのバランスや周囲との調和を図りながら自分らしさを表現しましょう。
メインガーデンは「庭でくつろぎたい」「家庭菜園を楽しみたい」といったご希望でイメージしやすいですが、フロントガーデンに初めから明確なイメージを持っている方は少ないかもしれません。そのため、設計士はお客さまに「外部に対してどれくらいの開き具合にするか」というところからヒアリングを進めます。そのうえで門柱、植栽、塀、石、照明といったアイテムを効果的に組み合わせて、バランスのいいフロントガーデンをご提案します。
どの程度オープンにするのか?
ひと昔前は門扉や門柱、塀で敷地をしっかり囲った「クローズドスタイル」が主流でしたが、現在は植栽と最小限のパーツでしつらえた「オープンスタイル」や、程良く仕切りをもうけた「セミオープンスタイル」も増えています。オープンスタイルやセミオープンスタイルは広さに制限があっても作りやすく、パーツを効果的に配することで開放感と領域感が両立できます。
最近主流のオープンスタイル
エントランスに欠かせないものは何と言っても門柱です。最近は、宅配ボックスを備えるケースも増えていますが、宅配ボックスに合わせて門柱のデザインを組み合わせていくのも一つの方法です。
まずは駐車スペースの機能面確保が最優先
フロントガーデンの大きな要素として駐車スペースがあります。必然的にスペースが決まってくる部分なので優先的に考えましょう。敷地と道路の高低差や勾配、前面道路の状況から駐車スペースの場所を決めます。庭や建物を少しでも広くしようとスペースを切り詰めると使い勝手が悪くなるため、余裕を持って計画しましょう。車を2台持っている場合は、車の使用頻度などを考慮した配置を考えます。
車を2台所有する場合の駐車例
道路に面する駐車スペースは、エントランスとつながっているケースも少なくありません。駐車スペースは使いやすく、比較的安価なコンクリートでデザインすることが多いですが、道路沿いの部分だけでも見栄えの良い舗装材を敷くと自然な領域感が演出できます。
アプローチは適度に遮りながら心地よく誘導する
アプローチは家族やお客さまを心地よく迎える特別な場所です。動線の脇に草花を植えたり、床にはタイルや石材などグレード感のあるものを導入し、通るたびにくつろぎや楽しみが感じられるような演出を施しましょう。
アプローチはクランクさせる
道路と建物の距離や、エントランスと玄関の位置関係によってアプローチの取り方は決まりますが、道路から玄関までを直線的につなぐのではなく、クランクさせたりカーブさせたりするのが一般的です。曲がり角やカーブの部分に花や樹木を植えれば視界に変化が生まれ、季節のうつろいを感じることができるでしょう。
敷地と道路の間に高低差がある場合は、階段やスロープが必要になりますが、空間が引き締まりドラマティックな雰囲気になります。
視界に変化を持たせて玄関へと誘導する
アプローチは「ランドマーク」「アイストップ」「リーディング」を設けて視覚に変化を持たせて誘導すると奥行感が生まれます。クランク型のアプローチを例に、①→②→③と視界を切り替える手法を紹介します。
①→入り口を示すのが「アイストップ」となる門柱。その横に樹形が美しいシンボルツリーを植えて「ランドマーク」に。街並みの中でも目印になり、帰宅時には「我が家に帰ってきた」という心理的な切り替わりの効果を生みます。シンボルツリーは大きく育ち過ぎず、管理に手がかからない樹種を選ぶことも大切です。
②→右に折れた視線の先に、程よい高さのウォールや植栽の「アイストップ」を配して適度に遮ると、視覚的な変化が作り出されて奥行感が出ます。
③→あまり高さのない生け垣や花壇、列柱などのつらなりが玄関へとさり気なく誘導します(リーディング)。照明を配置すれば、夜間の見栄えや安心感につながります。
ゆったりとしたアプローチが確保できなくても、門柱をポーチの中に食い込ませるように配置してクランクのような雰囲気を作ったり、門柱の足元に花や緑を植えたりして見栄えの良いアプローチを作ることができます。道路と玄関が近い場合は、玄関口の向きを変えるなどして道路からの直線的な視線を遮りましょう。植栽や門柱、程よい高さのウォールなどを取り入れて目隠しをすれば、領域感が作れます。
フロントガーデンは街並みと調和するデザインに
道路に面しているフロントガーデンは住まいの「顔」であると同時に街並みの景観にもつながる大切な役割を果たします。建物との調和はもちろん、街並みともなじむフロントデザインを考えていきましょう。
ポイント1:自然素材を活用する
我が家の外壁は黒でモダンな雰囲気なのに、隣は真っ白でナチュラル…という具合に、近隣の建物と色合いやテイストが異なることもあるでしょう。色やテイストが異なる街並みであっても、フロントガーデンに石やレンガといった自然素材を取り入れるとなじみやすくなります。
ポイント2:建物の外壁より濃い色を選ぶ
門柱や塀を建物と同じ色にして連続性を演出するケースもありますが、エクステリアは建物よりも地面に近い位置にあるため、建物よりも少しだけ土に近い濃い色味(例:建物がベージュならエクステリアをダークブラウンにするなど)に寄せるとまとまります。フロントガーデンには、人工的な構造物である建物と自然をつなげる効果もあります。
ポイント3:中間領域を作る
敷地の境界ギリギリまで建物を建てるのではなく、建物と道路の間に植栽や雰囲気のいい衝立などをあしらったスペースを設けることをおすすめします。家の中からは窓越しに緑が眺められてさりげない目隠しになり、道行く人も季節の変化を感じることができます。敷地の内と外を緩やかに分ける「中間領域」は、街並みに豊かさをもたらします。
「使い勝手が悪い」「生活感丸出し」ありがち失敗例は?
フロントガーデンでよくある失敗例をご紹介します。
使いにくい駐車スペース
駐車スペースを十分に確保しないと、乗り降りの際にドアがぶつかったり、体を横に向けないと車の横を通れなかったりということになります。道路と敷地の高低差がある場合は、駐車スペースの奥行を十分に取らないと勾配がきつくなり、出し入れの際に車の下部を擦りやすくなります。前面道路の幅が狭い場合は内輪差を考慮して、駐車スペースの間口を広めに取ることも忘れずに。
インフラ設備が丸見え
電気・ガスのメーター類や電柱、室外機などの設備類が正面から目立つ場所に丸見えになっていたらすてきなフロントガーデンも台無し。建物とエクステリアを合わせて計画すれば、そうした事態は回避できます。
排水管が邪魔をして木が植えられない!
シンボルツリーは門柱の横など「ベストポジション」が決まっていますが、その地中に排水管が通っていたら植えることができません。建物の排水計画と合わせて植栽計画を考えておく必要があります。
設計士からのアドバイス
「エントランスはしっかり囲いたいのか、閉じ過ぎず開き過ぎずにしたいのかなど、お客様のご要望をもとに、安心感と見栄えのバランスをはかりながらパーツや植栽を効果的に組み合わせていきます。塀の高さや植栽とのバランス、耐久性とデザイン性を兼ね備えた素材選定等はしっかりアドバイスさせていただきます。フロントガーデンは、花や樹木をきっかけにご近所の方との交流が生まれやすい場所です。植栽計画はもちろん、自然素材や街並みに溶け込むようなさりげないデザインを取り入れて、住まいの「顔」となる部分をしつらえていきましょう」
※掲載されている実例写真の外観や仕様等につきましては、敷地、周辺環境等の諸条件や地域の条例、その他諸事情により、採用できない場合もございます。