身近に植物があると、季節の移り変わりを感じ、日々の小さな発見に心が豊かになります。
盆栽の魅力とともに植物との暮らしについて、
塩津植物研究所の塩津丈洋(たけひろ)さん・久実子さんご夫妻に伺いました。
左から、ピンと伸びた枯れ枝で生命力を表現したシンパク。四季の移り変わりを楽しめるカエデ。幹の表情が味わい深い古木のローズマリー。形も樹種もさまざま。
鉢の中に自然の風景を再現し、季節を楽しむ
「盆栽とは、鉢の中で植物を育て、自然の風景を再現するものです」と塩津丈洋さん。枝ぶりのいいマツなど格調高く難しいイメージがありますが、盆栽はもっと自由で誰でも楽しめるものだと言います。「例えば、子どもの頃にどこかで見た景色など、身近な風景も盆栽になります」。植物の種類も、ローズマリーやオリーブなどでも構いません。
また、日本には四季があり、花が咲いたり、紅葉したり、樹木の姿が変わっていきます。それが小さな鉢の中で繰り返されていくのが盆栽です。「大きく育てるのではなく、ずっと小さいまま。それが盆栽のおもしろいところでもあります」。大切に育てれば、何十年と長く付き合っていけるのが魅力です。
盆栽は生き物。日々の暮らしに喜びを
「盆栽を育てるのは難しそうとよく言われますが、水のやり方や基本的な剪定(せんてい)の仕方さえ知っておけば、初心者でも大丈夫」と久実子さん。「まずは環境やライフスタイルに合った、育てやすい種類を選ぶといいですね。家を空けがちでこまめに水がやれない場合は、水持ちのいい深めの鉢に仕立てるなどの工夫を」。おすすめは季節感が楽しめる落葉樹。特にカエデは育てやすく、秋には紅葉が楽しめます。
「植物は生き物なので、もちろん枯れることもあります。たとえ枯れたとしても、原因をきちんと知ることで、次は上手に育てられるようになりますよ」
愛情をたっぷり注いで育てた植物は、日々の暮らしに新たな発見や喜びを与えてくれます。
自然を身近に感じる、盆栽の楽しみ
育てる場所と、飾る場所は別
盆栽はしつらえの一種。花を生けるように飾り、お客さまをもてなす。
「盆栽は太陽の光や風が大好き。庭やベランダなどで育て、室内に置きっぱなしにしないこと」と久実子さん。特に蒸し暑い夏は要注意。長時間の外出で水をやれないときは日陰へ。帰宅してから室内に飾って楽しみます。
棚の上に飾ったケヤキ。ふと目をやると小さな自然に癒やされる。
日常になじむ自由な盆栽
「盆栽は型にとらわれず、自由に楽しめるもの」と丈洋さん。ご自宅には、鉢からこぼれんばかりに育ったヤブコウジなど、ユニークな盆栽が。のびのびと育ったその姿は、暮らしの中に溶け込み、気持ちのいい空間をつくり出しています。
食卓の上に飾られた、森のようにこんもり茂ったヤブコウジ。
リビングの窓辺には、すくすく伸びた幹がユニークなハゼ。秋には紅葉が楽しめる。
鉢選びの楽しみ
盆栽にとって鉢は大切な要素。「その植物に合った鉢を合わせることで、唯一無二の盆栽になります」と久実子さん。大きさや形、色など多くの種類があり、また骨董や現代作家ものなどによっても雰囲気が変わります。ライフスタイルや飾る場所も考慮して、お気に入りの鉢を選びましょう。
「豆盆栽が人気ですが、土が少ないとすぐ乾燥してしまいます。初心者でも育てやすいのは、両手にのるぐらいのサイズのもの。ある程度深さがある鉢がおすすめです」
季節の楽しみとお手入れ
春は芽吹きの季節
3〜4月頃は、若葉が芽吹き、花が咲くものもあり、あふれる生命力が感じられます。植え替えや剪定などの適期です。
夏は深緑鮮やかに
葉が茂り、緑が深くなります。夏場は水を切らすと1日で枯れてしまうこともあるので、様子を見て水やりをしっかりと。葉が焼けないよう日よけ対策も。
秋は葉や実が色づく
葉が色づき、カキやグミなど実が楽しめる盆栽も。冬に向けて日光をたっぷり当て、肥料を与えて体力をつけさせます。
冬は枝ぶりを愛でる
落葉した裸木の姿に風情を感じるのも醍醐味。枝ぶりや木肌の色、樹形を楽しみましょう。冬場は意外に水やりを忘れがちなので注意。
「植物のペースに合わせてゆっくり気長に育てる」
毎日、植物たちに水をやり、わが子のように様子をうかがう丈洋さん。「例えば、春の植え替えの時期が過ぎてしまったら、無理をせずに来年まで待ちます。人間の都合ではなく、植物のペースに合わせることが大切です」
塩津植物研究所
塩津 丈洋さん、久実子さん
東京から奈良県橿原市に拠点を移して6年。盆栽の仕立てだけでなく「種木屋」として、苗となる草木を種や挿し木から育てている。植物の育成や病気の相談・治療にも力を注ぎ「草木ノ駆け込み寺」となっている。盆栽教室も開催。
http://syokubutsukenkyujo.com(9時〜17時/ 水・木曜休み)
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