『「住む」をエンターテインメント』をコンセプトに、業界に先駆けて
革新的なシステムキッチンを世に送り出してきたトーヨーキッチンスタイル。
経営トップを務めながらデザイン部門も率いる清本英嗣社長に
デザイン哲学についてインタビューしました。
―トーヨーキッチンといえばオールステンレスのキッチンが浮かびます。ステンレスへのこだわりは、どこから生まれたのですか。
当社の歴史をひも解けば分かりますよ。発祥は岐阜県関市の刃物屋でしたが、板金の職人を活用できるステンレス産業に移行し、1934年に洋食器メーカーとしてスタートしました。1958年にはステンレス製流し台の生産を開始します。その後、他社との差別化を図るために注力したのがデザインです。この頃、私はデザイナーとして入社しました。
当時の日本では、お手本となるような優れたデザインのキッチンはどこにもありません。だから、発想のヒントを得ようと国際家具見本市ミラノサローネに向かいました。30歳前後だった私はヨーロッパ各国のシステムキッチンを目の当たりにして、そのインテリアのようなデザインに衝撃を受けたのです。
―私も今年のミラノサローネを見学しました。あまりに美しいデザインに圧倒されました。
日本の遅れを痛感する一方で、デザインの方向性を見出せました。ドイツの機能性と、イタリアのデザインを融合する新しいシステムキッチンを日本でつくれないかと模索し、機能的かつデザイン性を追求した「スピーガ」を1990年に発表。世間に大きなインパクトを残し、現在まで続くデザインの流れを生み出しました。2001年には国内初のアイランドキッチンを提案。他にも、シンクを立体的に活用する「パラレロ」や「3Dシンク」、キッチンを床から浮かせる脚「エアフロー」など、既成概念を覆すアイデアを提案し続けています。
オリジナリティーあふれる意匠とオールステンレスで、 ラグジュアリーな空間を演出するキッチン
―社長ご自身が新商品の企画やデザインを手掛けられるとお聞きしました。どのような物事からデザインを発想されるのですか。
海外の家具や照明、アパレルや車の展示会などで、世界のデザイントレンドをつかみます。キッチン以外のカテゴリーから着想を得るのは、既存のキッチンを参考にしても革新的な創造にはつながらないから。我々は市場を追うのではなく、市場をつくっています。デザインだけでなく、ライフスタイルの変化やトレンドをいち早くキャッチして新しいアイデアを提供する。この方針で、息の長い商品を開発できます。
アイランド収納「イゾラ」はビルトイン機器も設置可能
―“新しい発想”という点では、早くからキッチンを「設備ではなく空間」として捉えておられますよね。
家族と過ごす時間が減少するにつれ、コミュニケーションを大切にしたいという要望が湧き起こりました。そこで私たちは、キッチンを「家族が集う場」として捉え直しました。食事中はもとより、料理をしながら、そして食事を終えた後も会話を交わして一緒に過ごしたくなる空間づくりを目指しています。
少子高齢化や共働き家庭の増加など社会環境の変化を背景に、住宅の在り方や暮らし方は変わっていきます。キッチンもその変化に対応しなくてはいけません。この4月に発表した「イノ・メタリックダイヤモンド」では、「KDSトライアングル」という新しい空間のアイデアを導入しました。時短や省力化といった時代のニーズに対する我々なりの答えです。
KDSトライアングル
トーヨーキッチンスタイルが考案した、LDK空間全体「空間ゼロ動線」をかなえるレイアウト。キッチン(Kitchen)・ダイニング(Dining)・アイランド収納(Storage)の3つを効率よくレイアウトすることで作業動線を限りなくゼロに近づけます。
右:2019年4月発表のシステムキッチン「イノ・キューブ」とアイランド収納「イゾラ」
左:斬新なデザインで注目されているオランダのインテリアブランド「モーイ」。写真のシャンデリアは、ワイヤーを使った意外性あふれる逸品
―ライフスタイルや社会全体にまで考えを巡らせるのですね。貴社のコンセプト『「住む」をエンターテインメント』には、どんな思いが込められていますか。
LDKのワンルーム化が進む今、キッチン設備と空間を分けて考えることはできません。キッチンを中心にインテリア全体をコーディネートし、心弾む空間で生活全般を楽しんでいただきたい。装飾性に優れたモザイクタイルや海外ブランドの照明や家具を扱っているのも、そうした理由からです。
―戸建て住宅のインテリアコーディネートを担当する者として、心が弾むような空間提案には大変共感します。社長ご自身は新商品を発表する際、どのようなお気持ちですか。
それはもう、ワクワクします。人を驚かせる喜びは作り手の醍醐味(だいごみ)でしょう。今回の新商品もどのような反響があるか、非常に楽しみです。
ヴェネチアンタイルブランド「シチス」。1枚ごとに異なるつやと色のピースを組み合わせて独創的な立体美を創り出します
イタリアのインテリアブランド「カルテル」によるカラフルなスツール。最新の技術を用いて美しいプラスチック製品を生み出します
―貴社の商品は斬新なだけでなく、見ていて惚れ惚れするような細部の美しさが印象的です。
ありがとうございます。例えば、扉の内側など、お客さまには気づいていただきにくい部分まで、ディテールに力を入れています。デザイン的には、流氷をイメージしたアイス柄をシンクに施したり、使い込まれたようなエイジング仕上げをドアハンドルに加工したり。品質を左右するのは細部へのこだわりだと自負しているので、丹誠込めた意匠の美しさを無意識にでも感じてもらえればうれしいです。
―そのようなこだわりを実現するには、高い技術力も必要ですね。
仰る通りです。当社では黎明期から会社を支える職人が現役で活躍しており、一つひとつハンドメイドでステンレスを加工しています。機械ではなく手作業の研磨ならば、部品同士のつなぎ目をなくして一枚板のように滑らかな面を生み出すことも、鏡のように反射する意匠を実現することも可能です。彼らの熟練の技術があって初めて、他社とは一線を画すデザインをワークトップやシンクに施せるのです。デザイナーがいくら魅力的な画を描いたとしても、製品化できなければ意味がありません。この仕事は、デザイナーと職人が協力して取り組んで成り立ちます。
上:シンプルなフォルムが洗練された印象を与える水栓「USAGI(うさぎ)」
下:ワークトップだけでなくシンクの内側まで施されたアイス柄は、無作為に削られたような凹凸が魅力
―住まいづくりにも通じるところがあります。住まいのデザインを手掛ける設計やインテリアコーディネーターは、現場で工事を行うスタッフとの信頼関係が強くなる程、前向きな挑戦ができます。現在、職人は何名いらっしゃいますか。
溶接、板金、研磨の職人をすべて合わせて20名弱ですね。高度な技術は会社の生命線です。職人の高齢化が進んでいるので、これからは若手の育成が重要になります。
―最後に、キッチンをお客さまに選んでいただく際に重要なポイントは何でしょうか。
大事なのは、ショールームを訪ねて実物を見て、触れることです。そうすれば、お客さま自身が理想とするキッチンのイメージが膨らみます。こだわりを持ってご自身が好きだと思うものを選び取ってください。服と同じように、使っている自分をより好きになれるようなキッチンを探していただきたいです。
働き方改革など時代の流れもあり、私たちの意識はより家族との暮らしや住まいへと向かいつつあります。LDKの概念を変えることで、人と人のコミュニケーションをより深めることも、キッチンから暮らしを変えることも可能でしょう。日常をもっと楽しみたい方にぜひトーヨーキッチンスタイルを選んでほしいと思います。
―私も、視野を広げてお客さまにワクワクしていただけるインテリア提案を目指します。ありがとうございました。
脚に繊細なデザインを施し、キッチンに浮遊感をもたらした「エアフロー」
トーヨーキッチンスタイル名古屋ショールーム5階「モーイ」の展示フロア。家具や照明などのインテリアアイテムも多数展示されています
株式会社トーヨーキッチンスタイル 名古屋ショールーム
- 住所/
- 〒465-8670
愛知県名古屋市名東区一社2-21 - TEL/
- 052-709-1040
取材撮影協力 / 株式会社トーヨーキッチンスタイル 名古屋ショールーム
2019年6月現在の情報となります。