CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(4)Jリートとはなにか?
公開日:2016/11/30
これまでは資金調達の観点から不動産証券化を見てきましたが、今回は資金運用サイドから不動産証券化を考えてみましょう。我が国では2001年に登場した動産投資信託、通称「Jリート」。創設以来、今年で15年を迎えます。投資に関心のある方ならば、一度は耳にしたことがあるでしょう。Jリートの歴史や市場、商品特性などについてお話します。
バブル経済崩壊後に登場した
リート(REIT)とは、不動産投資信託の「Real Estate Investment Trust」の頭文字を取った言葉です。投資信託は、多くの投資家から集めたお金をひとまとめにして運用の専門家が株式や債券などに投資し、そこから得た利益を投資家に還元する金融商品。「J」は言うまでもなくJAPANのこと。Jリートはオフィスビルやマンションなどの不動産を購入し、そこから得られる賃貸収入や売買益を分配する投資信託のことです。
バブル経済が崩壊した1990年代後半、企業は業績が悪化し銀行から借りた貸付の返済が滞ったり、困難になったりしました。銀行からすれば、巨額の不良債権が発生したことになります。銀行は融資の担保になっている不動産を売却して不良債権処理をしますが、地価が下落しているので、不動産はなかなか売れません。
そこで国は、不動産売買を活性化させる狙いから、2001年に不動産の流動化策を実施、不動産投資信託市場を創設しました。これがJリートの始まりです。
Jリートは、株式や社債と似たようなものです。株式や社債は、株式会社が発行する有価証券。Jリートは不動産への投資・運用を行う会社(不動産投資法人といいます)が発行する有価証券(投資証券といいます)です。
投資家は、証券会社を通じて投資証券を購入します。不動産投資法人は、投資家に販売した投資証券の代金を資金として不動産に投資、そこで得られる賃料収入や不動産を売買して得た収益を投資家に分配します。
Jリートは会社型投信である
不動産投資信託には、契約型投資信託と会社型投資信託の2種類があります。契約型投信は、運用会社と信託銀行の間で信託契約を交わし、信託銀行が運用収益の分配を受ける「受益証券」を発行します。投資家はこの受益証券を証券会社を通じて購入します。
一方、会社型投信は、前述のとおり、不動産投資法人が投資証券を発行、投資家は証券会社を通じて購入します。Jリートはこの会社型投信に当たります。
Jリートは、投資証券そのものを証券取引所に上場しています。不動産は株式や社債に比べて売買される機会が少ないため、売買市場を作って流動性を高めることにしました。企業の株式が上場されているように、Jリートの投資証券は上場されることで広く投資家の目に止まるようにしているわけです。
分配金が年に2回もらえる
個人が不動産に投資しようとすれば1000万円単位の資金が必要ですが、Jリートは銘柄によっては10万円から購入することができ、証券取引所に上場しているためインターネットでも買うことができる手軽さが魅力です。
Jリートの多くは年に2回、決算を行います。このため、運用が好調で利益が出ていれば、1年に2回、分配金をもらえるのが最大のメリットです。Jリートは、利益の9割を分配金に回せば法人税がほとんどかからないので、収益の大部分が分配金として還元されるのも長所です。
Jリートは世相を表す鏡
2016年9月現在、上場されているJリートは56銘柄、時価総額は11兆円を超えています。その種類は大きく分けて2つ。特定の用途に限られている不動産に投資する「単一用途特化型リート」、複数の用途に使われる不動産に投資する「複数用途型リート」です。
単一型は、オフィスビル、マンションや戸建てなどの住居、ショッピングセンターなどの商業用施設、倉庫や配送センターなどの物流施設、ホテル・旅館などがあります。複数用途型は、単一型の組み合わせで、オフィスビルと住居などがあります。
インターネット通販が売り上げを伸ばして物流センターの需要が高まったり、高齢化社会が本格化したことから介護施設や高齢者用住居の建設が増加していることから、ヘルスケア関連のリートも登場しています。Jリートは世相を表す鏡でもあります。
J-REIT保有不動産額・上場銘柄数の推移
(注)取得価格ベース 出典:不動産証券化協会
長所が欠点にもなるJリート
Jリートは株式と同様、元本や分配金は保証されていませんので、リスクがあります。運用対象の不動産でのテナントで入居率が下がって賃貸収入が減少したり、不動産価格が下落したりすれば、分配金がもらえないときもあります。
また、Jリートは運用対象の不動産を購入するため投資法人は銀行から借り入れていますが、法人である以上、業績が低迷すれば銀行からの借り入れが滞り、最悪の場合、経営破たんの危険性も出てきます。
物理的なリスクもあります。投資対象の不動産が地震や台風などの自然災害やテロ・暴動などで建物が崩壊すれば、運用益は出ません。
2008年はリーマン・ショックが発生した年ですが、Jリート初の破たんも起きました。世界的な金融不況に飲み込まれ、不動産価格の下落とともに資金調達に苦しんだ末、「ニューシティ・レジデンス投資法人」が経営破たんしました。
Jリートは「利益の9割を分配金に回せば法人税がほとんどかからない」と話しましたが、これがアダになったのです。利益の大半を分配金にあてるため内部留保がほとんどなく、投資用不動産を買う場合、銀行借り入れや増資、投資ファンドからの投資(投機マネー)に頼るしかないのです。
話は少しそれますが、低金利の時代を反映して、個人によるマンション投資がいま、人気を集めているようです。1980年代のバブル真っ盛りのころにも、投資対象としてワンルームマンションが飛ぶように売れた時期がありました。しかしバブル崩壊によって、投資用のワンルームマンション販売で一躍有名になった会社は、あえなく倒産しました。
不動産投資は、個人投資家が気軽にできるほど甘いものではありません。不動産投資法人も玉石混交ですが、不動産や建設業界の大手など、経営基盤のしっかりしている企業が出資している不動産投資法人は、信用力が高いといえます。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由