地震大国日本では、「来るべき巨大地震」への備えが常に叫ばれています。住宅を建てるにあたり、私たちが備えなければいけない「巨大地震」とは、どのような地震なのでしょうか。地震が住宅に被害を及ぼすメカニズムと対策について、大和ハウス工業総合技術研究所でxevoΣの耐震実験などを手掛けている西塔純人と近藤貴士の2人に聞きました。
大切なのは「地盤の揺れ」ではなく、
「建物の揺れ」の大きさ
地震の大きさを表す数字としては、震源における地震エネルギーを示す「マグニチュード」と、揺れの強さを示す「震度」がよく知られています。震度は7が最大で、2016年4月の熊本地震では、この最大震度を2回観測したことで話題となりました。他にも、地震の揺れの大きさを表す指標として、地震の揺れの加速度を表す「ガル(gal)」と揺れの速度を表す「カイン(kine)」があります。
これらの指標の中でxevoΣの耐震実験では、どの指標を重視しているのでしょうか。大和ハウス工業総合技術研究所の西塔純人に聞きました。
「住宅などの建物に、地震のどのような力が影響を与えるのかという研究は絶えず進歩しています。地震時、住宅に働く力の大きさは、住宅の質量×加速度となるため、加速度を表すガルは以前から揺れの尺度として使われてきました。しかし、地震の被害状況を調査すると、加速度が大きくても被害はそれほどでもないことがあり、最近では速度を示すカインの方が被害との相関関係が高いことがわかってきて、地震動の大きさを表すのにこちらを用いることが多くなっています。
ただ、ここで気をつけなければいけないのは、ガルもカインも、あくまでも「地面の動き」を示す指標だということです。住宅の耐震を考える場合に大事なのは、地面の動きが建物にどのように伝わるかなのです。
地震による地面の揺れが建物に与える影響を考える上で、揺れの周期という指標が重要な鍵を握っています。私たちは、地面の揺れの大きさだけではなく、建物の揺れ方に関係する周期も含めて、地震の揺れが建物に与える影響を考えています」。
建物と揺れの相関性で起こる、共振が揺れを大きくする
揺れの周期とはどのようなものなのでしょうか。同じく総合技術研究所の近藤貴士に解説してもらいました。
「周期とは、揺れ方のリズムのことです。地面の揺れ方だけでなく、建物の揺れ方にも固有のリズム(固有周期)があります。地面の揺れ方=建物の揺れ方ではありません。
たとえば、棒の先におもりをつけた模型を建物と地面に見たてて、手で揺すってみます。まず、ゆっくり動かすと、手とほぼ同じ速度で同じ方向におもりは移動し、棒はしなりません。次に揺らす速度を早めると、棒がしなっておもりは頭を振って大きく動きます。さらにもっと早く動かすと、棒はしなりますが、おもりは同じところにとどまり、あまり動きません。2番目の状態のように、おもりの振動に合うリズムで手を動かしたときに、おもりの揺れが勢いづいて、揺れが増幅されます。これを共振現象と言います。
ブランコの揺れのリズムとブランコを押すリズムが合うと、どんどん揺れが大きくなるのも身近な共振現象のひとつです。
共振が起きるのは、建物が持っている固有周期と地震の周期が一致した時で、揺れそのものは弱くても、建物が共振した結果、激しく揺れて倒壊するなど、被害が大きくなることがあります。つまり、耐震を考える際は、震度やガル、カインだけではなく、地震と建物との共振現象も考えていかなければなりません」。
では、建物の固有周期はどのように決まるのでしょうか。
「建物の固有周期とは、その建物が1回揺れる時間の長さで、建物の高さや固さによって決まります。一般に、建物が高いほど長く、低いほど短くなります。30階程度の超高層建物では4~7秒程度で、10階程度だと0.5~1秒程度と言われています。
通常の地震は揺れの周期が短いため、固有周期の短い低いビルや戸建て住宅は共振しやすく、超高層ビルは共振しにくいとされています。逆に、4~7秒の長周期地震では、超高層ビルや石油タンクも影響を受けます。2003年の十勝沖地震では、長周期地震で石油タンク内の液体が共振して激しく揺れ、タンクの浮屋根を動かして火花が発生、あふれた石油に引火して火災が発生したことで、長周期地震が注目されました」と、近藤は語ります。
熊本地震では、共振で家屋が倒壊
戸建て住宅を建てる上で、どのような点に注意しなければならないでしょうか。
「熊本地震の時は、前震である震度7の揺れで倒壊する家屋はあまり多くありませんでしたが、その揺れで耐震性能が低下し、その次に来た震度7の本震のゆったりした揺れに共振して、倒壊してしまう家屋が見られました。
地震は、最初の数秒間、周期の短い激しい揺れが来て、その後に周期の長いゆったりした揺れが来ることが多くなっています。戸建て住宅は固有周期が短いので、最初の激しい揺れに周期が合いやすく、大きな地震になると柱や梁のつなぎ目がゆるむなどダメージを受けてしまいます。その状態の建物は、ぐらぐらと揺れやすくなり、固有周期も長くなります。こうなると短い周期の次に来る長い周期の揺れにも共振して倒壊する場合があります。いわゆる揺れ疲れで被害が大きくなるパターンです。
住宅の耐震対策としては、最初の激しい揺れを受けても耐震性能が引き続き機能することが重要です。xevoΣの場合は、激しい揺れに襲われても、初期の耐震性能が維持されるので、その後、ゆっくりした揺れが来ても共振の可能性を低くできます」と西塔は語ります。
過酷な条件の耐震実験に耐えたxevoΣ
xevoΣではどのような耐震実験をしているのでしょうか。
「地震波というのは、単調ではなく、いろいろな種類の波が組み合わさっています。その場所でどのような地震波が来るかは、地層や地盤の状態によってある程度予測することができます。超高層ビルを建設する場合は、建設予定地の地盤調査をして、ある程度地震波を予測できるので、免震などの対策をすることができます。しかし、戸建て住宅の場合は、そこまでの調査はできないのが実情です。当社では、全国のどのような地層や地質のところに戸建て住宅を建てる可能性があることため、どこでも対応できるような条件を想定し実験しています。具体的には、過去に起こった巨大地震の中から、戸建て住宅にとって最も厳しい地震波、つまり共振しやすい波を選んで、それを1.1倍に増幅して「実大三次元震動破壊実験施設」(愛称:E-ディフェンス※)において実際に揺らしてみました。さらに同じ条件の揺れを連続で加えてみてその影響を検証しましたが、その過酷な条件で耐えることができたのがxevoΣです。
xevoΣは、さまざまな間取りやデザインの仕様があります。お客様によって、大開口を取りたい、壁を減らして解放的にしたい、重い屋根にしたいなどさまざまな注文があります。どんなプランでも、xevoΣの耐震性能は基本的に持っていますが、大開口で天井高くして屋根を重くすれば、その分周期が長くなるので同じ商品の中でも建物の仕様によって違いは出てきます。そのためにも、なるべく不利な条件で、不利な波を用意することで、あえて厳しい実験をするというのが基本的な考え方です」と西塔は語ります。
単に、揺れの速度を速くする、あるいは揺れ方を激しくするだけでなく、建物の構造ごとに変化する「負荷」を検証していくことを重視し、xevoΣは誕生したのです。
※国立研究開発法人防災科学技術研究所が所管
耐震対策についてもteam xevoがサポート
耐震を考えた家を建てる上で、どのようなことに考慮すべきなのでしょうか。
「地震の被災地を調査するたびに、地震で建物は大丈夫でも、地盤が沈下してしまうなどの被害を受けている家屋を目にします。地盤の被害は地震保険で免責となる場合もあり、自分で補修するには結構な費用がかかってしまいます。どれだけ家の耐震性能を高めても、地盤が崩れてしまっては意味がないので、家を建てるときには、地盤の状態を確認することをお勧めしたいと思います。
ダイワハウスには、建築士や施工技術者など、あらゆる分野の専門スタッフがチームとなったteam xevoがいて、建築予定地の地盤調査をしっかり行っていますので、ぜひ相談してください」と、西塔は語ってくれました。今求められているのは、「タイプの異なる、あらゆる地震に耐える家作り」という課題。ダイワハウスは対策のポイントとなる、家の間取りや大きさごとで異なる「共振」(住宅の弱点となる、揺れのリズム)を防ぐための研究や技術を、日々向上する努力を行っています。
PROFILE
大和ハウス工業 総合技術研究所 工業化建築技術センター
住宅計技術開発1グループ
主任 西塔純人 一級建築士
大和ハウス工業 総合技術研究所 工業化建築技術センター
住宅計技術開発1グループ
研究員 近藤貴士 一級建築士