日本の伝統文化の一つとして受け継がれ、人々の生活に彩りを添えてきた生け花。
そもそもの定義や暮らしに取り入れる方法を、古流松藤会家元の池田理英先生に伺いました。
フラワーアレンジメントに比べ、少し格式高いイメージのある生け花。最近は和風のフラワーアレンジメントもあり、両者の境界はあいまいになってきています。私の考えでは、作品の中の余白を花で埋めるのがフラワーアレンジメントで、生け花は余白を生かすもの。枝一本や花一房の間にある余白、そして花を飾る空間と作品との均整の取れた間合いが、生け花の特徴の一つです。
日本では古来、植物は神聖なものとして大切に扱われました。例えば仏様へお供えとして捧げる時、花は住まいの中でも外に近く明るい場所に飾られました。後に住宅の発展に伴って床の間が現れ、そこに花を飾ったのが生け花の始まりです。本来生け花は家の中でも特別な部屋に飾るもの。おもてなしとして客室の床の間に花を飾ることで、特別な場を整えました。
生け花にはさまざまな様式があります。一個の花瓶の中に自然の景観や森羅万象を表現する「立花」、3本の枝を中心に据え、人と自然の調和を表現する「生花」など伝統的なスタイルの他、近代以降は器や形の制約が無い「自由花」も登場。決まりが多くて難しそうなイメージがあるかもしれませんが、今や誰もが気軽に挑戦できるものになっています。ぜひ生け花のある暮らしを始めてみませんか。
生け花を始める人の多くが、その理由として癒やしを挙げます。花にはその美しさや香りで、人をリラックスさせる効果があると言われています。
この他にも、花を生ける行為には、さまざまな効果があると考えられます。例えば、決断力の養成。茎や枝は一度切ってしまうと元には戻せないので、花材を十分生かすにはどこで切るのが適切なのか見極め決める力、決断する力が磨かれます。また、一つ一つの花や枝をじっくり見つめる中で、仕上がりのイメージを膨らませながら形を作っていくため、観察力や想像力も育まれます。理想の完成形に近付く道筋を考え、順に実行していくことは段取り力の育成にもつながるでしょう。生けている最中は自然に意識が集中し、完成した時には、達成感を味わうことができます。
こうした効用の幅広さに注目し、ビジネスリーダーの中にも生け花をたしなむ方が多くいらっしゃいます。
かつて生け花は特別な場所に飾られるものであったため、不浄の場に生けることはタブーとされていました。しかし今ではそうした意味合いは薄れ、好きな場所に飾ることができます。
例えばシューズボックスの上。玄関の花は、外出時には元気をくれますし、帰宅時には温かく迎えてくれます。来客のある時にはいつもより華やかに飾って、歓迎の気持ちを表現しましょう。お手洗いに飾る時は、香りの良い花を選ぶと芳香剤としても役立ちます。和室にはしっとりとした和の花材がよく似合いますが、あえて洋風の花材を使いシックな花器や敷物と合わせて和モダンを演出するのも素敵です。子どもの好きな花を生けて本人の部屋に飾っておくと、会話が弾むかもしれませんよ。
生け花は家中どこに置いても空間を華やがせてくれるもの。ご自身の住環境や暮らしのシーンに合わせ、自由に取り入れてみてください。
バラ、ニューサイラン「細葉もの」と言われる葉(ニューサイラン)での生花に、家で飾ると華やかになるようにバラを取り合わせました。
ガーベラ可愛い洋花でも、伝統の花型である生花になります。ガーベラの茎には針金を入れられるので、曲げて形作ることができます。
ヒマワリ、カラテア、パニカム自由な表現の現代華。花の向きは横を向いても後ろを向いてもOKです。お好みの花の表情、向きを探して自由に楽しんでください。
アドバイス
池田 理英先生(いけだ りえい)
伝統的な生花と、時代に合わせた現代華を基本とする「古流松藤会」の六世家元。家元の妹であった祖母の指導を幼少期より受けて育つ。古流松藤会の勉強を始めたのは高校時代。以降研究・努力を続け、2010年に松藤斎六世として家元を継承し四代目池田理英を襲名。(公財)日本いけばな芸術協会理事。
取材協力:全国花き振興協議会
花産業6団体でつくる連合組織。農林水産省が推進する「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」を実施し、新たな花文化の創出を目指して「Flower Friday※」の普及に取り組んでいる。
※Flower Fridayとは、週末に花や緑を飾ってリラックスした時間を楽しむための提案。
2019年4月現在の情報となります。