子どもの心を豊かに育み、また大人にとっても勇気をもらえたり、
優しい気持ちになることができる絵本。
そんな絵本の魅力を絵本専門店・クレヨンハウス大阪店の野尻剛生(たかお)さんに伺い、
今この時期に読みたい、心がほっと温まる本をご紹介いただきました。
長く読み続けられる絵本に出合う
「絵本を選ぶときはまず、図書館でも書店でもいいので、実際に手に取って選んでほしいですね。対象年齢は、あくまでも目安。自分自身が好きと思える作品と出合うことが大切です」と野尻さん。新しい絵本がどんどん出版され、流行もあります。「私たちはいつも子どもたちが大人になったときをイメージしながら、長く読んでいただける作品を紹介しています。長く読み継がれているロングセラーの作品には、やはり魅力がありますね」
親子のコミュニケーションを深める、読み聞かせ
家族で過ごす時間が多いこの時期こそ、ぜひ絵本を一緒に楽しんでほしいという野尻さん。「読み聞かせは時間や空間も共有できるもの。読み聞かせが上手にできないと言われる方もいますが、何より絵本を楽しむ気持ちがいちばん。私も小さいころに母に読んでもらった絵本を手に取ると、そのシーンが思い出として一緒によみがえります」
読み返すたびに新たな発見がある
「絵本はそのときの気持ちや、年齢、経験によって、感じ方が変わってきます。私自身、コロナ禍の不安やストレスを抱える時期に、読み返した絵本に勇気づけられたことがありました。また、子どものころ読んで気がつかなかったことが、大人になって読み返してみると発見でき、うれしくなることもあります」。絵本は言葉が少ない分、読み手の想像力に委ねられる部分が大きく、解釈は人それぞれ。「異なる感想を聞いて、新たな魅力を発見することもあります。絵本はとても奥深いですね」
寒い冬に心温まる絵本
『ゆきのひ』
文・絵:エズラ・ジャック・キーツ
訳:きじま はじめ / 偕成社
初めて雪と出合った日の感動を鮮やかに
雪がつもった朝、ピーターは外へ飛び出した!足跡をつけたり、雪だるまを作ったり、雪山をすべり下りたり、楽しく遊んだ雪の一日。そして大切な雪をポケットへしまう。初めて雪に出合ったときの驚きや喜びを美しい色彩の貼り絵で表現。シンプルだけどとても印象的な絵本は、眺めているだけで楽しい。
『てぶくろ』 ウクライナ民話
絵:エウゲーニー・M・ラチョフ
訳:うちだ りさこ
福音館書店
森の動物たちがどんどん手袋の中へ
おじいさんが落とした手袋の中に森の動物たちが入っていく。最初はネズミ、そしてカエル、ウサギ…どんどん大きな動物たちが現れて、ページをめくるたびにハラハラ、ドキドキ…。仲間が増えるごとに、窓や煙突ができて手袋が立派なお家になっていくのも楽しい。
『てぶくろがいっぱい』
文:フローレンス・スロボドキン
絵:ルイス・スロボドキン
訳:三原泉 / 偕成社
街の人たちの優しさに心がほっと温まる
赤い手袋の片方をなくしてしまったふたごの男の子。そのことを知った近所の人たちが、次々と落とし物の赤い手袋を届けてくれて…。さて、いっぱい集まった手袋をどうしようかしら。手袋を通した街の人たちとの交流に心温まる1冊。
『ゆうびんやのくまさん』
作・絵:フィービ・ウォージントン
作・絵:セルビ・ウォージントン
訳:まさき るりこ / 福音館書店
クリスマスイブに働く、
くまさんの1日を丁寧に描く
くまさんの丁寧な仕事ぶりが人気のお仕事シリーズ。ゆうびんやのくまさんのクリスマスイブの1日が、街の風景や人々の様子とともに優しいタッチで描かれている。手紙や小包にはんこを押して、ほどけかかった小包は、きれいに包み直してカバンに詰めて…。淡々とまじめに働く、くまさんが愛おしい。
『わたしのゆたんぽ』
文・絵:きたむら さとし / 偕成社
ゆたんぽをめぐって壮大な世界が広がる!
ゆたんぽが大好きな女の子。でもゆたんぽは、女の子の冷たい足が苦手。毎晩、布団の中では壮絶なバトルが繰り広げられ、とうとうゆたんぽは布団から逃げ出してしまう。そして女の子の足は負けじと追いかけて…。ページをめくるたび、奇想天外な世界が広がる。
想像力を育むユニークな絵本
『おふろだいすき』
作:松岡享子 絵:林 明子 / 福音館書店
動物たちがお風呂の中で繰り広げる空想の世界
ぼくはアヒルのおもちゃプッカと一緒にお風呂へ。体を洗っているとお風呂の底から、大きなカメやペンギンなど次々と動物たちが現れる。オットセイが石けんでシャボン玉、くじらのシャワー、お風呂の中で繰り広げられる楽しい空想の世界。優しいタッチで表情豊かに描かれた動物たちはみんな個性的で、会話もユニーク。まるで一緒にお風呂に入ったように温かい気持ちに。
『マンマルさん』
文:マック・バーネット
絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川義史 / クレヨンハウス
もうひとりは誰?
ちょっぴりこわくておもしろい
サンカクさん、シカクさん、マンマルさんの3人が「かくれんぼ」。ところがサンカクさんが、決めたルールをやぶって…。暗闇の中に見えるものは何?想像力を働かせてみて。長谷川義史さんの大阪弁訳が魅力。
『おしゃべりさん』
作:さいとうしのぶ / リーブル
身近な物や動物たちは
どんなことを考えているのかな?
トースト、ランドセル、まくら、コウノトリなど身近な物や動物たちがおしゃべり。見開き1ページ1話完結で30話。読み聞かせはもちろん、子どもが自分で読むのにもちょうどよい長さ。さいとうしのぶさんの絵がとってもキュート!
『仔牛の春 』
作:五味太郎 / 偕成社
仔牛の一年の成長を季節とともにすてきに描く
白い仔牛の一年の成長を、めぐる季節の風景とともに描く。さて舞台はどこなのかな?春がきて、雪がとけて、そして再びめぐりくる春には…。ちょっぴり成長した仔牛の姿が愛らしい。
前向きな気持ちになれる絵本
『あさになったのでまどをあけますよ』
作・絵:荒井良二 / 偕成社
明るい朝の陽ざしがふりそそぐ美しい風景に元気がもらえる
いろいろな場所に住む子どもたちが、朝になり窓を開けると、そこから見えるのは、いつもと変わらない風景。東日本大震災が起きた2011年の12月に刊行。なにげない日々の繰り返しの中にこそ生きる喜びがあるという思いが込められている。
『悲しみのゴリラ』
文:ジャッキー・アズーア・クレイマー
絵:シンディ・ダービー
訳:落合 恵子
クレヨンハウス
悲しみに寄り添い、優しく見守ってくれるのは
ママを亡くした少年のもとに現れ、その悲しみに優しく寄り添ってくれるゴリラ。やがて心が癒やされた少年は同じ悲しみを抱えるパパと、ふたりで新しい日常を歩き出す。深い悲しみから立ち直る手助けをしてくれたゴリラの存在とは…。
『だいじょうぶ だいじょうぶ』
作・絵:いとうひろし / 講談社
心配ごとがあっても大丈夫。
前向きに生きていこう
小さなぼくが不安な気持ちになると、いつも励ましてくれたおじいちゃん。大きくなったぼくは、今度はおじいちゃんを元気づける。どんなときも悲観的にならずに、強く生きていくためのメッセージ。
お話をうかがったのは…
クレヨンハウス大阪店 野尻 剛生さん
「子どもの本の売り場ではロングセラーを中心に、長く読み継いでいってほしい絵本や児童書を中心にそろえています。子どものころに来られたお客さんが大人になって、自分のお子さんと来られることもあります」。クレヨンハウスは子どもの本の専門店として、作家の落合恵子さんが、1976年に東京店、1991年に大阪店をオープン。季節に合わせたフェアやワークショップなども開催。絵本や書籍の出版も手掛ける。
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