強く主張するわけではないのに独特の表情や味わいがある
yumiko iihoshi porcelain(ユミコ イイホシ ポーセリン)の器。
それらがまとう存在感は、柔らかでありながら凛とした
イイホシユミコさんの人柄に通じているようです。
風合いのある手触りや一枚一枚異なる微妙な色合い。食パン1枚を載せただけで絵になり、おいしそうに見えるフォルム。「手跡を残さない、でも手づくりの温かみを感じさせるものづくり」をコンセプトとするyumiko iihoshiporcelainは、ブランドの立ち上げから約12年。イイホシユミコさんがデザインした器を日本各地の窯元などで量産し、多くの使い手に愛されるプロダクトを届けています。
イイホシさんが器に興味をもったのは、幼い頃の経験からでした。「母が料理や食器の好きな人で、普段の食事を松花堂弁当のように箱に詰めたりして楽しんでいました。入れ物を変えるだけでいつものおかずがぐんとおいしそうに見えてワクワクしたものです。器のもつ力に惹かれたのはその頃からです」(イイホシさん)。22歳で結婚し、自分が料理を作るようになってからは、さらに器に関心が向かうようになりました。
何げなく載せた料理も絵になる器のコレクション。
yumiko iihoshi porcelainではガラス器やアルミニウムのトレイ、カトラリーなども扱う
「朝仕事に出かける前にコーヒーを淹れる時、ちょうどいいのはどんなカップだろうと毎朝考えていたんです。でも当時はしっくりくるものが見つからなくて」
ありふれた量産品では味気ないし、一点ものの作家作品は朝の空気には少し重い。ピンとくるものが無いなら自分で本格的につくってみたいと意を決し、京都の芸術大学に入学したのは30歳の時でした。
厳しい師のもと陶芸の技術を磨いた2年間の学生生活は、器づくりをいつか仕事にしたい一心で「自分ができる最大限のこと」を模索する期間だったそうです。そうしてイイホシさんが選んだのは、陶芸家ではなく、デザイナー兼プロデューサーとして製品を量産し、多くの人に使ってもらえる器づくりの道でした。
芸大卒業後は個展やグループ展を開きながら少しずつ販路を広げ、自身のブランドを確立していきました。真っすぐに、ごまかさないものづくりをしたいという気持ちは、当時も今も、少しも変わることがありません。
イイホシさんが初めて世に出したのはunjour(アンジュール)というシリーズ。フランス語で「一日」という意味です。matin(マタン)(朝)にはマグカップや大きなサイズのプレート。apres(アプレ) midi(ミディ)(午後)にはケーキを楽しむお皿やコーヒーカップ。nuit(ニュイ)(夜更け)にはデザートのチョコを一粒載せるのにぴったりの小皿など。さまざまなシーンをイメージしてラインアップされています。
続いて、旅を想起させるbonvoy age(ボンボヤージュ)シリーズや、日本の伝統的な釉薬(ゆうやく)(うわぐすり)である伊羅保釉(いらぼゆう)をプロダクト化したReIRABO(リイラボ)シリーズ、楕円(だえん)形をしたoval(オーバル) plate(プレート)などを発表。どのシリーズにも、それをつくった時々の格別の思い入れがあるそうです。すぐにイメージ通りの製品が誕生することもあれば、釉薬の掛かり具合や焼き上がった時の発色、サイズ感など、製造を請け負う窯元との調整に2年もの歳月がかかることも。ものづくりに対する妥協のない姿勢がうかがえます。
unjourシリーズのマグカップ。釉薬の掛かり具合、焼成具 合によって一つひとつ異なる表情が生まれるのが面白い
「自分の中にある何かを形にしたいという気持ちが強い」と語るイイホシさん。しかし、器作家の個性をデザインに主張することはありません。ただ「使う人の暮らしが少しでも豊かになれば」という想いから、愛用のスケッチブック上にペンを走らせます。映画を見ても、旅先でも、頭の片隅にあるのは器づくりのこと。至るところでアイデアを見つけ、次のものづくりに結びつけていきます。
急須などの和食器も、イイホシさんの手にかかるとモダンな雰囲気に
SNSなどで自身の器がさまざまな使われ方をしているのを見るのが楽しいと、うれしそうに語るイイホシさん。思いがけない盛り付けに笑みがこぼれることも。使い手や料理を選ばない、ニュートラルに付き合える器であることがyumikoiihoshi porcelainの身上です。
「なぜか毎日手に取ってしまうのが良い器だと思っています。気に入っていても扱いづらいと、いつの間にか食器棚の奥で眠り続けることになりますから。私の器はしまい込まれたくないんですよ」。手がける器の多くが電子レンジや食洗機に対応しているのも、日々愛用してほしいからだとか。「実際に使ってみたらとても良かった」というのが何よりの褒め言葉です。
商品だけでなくその世界観を伝えたいという想いから生まれたパッケージ
何をつくるかだけでなく、つくり手の想いや世界観を伝えることも大切にしていると、イイホシさんは語ります。大きなものも小さなものも、商品は全て一点一点オリジナルのパッケージに包装されます。飾らない厚紙のパッケージには、ブランド名を印字した小さなリボンが留められます。それは商品を手にした人へ向けた、イイホシさんからの短いメッセージのようでもあります。
次々と生まれる器づくりのアイデアは、スケッチブックに描きとめていく
自身が器づくりを始めた頃に比べると、最近は素敵なもの、優れたデザインのものが世の中にたくさん出回っているとイイホシさんは言います。「だからこそ、自分が本当に気に入るものに出合って選び取るのが難しい時代ではないかと思います」
どんな部屋で生活するのか、どんなものに囲まれて暮らすのか、どんな風景を目にするのか。毎日接するものや空間をとても大切に考えていることを表すエピソードの一つが、15年前に建てて現在も暮らしている自宅のこと。小さくてもとても心地良いという自宅には、ごみ箱が置かれていないそうです。理由は「気に入ったごみ箱がまだ見つかっていないから」。いつか本当に気に入るものが見つかるまで、間に合わせの品を購入するつもりはないそうです。
「家や家具、日常的に使う雑貨も含めて、取り巻く環境が自分自身を形づくっていると思うのです。だから、気持ちいいと思える環境を整えることはとても重要ですよね」。こだわって選び取った「ちょっと気持ちいい」が積み重なって、良い毎日、良い人生をつくるのだとイイホシさんは信じています。
これからも手づくりとプロダクトの境界で、イイホシさんはものづくりの可能性を広げていきます。近年は国内だけでなく海外のレストランからの依頼も増え、日本らしい色やシンプルな形が高く評価されているのだとか。プロユースの製品を個人向けにも展開していきたいという展望を真っすぐな表情で語ってくれました。
シリーズごとに異なる裏印にもこだわりが。見えないところにも心配りが感じられます
yumiko iihoshiporcelainのショップでは、イイホシさんの想いのこもった器が使い手との新しい出合いを待っています。実際に手に取って一つひとつ微妙に異なる表情を確かめ、あなたの気持ちにしっくりと寄り添う一点を選んでください。お気に入りの器と過ごす「ちょっと気持ちいい」時間の積み重ねが、充実した日常をもたらしてくれることでしょう。
東京湯島の木村硝子店とダブルネームで製作する dishesシリーズ
スモーキーなピンクが食卓を華やかにするunjourのbergamot pink(ベルガモットピンク)シリーズ。使う人に元気を届けたいという願いが込められています
飾らない雰囲気の中にイイホシさんらしさが漂う東京ショールーム&ショップの店内
伝統的な伊羅保釉を現代のプロダクトとしてデザインしたReIRABOシリーズ。表面に生まれる均一でない釉薬のムラが味わい深い
※掲載のショップ写真は移転前の東京ショールーム&ショップ内のものです。(2020年2月時点)
京都嵯峨芸術大学陶芸科卒業後より「yumiko iihoshi porcelain」の名前で作品の発表を始める。2007年 台東区デザイナーズビレッジに入居。同年11月よりプロダクトシリーズを開始。2012年に大阪直営店を、2014年に東京ショールーム&ショップをオープン。プロダクトシリーズやハンドワーク作品を国内外で発表している。
yumiko iihoshi porcelain
tokyo shop & cafe
- 住所/
- 〒150-0034 東京都渋谷区代官山町6-6
DAIKANYAMA SPT BLDG. 1-A - TEL/
- 03-6433-5466
- 営業時間/
- 12:00 - 18:00
※状況により変更になることがございます。あらかじめご了承ください。 - 定休日/
- 火曜日
- HP/
- https://y-iihoshi-p.com/
取材撮影協力 / yumiko iihoshi porcelain
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