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平成21年度介護報酬改定に関する審議報告(たたき台)

社会保障審議会介護給付費分科会
平成20年12月3日

当分科会は本年9月より9回にわたり、平成21年度に予定される介護報酬の見直しについて見当を行ってきた。

近年の介護サービスを巡っては、介護従事者の離職率が高く、人材確保が困難であるといった状況にあり、先の国会で「介護従事者等の人材確保のための介護従事者の処遇改善に関する法律」が成立したところである。

こうした状況を踏まえ、去る10月30日に政府・与党において「介護従事者の処遇改善のための緊急特別対策」として平成21年度介護報酬改定率を3.0%とすることが決定された。

本分科会においては、今回の介護報酬改定について、介護従事者の処遇改善に資するものとなるよう、ひいては利用者が質の高いサービスを安心して安定的に利用できるようにすることを念頭において、短期間に集中的な議論を行ってきたところであるが、これまでの議論に基づき、平成21年度介護報酬改定に関する基本的な考え方を以下のとおり取りまとめたので報告する。

なお、介護報酬がサービス提供の対価として事業者に支払われる性格のものであること、事業所によって雇用形態、事業所の規模や経営状況、地域の労働市場の状況等が様々であることから、介護報酬の引上げにより賃金が一律に引き上がるものではないが、今回の介護報酬改訂により介護従事者の処遇改善にできるだけ結びつけていくことが重要である。

そのためには、各事業者において、効率的な事業運営への努力を行いつつ、次期介護保険事業計画期間を通じて、給与水準の向上のみならず、研修体制の充実、福利厚生の充実、キャリアアップの仕組みの導入など、実態に即した処遇改善への取組みを行っていくことが不可欠である。

併せて、介護報酬による対応に加えて、
(1)雇用管理改善に取り組む事業主への助成、
(2)効率的な経営を行うための経営モデルの作成・提示、
(3)介護報酬改定の影響の事後的検証、

など、多角的な対策を講じ、事業所における処遇改善を支援していくことが必要である。

また、介護従事者の給与等処遇に関する情報の公表については、事業者や事業者団体が自主的、積極的に取り組むことが期待される。このことを前提としつつ、国や事業者団体が一定のガイドラインを作成すること等により取組を支援することが適当である。

I 基本的な考え方

平成21年度の介護報酬改定については、次の基本的な視点に立った改定を行うことが必要である。

1. 介護従事者の人材確保・処遇改善

介護従事者の離職率が高く、人材確保が困難である現状を改善し、質の高いサービスを安定的に提供するためには、介護従事者の処遇改善を進めるとともに、経営の効率化への努力を前提としつつ経営の安定化を図ることが必要である。
このため、

  • (1) 施設系・居宅系サービスの特性に応じ、夜勤業務負担など負担の大きな業務に対して的確に人員を確保する場合に対する評価
  • (2) 介護従事者の能力に応じた給与を確保するための対応として、介護従事者の専門性等のキャリアに着目した評価
  • (3) 介護従事者の賃金の地域差への対応として、介護報酬制度における地域差の勘案方法(地域区分毎の単価設定)等の見直し

を行う。

2.医療との連携や認知症ケアの充実

(1)医療と介護の機能分化・連携の推進
介護が必要となっても住み慣れた地域で自立した生活を続けることができるよう、リハビリテーションや訪問看護等の充実を図る。
まず、医療から介護保険でのリハビリテーションに移行するにあたり、介護保険によるリハビリテーションの実施機関数やリハビリテーションの内容の現状等を踏まえ、医療と介護の継ぎ目のないサービスを効果的に利用できるようにする観点からの見直しを行う。
また、利用者の状態に応じた訪問看護の充実を図る観点からの見直しや、居宅介護支援における退院・退所時等の評価を行う。
介護療養型老人保健施設については、療養病床からの転換が円滑に進められるよう、実態に応じた適切な評価を行うという観点から評価の見直しを行う。

(2)認知症高齢者の増加を踏まえた認知症ケアの推進
「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」報告を踏まえ、認知症患者やその家族が住み慣れた地域での生活を継続できるようにするとともに、認知症ケアの質の向上を図るため、認知症行動・心理症状への緊急対応や若年性認知症の受け入れへの評価、認知症患者へのリハビリテーションの対象拡大、専門的なケア提供体制に対する評価等を行う。
また、居宅介護支援や訪問介護において、認知症高齢者への評価を行う。

3.効率的なサービスの提供や新たなサービスの検証

(1)サービスの質を確保した上での事業運営の効率化
介護サービス事業の安定的な供給を確保するためには、事業運営の効率化も必要であることから、サービスの質の確保を図りつつ、人員配置基準等の見直しを行う。例えば、訪問介護事業所のサービス提供責任者の常勤要件、夜間対応型訪問介護事業所のオペレーター資格要件、小規模多機能居宅介護の夜勤体制要件、介護老人保健施設の支援相談員の常勤要件等必要な見直しを行う。

(2)平成18年度に新たに導入されたサービスの検証及び評価の見直し
平成18年度に新たに導入された各種サービス(新予防給付・地域密着サービス等)については、それらサービスがより多くの利用者に適切に利用されるよう、算定状況、サービス利用者における普及・定着の度合いや事業者の経営状況等を把握した上で、より適切な評価の在り方についての検討を行い、必要な見直しを行う。

II 各サービスの報酬・基準見直しの基本方向

1.介護従事者処遇改善にかかる各サービス共通の見直し

(1)サービスの特性に応じた業務負担に着目した評価
施設系・居宅系サービス各々の機能や特性に応じ、夜勤業務など現行業務の中で負担の大きな業務に対し的確に人員を確保する場合に対する評価を導入する。
例えば、施設における夜勤業務負担への評価、重度・認知症対応への評価や訪問介護におけるサービス提供責任者の緊急的な業務負担への評価などを導入する(詳細は各サービスにおける改定事項として記載)。

(2)介護従事者の専門性等のキャリアに着目した評価
介護従事者の専門性等に係る適切な評価及びキャリアアップを推進する観点から、介護福祉士の資格保有者が一定割合雇用されている事業所が提供するサービスについて報酬上の評価を行うとともに、職員の早期離職を防止し定着を促進する観点から、一定以上の勤続年数を有する者が一定割合雇用されている事業所が提供するサービスについて評価を行う。
加えて、24時間のサービス提供が必要な施設サービスについては、安定的な介護サービスの提供を確保する観点から、常勤職員が一定割合雇用されている事業所について報酬上の評価を行う。
なお、本来、質の高いサービスを提供する事業所への適切な評価を行うことにより、処遇改善を推進すべきであるところ、現時点においては、質の高いサービスを図る客観的な指標として確立したものはない。このため、今改定においては「介護福祉士の割合」に加えて、「常勤職員の割合」、「一定以上の勤続年数の職員の割合」を暫定的に用いることとするが、次期改定までに、サービスの質の評価が可能と考えられる指標について、検討を進めることとする。

(3)地域区分の見直し
介護従事者の給与は地域差が大きく、大都市部の事業所ほど給与費が高く経営を圧迫する傾向にあることを踏まえ、各サービスの直接処遇職員の人件費率(サービス毎に40%又は60%の2類型)に各地域区分の報酬単価の上乗せ割合を乗じて報酬単価を割り増すことにより単価を設定している現行地域区分を以下のとおり見直す。
すなわち、地域差を勘案する人件費にかかる職員の範囲を「直接処遇職員」から「人員配置基準において具体的に配置を規定されている職種の職員」に拡大して人件費を適正に評価する。
また、サービス毎の人件費割合について、経営実態調査の結果を踏まえ、現行を見直すとともに、各地域区分の報酬単価の上乗せ割合についても見直す。なお、今回は、地域の区分方法については見直しを行わないものとする。

(4)中山間地域等における小規模事業所の評価
いわゆる中山間地域にある小規模事業所については、規模の拡大や経営の効率化を図ることが困難であり、人件費等の固定費割合が高くならざるを得ず、経営が厳しい状況にあることを踏まえ、いわゆる中山間地域等のうち、現行の特別地域加算対象地域以外の半島振興法指定地域等についても、当該地域に所在する小規模の事業所が行う訪問介護等の一定のサービスについて報酬上の評価を行う。

(5)中山間地域等に居住する者にサービス提供した事業所への評価
中山間地域以外に所在する事業所であっても、通常の事業実施地域を越えて中山間地域に居住する者にサービスを提供した場合には、移動費用が相当程度必要となることを踏まえ、報酬上の評価を行う。

2.居宅介護支援・介護予防支援

居宅介護支援については、事業所の経営の改善、ケアマネジメントの質の向上や独立性・中立性の向上を推進するとともに、医療と介護の連携の推進・強化、特に支援を要する者への対応等を評価する観点から見直しを行う。
具体的には、ケアマネジャー1人当たりの標準担当件数を維持しつつ、件数が40件以上となる場合に全ての件数に適用される現在の逓減制について、経営改善を図る観点から、超過部分にのみ適用される仕組みに見直すとともに、事業所の独立性・中立性を高める観点から、特定事業所加算について、実態に即して段階的に評価する仕組みに見直す。

また、医療と介護の連携の強化・推進を図る観点から、入院時や退院・退所時に、病院等と利用者に関する情報共有等を行う際の評価を導入する。さらに、ケアマネジメントを行うに際し、特に手間を要する認知症高齢者や独居高齢者に対する支援等について報酬上での評価を行う。
介護予防支援に係る評価については、地域包括支援センターのケアマネジメントに係る業務の手間の実態などを踏まえた見直しを行う。

3.訪問系介護サービス

(1)訪問介護
訪問介護については、訪問介護員等の処遇改善の必要性も踏まえつつ、短時間の訪問などサービスの効果的な推進を図る観点から、短時間の評価を充実する。
また、訪問介護員等及びサービス提供責任者について、介護職員基礎研修の受講、介護福祉士資格の取得など段階的なキャリアアップを推進する観点から、特定事業所加算について、要件の見直しを行う。さらに、サービス提供責任者については、初回時や緊急時などサービス提供責任者の手間が特にかかる場合を評価するとともに、常勤要件について、サービスの質を確保しつつ事業所の効率的な運営や非常勤従事者のキャリアアップを図る等の観点から、非常勤数(常勤換算)が常勤数を超えない範囲内で見直す。
なお、3級ヘルパーについては、前回答申どおり、原則として平成21年3月で報酬上の評価を廃止するが、現に業務に従事している者について、最終的な周知及び円滑な移行を図る観点から、該当する従事者に対する周知を事業者が行うことを条件に、一年間に限定した経過措置を設ける。
また、報酬体系の機能別再編に向けた訪問介護の行為内容の調査研究を引き続き実施し、議論を行う。

(2)訪問看護
利用者の状態に応じた訪問看護の充実を図る観点から、特別管理加算については、その対象となる状態に重度の褥瘡を追加する。さらに、特別管理加算の対象者について、1時間30分以上の訪問看護を実施した場合について、報酬上の評価を行う。
また、同一の事業所から同時に2人の職員が1人の利用者に対し訪問看護を行った場合について、報酬上の評価を行う。
さらに、ターミナルケアの充実を図り、医療保険との整合性を図る観点から、ターミナルケア加算の算定要件の緩和及び評価の見直しを行う。
一方、訪問リハビリテーションの整備状況に地域差がある現状を踏まえ、訪問看護ステーションからの理学療法士等の訪問に係る規制の見直しを行うとともに、専ら理学療法士等の訪問を行っている訪問看護ステーションの管理者の要件について見直しを行う。

(3)訪問リハビリテーション
通所リハビリテーションの利用者が通所できなくなった際にも円滑な訪問リハビリテーションの提供を可能とする観点から、介護老人保健施設で通所リハビリテーションを受けている利用者については、退所後一月に限り、当該施設の配置医師がリハビリテーション計画を作成し、訪問リハビリテーションを提供することを可能とする。
また、リハビリテーションマネジメント加算については、「PDCAサイクル」の流れを評価したものであること等を踏まえ、本体報酬に包括化するとともに、早期かつ集中的なリハビリテーションを推進する観点から、短期集中リハビリテーション実施加算の評価を見直す。
併せて、基本報酬については、医療保険との整合性を図る観点から、1日単位ではなく、サービス提供時間に応じた評価に見直す。

(4)居宅療養管理指導
居宅療養している要介護者(要支援者)やその家族の療養上の不安や悩みを解決し、円滑な療養生活を送ることを可能にするため、生活上の支援を目的とした看護職員による相談等を評価する。
また、薬剤師による居宅療養管理指導について、他職種との連携を推進し、診療報酬との整合性を図る観点からその評価を見直すとともに、居住系施設に入所している要介護者(要支援者)に対する居宅療養管理指導(薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士等によるものに限る。)について、移動等に係る労力が在宅利用者への訪問に比して少ないことを踏まえ、評価の見直しを行う。

<資料の出典元>第61回社会保障審議会介護給付費分科会資料(平成20年12月3日開催) 資料1-3より

 

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