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2024年3月にリニューアルしました。
連載:5分でわかる!サステナブルニュース
2024.10.31
「生物多様性」と言われても、ピンとこない人は多いのではないでしょうか。ですが、私たちの知らないところで、想像をはるかに超えるスピードで生物が消えているとしたら…?
自然史博物館によると、全世界の生物種の約75%が短期間の地質学時代(280万年以内)に失われることを「大量絶滅事象」といい、地球の歴史上、これまでに5回の大量絶滅が起こったとされています。しかし驚くことに、一部の科学者によると「地球は6度目の大量絶滅に突入した」というのです。
生物大量絶滅時代において、私たちはどのようなことができるのでしょうか。大和ハウス工業の事例から一緒に考えていきましょう。
春にはチョウが飛び、夏にはセミが鳴く。そして夏の終わりから秋にかけてはトンボが飛び始める——。そんな当たり前の日本の原風景が、これからは当たり前ではなくなるかもしれません。
1970年代後半から生物の絶滅のスピードは加速し続けており、現在は1年で4万種、つまり毎日100種類以上の生き物がこの地球から姿を消しているといわれています。今年4月に発表された国際共同研究チームの分析によると、「20世紀の100年間で世界の生物多様性が2~11%減少した(※1)」そうです。
※1:『Global trends and scenarios for terrestrial biodiversity and ecosystem services from 1900-2050』より
こうした事態を重く受け止め、日本でも今年3月に「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案」が閣議決定されました。生物多様性が失われ続ける中で、国立公園等の保護地域の保全に加えて、民間事業者などによる生物多様性の維持、回復または創出につながる活動を促進していくことが不可欠だとしています。
大和ハウス工業は、生物多様性の保全を取り組むべき重要テーマのひとつと位置づけ、活動を続けてきました。
最近では、「在来種を採用した緑化活動により、都市の生物多様性保全効果が未実施時の3倍となった(※2)」ということが確認されるなど、取り組みが実を結び始めています。今回は、大和ハウス工業の中でも生物多様性保全の先駆けといえる「ロイヤルシティ阿蘇一の宮リゾート」の事例について紹介していきます。
※2:大和ハウス工業のリリース「在来種を採用した緑化活動による都市の生物多様性保全効果が未実施時の3倍であることを確認」より
阿蘇山に臨むロイヤルシティ阿蘇一の宮リゾートは、自然豊かな「阿蘇くじゅう国立公園」内にある分譲地です。
熊本県の象徴ともいわれる阿蘇山。その阿蘇山の裾野に215世帯、450人(※3)が暮らす「ロイヤルシティ阿蘇一の宮リゾート」はあります。1999年1月に分譲を始め、「生物多様性」という言葉が浸透する以前から地域生物の調査などに取り組んできました。
2018年には、敷地内で20年ぶりに新街区「ASONOHARA(アソノハラ)」を開発。これまでの取り組みを象徴・牽引するエリアとして、阿蘇地域特有の自然と動植物を守る「ASONOHARA草原育成プロジェクト」が始まりました。
※3:2024年10月時点
動植物のモニタリング調査結果などを踏まえ、10ヘクタールにものぼるエリアの草木の剪定や植栽、環境教育プログラムなどを進めています。
「大和ハウス工業では、森とともに暮らす『森林住宅地』を全国14カ所で取り組んでいます。当初は、その森林住宅地のフラッグシップモデルにしようと、開発を始めたんです」。
そう話すのは、大和ハウス工業 森林住宅地管理運営部施設運営グループ グループ長の松榮寛さん(写真右)と、熊本支店森林住宅地管理運営部統括運営グループの谷口聡志さん(写真左)です。しかし、一筋縄ではいかない事情がありました。
「当時は木々が生い茂っていて、地面に日光が届かない状態でした。人間と森とが共生するためには適切に手を入れないと、災害で木々が倒れる危険性もあります。また、必ずしも"森林"にこだわるというよりは、阿蘇ならではの"自然共生"を考える必要がありました」(松榮さん)
阿蘇における自然共生とは何か——。松榮さんたちは「草原の再生」にたどりつきます。
「阿蘇の草原は100年で半減していました。大きな原因は後継者の減少、草原を軸とした産業サイクルの衰退です。野焼き・放牧・採草を繰り返して手を入れなければ、美しい草原は維持できません」(谷口さん)
「草原が減ると、草原性の植物を蜜源としている在来種の生き物が減ったり、CO2の吸収量も減ります。草原の再生は阿蘇の地域資源という観点でも、生物多様性や環境保全という観点でも重要だと考えました」(松榮さん)
そこで、樹林区域を残しながら、阿蘇の代名詞ともいえる草原エリアをつくるべく、間伐や植栽が始まりました。樹林エリアでは、多様な植物が育つ環境にするため50%の樹林を間伐し、地表にまで日光が届くように。草原エリアでは、住宅街区エリアを含めた周辺を従来の阿蘇の草原を模して伐採整備、地元産の植物を植栽することで阿蘇の自然環境を再生してきました。
住民、大和ハウス工業、専門家の3者が連携して始まった取り組み。具体的な活動としては、専門家を招いてのモニタリング調査や樹木医による木の診断や勉強会など多岐にわたります。
他にも、年に2回の草刈りや植物の受粉を助ける在来種のハナバチなどの住処となる「BEEHOTEL」づくり、刈った草での堆肥づくりなどのアクションにもつながっています。
「BEEHOTEL」づくり(写真上)や堆肥づくり(写真下)の様子。
日本の侵略的外来種ワースト100に選定されているオオオナモミやセイタカアワダチソウなどが多く生息していることもわかりました。外来種の草を刈りつつ、在来種の保護を進めるなど、草原環境を活かした自然との共生に取り組んできた結果、2019年には「JHEP(ジェイヘップ)認証」の最高ランクであるAAAを、2020年には「ABINC(エイビング・いきもの共生事業所®︎)認証」を獲得しました。両者ともに生物多様性保全の取り組みを第三者評価・認証する制度です。
取り組みを進める中で、住民のリテラシーも上がってきました。
「今年から、私たちと住民の方々のみでモニタリング調査を実施できるようになりました。今まではただの草だったのが、在来種か外来種か、さらにはどんな品種なのかまで分かる方も増えましたね。例えば、長野県と熊本県の一部にしか生息が確認されていないオオルリシジミというチョウがいるのですが、そのチョウはクララというマメ科の草を好みます。ASONOHARAでクララを見つけた住民の方から、『オオルリシジミが来てくれるといいね』という声を聞いた時は嬉しかったです」(谷口さん)
草原エリアでは、環境省が準絶滅危惧種に指定するナガミノツルキケマンや、クサフジ、ヤマハッカなどの草原構成種を確認できるようになりました。
「他にも、非常に珍しいカヤネズミが見られるようになりました。あとはブルービーという青いハチ。地域によっては絶滅危惧種に指定されている生き物です。在来種の植物が増えれば、在来種の生き物も増えていきます」(松榮さん)
ですが、「まだまだ途上なんですよ」と松榮さんたちは言います。
「草原面積も広げていきたいですし、外来種の草はまだ多いうえに、外来種が生い茂るエリアも毎年異なっていて。草刈りで格闘しています(笑)」(谷口さん)
まちには、いろんな価値観を持った人が住んでいます。そうした中で、一人ひとりが心地よく暮らしていくためにも「生物多様性は大きな役割を果たす」と、松榮さんは話します。
「『今の自然や風景を壊したい』と思う人はいないはず。『この環境を維持するためにどうしたらいいか』を入り口に、世代を超えてコミュニケーションが取れますよね。実は、生物多様性って多くの人とつながれる、共通の価値観だと思うんです」(松榮さん)
今後は、阿蘇の草原の維持保全を目指す「阿蘇草原再生協議会」など、地域とも積極的に連携しながら、草原と共生する住宅や暮らしをつくっていくと言います。"いち地域住民"として、できることを模索していきます。
原風景をそのまま未来へ——。10ヘクタールのASONOHARAから始まった小さな取り組みは、阿蘇の自然を蘇らせる未来への第一歩になるのかもしれません。
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