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連載:5分でわかる!サステナブルニュース「農福連携」
2024.09.30
神戸市のベッドタウン・兵庫県三木市。大和ハウス工業が1970年代に開発した緑が丘ネオポリス(青山地区)の一角に4棟のビニールハウスが並んでいます。中にずらりと並ぶのは色鮮やかなミニ胡蝶蘭です。
大和ハウス工業が開発した独自の方法でミニ胡蝶蘭「ココラン」を栽培しているのは、特例子会社※1である大和ハウスブルームです。
※1:特例子会社とは、障がい者の雇用に特別な配慮をし、障がい者の雇用の促進等に関する法律の規定により、一定の要件を満たした上で厚生労働大臣の認可を受けて、障がい者の雇用率の算定において親会社の一事業所とみなされる子会社を指す。
同社はココラン事業を通じて、障がいのある方や高齢の方を採用し、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく事業のあり方の創出を目指しています。「農福連携」という言葉が生まれて久しいですが、まさにそれを可能とする事業を行っています。
一般的に「水やり10年」といわれるほど栽培が難しいとされる胡蝶蘭ですが、さまざまな試行錯誤を経て、今では年間2万株を出荷するまでに成長しています。ココラン事業はどのような軌跡をたどり、いかにして農福連携の事業を創り上げてきたのでしょうか。
「農福連携」という言葉を知っていますか? 農福連携とは、障がいのある人たちや高齢者、生活困窮者、触法障がい者など、社会で生きづらさを感じている人たちが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいを育み、社会に参画する機会を作る取り組みをいいます。
2024年6月には、政府から「農福連携等推進ビジョン(2024 改訂版)※2」が発表されました。2022年度末で6343あった農福連携の主体数を、2030年度までに1万2000以上にするという目標を掲げています。
※2:「農福連携等推進ビジョン」は2019年6月に策定された。
今後、障がいのある方や高齢者などの働く場をより多く確保しながら、担い手不足の農業の課題を解決するため、農業と福祉の連携が期待されているのです。
大和ハウスブルームが行うココラン事業では、障がいのある7名の社員と、21名の栽培パートナー※3(平均年齢64歳)が働いています。社員の勤務時間は10:00〜17:00、社員が栽培を担い、胡蝶蘭の支柱を立て、美しい形に育成するために支柱やクリップ位置の調整などを行っています。
栽培パートナーは出荷に向けてのアレンジを担います。ECサイトで広く販売していますが、大和ハウス工業の事業やイベント、プライベートの贈り物などでも活用されています。
大和ハウス工業栽培事業開発室の荻野恵さんは「社員や栽培パートナーの方々が、日々やりがいを感じてもらえるような環境づくりを目指しています」と話します。
※3:大和ハウスブルームに勤務するパートタイマー従業員。人数や平均年齢は2024年9月時点。
大和ハウス工業で「胡蝶蘭×農福連携」の事業構想が立ち上がったのは2018年。きっかけは三木市緑が丘ネオポリスの開発から50年近くが経ち、住民の高齢化が進んでいたことと、近隣の特別支援学校の卒業生に十分な数の就職先がなかったことでした。
「三木市は福祉に力を入れている街で、生活しやすい環境は整っています。一方で障がい者が働く場所は不足しており、特別支援学校の卒業生の多くは、神戸や大阪などの近隣の大都市で就職するしか道がありませんでした。障がいの内容によっては、長時間かけて通勤するのが難しい人もいます。印象に残っているのが、特別支援学校の先生が『働ける能力や、意欲がある子たちに道を提供できないのが悔しい』と涙ながらに話されていたことです」(荻野さん)
また、高齢者が生きがいを見つけて地域社会で豊かに働き、暮らす必要性も同様に感じていました。この三木市で誰もが生き生きと働ける環境を——。大和ハウス工業として、農福連携プロジェクトが始まりました。
休憩時間の様子。天気が良い日はビニールハウス横の芝生スペースで運動をすることも。
なぜ胡蝶蘭だったのでしょうか。胡蝶蘭は店舗の開店や企業の移転、還暦祝いに法事のお供えと、慶弔を問わず目にします。大和ハウス工業でも、家の引き渡し時や建築物の竣工時など、格式高い胡蝶蘭の出番は多く、事業・サービスとの親和性が高かったことが挙げられます。
しかし、従来の栽培方法だと、太陽の向きや光の差し具合に応じて葉の様子を見ながら、こまめに水やりを行う必要があります。栽培が難しく、一定の経験が必要というのが通説でした。
「私たちが実現したかったのは『やさしい農業』。誰もが栽培に携われる"易しい"方法を考える必要がありました。そこで人工光で栽培できないかと、研究を始めました。するとLEDでも開花することがわかったんです」(荻野さん)
難しいとされる従来の水やりは、太陽光による熱から葉が焼けるのを防ぐ役割を果たしていました。しかし大和ハウス工業が採用したLEDであれば、熱が少なく葉が焼ける心配が大きく軽減されます。そこで苗の下部を水に浸す「栽培ベッド」を設置し、蛇口ひとつで大量の胡蝶蘭の株に一気に水を行き届ける「底面灌水」の仕組みを作り上げました。
事業構想から1年後、2019年に緑が丘ネオポリスにトライアルの栽培施設を設立。2020年には「ココランハウス」と名付け、ミニ胡蝶蘭の栽培をスタートしました。これまで試行錯誤を繰り返し、今では年間出荷数は2万株にも上っています。
販売ルートは主にECサイトですが、現在では月に一度の「らんらんマルシェ」で対面販売を開催したり、近隣の道の駅での販売なども始めています。地域の小学校の入学式や卒業式でも、ミニ胡蝶蘭が活用されています。
「社員からは『自分が水をあげたり世話をすることで、芽が出たり花が咲く様子を見られるのがやりがいにつながる』といった声をもらっています。嬉しいですね。また、地域の方々が丹精込めて育てた胡蝶蘭が、ビニールハウスを飛び出して、地域のコミュニティの活性化につながるようになりました。ココラン事業の規模自体は少しずつ大きくしていきたいですが、事業を始めた当初に目指した農福連携のかたちが、花開き始めたなと感じています」(荻野さん)
ココランの事業では営業担当を置いていないのも特徴です。
「このお花は営業をかけるものじゃないかなと思っているんです。私たちの胡蝶蘭は、誰かの心をつなぐ瞬間を作り出したり、それを広めるためにあるのではないか、と。『ココランを誰かにおすすめしたい』って思ってもらえたら、それが事業として成功してるひとつの証なんです」(荻野さん)
誰でも参加できる"易しさ"と、胡蝶蘭を通じて地域や心をつなぐ"優しさ"を目指した大和ハウス工業の農福連携。小さな地域社会を起点とした、サステナブルな事業の姿なのかもしれません。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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