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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目 エコな施策が目白押し。フジロックが目指す「世界一クリーンなフェス」の裏側

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目

エコな施策が目白押し。フジロックが目指す「世界一クリーンなフェス」の裏側

2024.06.28

    「サステナビリティが大事」なのは分かっていても、実際には、どこにどんな課題があって、私たちの生活にどう影響していくのか、正直、縁遠く感じてしまう方もいるでしょう。

    そこで本連載では、実際に「サステナビリティ」の現場に向き合う当事者のリアルな声を、寄稿形式でお届けします。3人目は「持続可能性に配慮したイベントづくり」を追求する、グリーンアップルの中島悠さんです。

    中島さんは日本最大級の音楽フェス「フジロック」のサステナビリティの担当者として20年以上も携わっています。そんな中島さんにフジロックのエコな取り組みをお聞きしました。

    11万4000人——。この数字は昨年のフジロックの来場者の人数です。毎年7月に新潟県の苗場で開催されるフジロックは、日本の先駆けかつ最大の音楽フェスです。ですがもう一つ、フジロックが目指しているものが"世界一クリーンなフェス"です。

    フジロックは、自然の中でやるのだから意識はしていましたが、環境イベントではありません。ですが、25年にわたる細かい改良や試行錯誤の末に、今では世界的にもフジロックはクリーンなフェスとして知られるようになりました。では年代を追って、フジロックの"サステナビリティの進化"をたどってみましょう。

    フジロックのごみステーションの2つの特徴

    一度フジロックに来たことがある方はご存知かもしれませんが、フジロックのごみ箱には特徴があります。それが「ボランティアスタッフが分別を呼びかけていること」です。

    前夜祭を含めて4日間のフジロックの間、すべてのごみステーションにはボランティアスタッフが常駐し、ペットボトル、食べ残し、食事の容器と細かく分別をしています。ちなみに彼らは"清掃員"ではありません。どんな小さなごみでもスタッフが拾ってしまうと、来場者が自発的にごみを捨てることをやめてしまうからです。あくまでボランティアスタッフは"ナビゲーター"として「分別を呼びかける」ことに徹しています。

    もう一つの特徴は「とにかく大きくて目立つこと」です。自宅のごみ箱の置き場所をイメージしてください。部屋の隅にありませんか? 一般的にごみ箱は見せたくないもの、恥ずかしいもの、というイメージがありますが、フェスやイベントでは逆効果です。

    とにかく分かりやすいところに設置して、ライトアップして認知度を上げます。また、設置箇所をむやみに増やしても逆効果。設置箇所を絞る代わりに大規模にすることで「あそこに行けばごみを捨てられる」と認知してもらうことが必要なんです。

    始まりは97年、大失敗の初回のフジロック

    ここに至るまではフジロックが経験した「苦い思い出」がありました。フジロッカーたちの間では語り草になっていますが、初回の97年は惨憺たる有り様だったようです。なにせ日本で大規模な音楽フェスが開催されるのは初めてのことで、お客さんはビーチサンダルにTシャツといったラフな出で立ちが多かったところに、巨大な台風が直撃。イベントは中止され、残されたのは積み上がったごみの山でした。

    運営側も来場者もノウハウがなかったこととはいえ、ごみの撤去だけで1週間もかかったことから、初年度の凄まじさを物語っています。私がフジロックのごみ問題に携わり始めたのは、翌年の98年のことでした。

    「自然と音楽の共生」を掲げている以上、ごみや環境の問題に向き合わずして、イベントはできません。この失敗をきっかけに、フジロックのサステナブルな取り組みの"第一の柱"である「ごみゼロナビゲーション」が98年に始まりました。「自分のごみは自分で管理しようよ」という基本のキですね。

    きちんと分別されたごみはリサイクルすることができます。会場のペットボトルは翌年のごみ袋にリサイクルされていますし、紙コップは翌年のトイレットペーパーとして会場で消費されています。

    会場で集めたペットボトル。2023年からはペットボトル自体を減らそうと、マイボトルの利用を促しています。

    環境に優しいフェスを、発電機に生まれた変化

    こうしてフジロックでごみの分別からリサイクルの考えが芽生え始めると、他の問題にも目が向き始めます。それがフジロックの電力問題です。

    フジロックの音響や食事を提供する屋台などの設備は、遠方から電力ケーブルを引いているわけではありません。何百台という発電機を持ち込んで、軽油などの化石燃料を注入して発電していました。もちろん、環境にいいはずがありません。音響設備のスタッフの周りでは黒い煙がもうもうと立ち上がっていました。

    そこで導入したのが、第二の柱であるBDF(バイオディーゼル燃料)です。使われるBDFは使用済みの天ぷら油をリサイクルしたもので、環境負荷が非常に低いのが特徴的です。その他にも一部の電力を太陽光発電でまかなう取り組みも始めています。

    第三の柱「フジロックの森プロジェクト」が始動

    サステナブルな取り組みは会場内だけではなく、周辺環境にまで広がりました。2011年から始めているのが「フジロックの森プロジェクト」です。これは苗場の森を行政と一緒に手入れする取り組みです。実は森は放置してしまうと荒れて、水源かん養機能が落ちてしまいます。そこで間伐という適度な手入れをして生育する必要があります。

    まずすべきことはボードウォークの整備です。10万人以上が森を踏み歩くと、土が硬くなり、通気性や水はけが悪くなったり、根が張りづらくなります。そこでお客さんが歩ける木道を作りました。もちろんフジロックの開催時以外にも自然の回遊路としてハイキングの方々が利用可能です。年に3回、ボランティアが集まり、ボードウォークのメンテナンスを行っています。

    間伐によって生まれた木材も、リサイクルの対象です。生まれたのは「フジロック・ペーパー」です。間伐材から生まれた紙を宣伝ポスターなどに利用していますが、一般利用も可能で、購入すれば紙代金に含まれる寄付金が苗場の森に還元される仕組みです。

    他にも、フジロック期間中に使用された17万膳もの割り箸はすべて会場周辺の間伐材を利用しています。紙コップをトイレットペーパーにするのもそうですが、会場内で使うものを循環させて、使えば使うほどエコになるって素敵なことじゃないですか?

    もちろんフジロックの課題はたくさんあって、今でも「フジロックは全然クリーンじゃない」とお叱りの言葉をいただくこともあります。

    例えばトイレに紙コップが散乱してしまうこともありました。紙コップを持ったままトイレに入り、行き場に困ってそのまま置いていってしまうのでしょう。1つでも放置されたら、どんどん積み重なっていきます。それを防ぐために、トイレのすぐそばにごみステーションを設けるようになりました。

    こうした基本的な取り組みだけではありません。飲食店の廃油排出を減らすために、2023年からは廃油を吸着する人の髪の毛で作られた「ヘアマット」を活用して少しでも環境負荷を減らすための施策を続けています。

    他にもペットボトルの利用を減らすためにマイボトルの利用を促して、給水所を増やす取り組みも2023年から始めています。

    SDGsでも進化し続けるフジロック、次なる取り組みは?

    今年でフジロックは27回目を迎えます。コロナ禍の2020年には開催されませんでしたが、ほとんど途切れることなく続いてきたのは奇跡かもしれません。今ではフジロックに親子三代でいらっしゃる方もいるそうです。

    一方で苗場の街は少しずつ寂しくなっています。ロッジや民宿、飲食店の廃業が目立つようになりました。フジロックは苗場で開催させていただいてる以上、苗場にも還元したい。そんな思いで、フジロックのチケットをふるさと納税の返礼品に採用いただきました。

    他にも1万円を寄付すれば、飲食エリアで使用できる3000円分の返礼品も大人気です。何と1000組の方にご利用いただきました。

    今では、フジロックは単なる音楽イベントではなく、地域に根ざしたローカルSGDsの側面を持ったイベントになりつつあります。大げさな言い方かもしれませんが、フジロックで地方創生を考えるきっかけになってくれたら担当者としては最高ですね。

    PROFILE

    中島悠

    中島悠Yu Nakajima

    株式会社グリーンアップル代表取締役。学園祭の実行委員長を務めるなど、学生時代からイベント・プロデュースに取り組み、フジロックにも1998年から関わり始める。2003年に大学を卒業後、コンベンション会社に勤務しながら、日本最大級の環境フェスティバルを運営する「アースデイ東京」に籍を置く。2006年に事務局長に就任し、来場者12万人、NPO/NGO・企業・団体などが集うイベントに成長させる。2011年、社会や環境、防災、サステナビリティ、ダイバーシティなどに関わる社会的なメッセージを発信するイベントの企画制作に特化した株式会社グリーンアップルを設立。年間60本以上の大小さまざまなイベントを手がけている。2016年、渋谷のソーシャル・デザインを発信するコミュニティラジオ「渋谷のラジオ」の創立に参画。理事としてラジオ局の運営も行う。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウスグループは、地域の自然と調和したまちづくりを通じて、生態系ネットワークの構築や良質なコミュニティづくりに貢献しています。

    まちづくりを通じたネイチャーポジティブ みどりをつなごう!による緑化

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