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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞くサステナブルの目
2024.10.31
本連載では、「サステナビリティ」の現場に向き合う当事者たちの声を、寄稿形式でお届けします。
今回は、台湾在住の編集・ノンフィクションライターの近藤弥生子さんが初登場。実は台湾は、SDGsに関する取り組みを積極的に行っており、国、企業、そして国民の意識がとても高いのだそうです。
では、なぜ台湾においてSDGsやサステナブルの動きが加速しているのか?その背景や実際の動きについて、ご紹介していただきます。
2011年2月に台湾へ移住して以来、民主主義やジェンダー平等、デジタル化など、この10年余りで社会が大きな変化を遂げていくのを目の当たりにしてきました。
そしてもう一つ、社会に大きなインパクトを与える変化が、SDGsやESGといったテーマへの取り組みです。
台湾の街にはタピオカミルクティーに代表されるドリンク店が数多く立ち並び、プラカップやストローが消費されています。発達した外食文化の陰で大量のプラスチック容器が使い捨てされていることは、一つの社会問題でもありました。
ところが現在は猛スピードで脱プラが加速しており、2030年には使い捨てプラスチック製品の全面禁止を目指し、近年では段階的に使用を制限する政策が政府によって実行されてきました。
また、2021年には蔡英文(さいえいぶん)前総統が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言し、2023年12月から「台湾炭素ガス排出量取引所(TCX)」が取引を開始、2025年からは炭素税の徴収が開始されるなど、自国での取り組みを推進してきました。
ただ台湾は国連加盟国として承認されていないため、残念なことにSDGsのレポートやランキングに名前が入ることはありません。
それでも、台湾政府は自らSDGsの達成に向けて組織やアワードを設立しており、各機関でも自主的に「第二回国家自主プレビュー報告書(Voluntary National Review, 通称VNR)」や年次報告書など各種レポートを作成しています。企業に対しても、レポートの提出を2026年から段階的に義務化する動きです。
2023年12月に台湾政府が発表した年次報告書では、2017年から21年までの5年間、台湾はSDGsの達成度が全体で83%と算出されています。
日本でも大きく報道されるSDGsのグローバルランキングで、2024年版のトップ10の上位国がすべて80%台の達成率であることを鑑みると、台湾も非常に健闘しているといえるのではないでしょうか。実際に4位のドイツ(83.4%)に迫る数値です。
行政院(日本の内閣に相当)国家永続発展委員会が発行した最新の国家レポート「2022臺灣永續發展目標年度總檢討報告」全265ページ。
台湾においてSDGsの達成はすでにコンセンサスとなっており、政府、企業、学校、市民らがそれぞれの立場で実践しています。
台湾企業を取材していると、SDGsを実践し始めたきっかけは、台湾の強みが製造業であること、その顧客の多くがグローバル企業であることが関係しているようでした。
世界的なシェアを誇る電子製品や情報通信メーカーといった顧客のSDGs水準に合わせることが求められ、台湾政府からもCSRやESG、そして近年ではSDGsレポートの提出を勧められてきたことが、企業の実践を前進させています。
一方、台湾で生活していると、市民たちのサステナブルや環境への意識の高さに驚かされることが多々あります。
まずは、多くの日本人が驚くゴミの分別が挙げられます。
定時になると、「エリーゼのために」や「乙女の祈り」のメロディとともに、ゴミ収集車が収集スポットを訪れる。
(上)とあるフォーラムで提供された食事は、ステンレスのお弁当箱に入っていた。
(下)講演者たちもみんなで生ゴミを分別するのが当たり前。
生ゴミは回収して豚のエサや肥料にされ、それ以外にもさまざまなものが分類回収・リサイクルされています。ゴミのリサイクル率は約61%と世界トップクラスで(日本は19.6%/2021年に環境省が発表したデータより)、「回収したゴミの価値を高める」という「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」の動きも活発です。
次に、エコグッズの活用が浸透しているのも特徴的です。
日本でも多くの人が利用している「マイ箸」ですが、台湾ではそれに加えてマイボトル、マイストローが広く普及しています。
我が家で大活躍しているマイストローは、ローカルのホテルから持ち帰り可能なアメニティとしてプレゼントされたもの。
コンビニエンスストアを含む多くのドリンク店ではマイボトルの利用が推奨されていて、マイボトルを持参すれば定価から5元(約23円/2024年10月10日時点)値引きされる施策が政府主導で実施されています。これも非常に効果的だったようです。
家畜の権利にも高い関心が寄せられていることも注目に値します。
最近では養鶏をケージで飼うことに対しても議論が高まっており、量販店大手の台湾カルフールは、「2025年までに全店舗で100%平飼いの卵のみを販売する」と発表して話題になりました。
カルフールのサステナブルな取り組みについての発表。
九州より一回り小さい島国で、その3分の2が山地、3,000m以上の高山が258座もあるほどの大自然に囲まれている台湾。
私は、台湾のサステナブルに対する意識の高さは、人権意識の高さに由来していると考えています。
30年ちょっと前まで、世界でも最長の38年間にわたる白色テロで人権が大きく制限されていた歴史を持つ台湾では、近年、人権回復の動きが盛んです。2016年には初めての女性総統が誕生、2019年にはアジア初の同性婚の合法化を実現、国会議員の女性比率はアジアトップの4割超えを達成と、アジアトップクラスのジェンダー平等を実現しています。
こうして人権についての議論が前進するにつれ、環境や家畜、ペットらの権利が議論されるようになり、2017年には捨てられて保護施設に収容されたペットらの殺処分が全面禁止されました。自分の人権が大切にされているという実感を持つことで、自分が暮らしで恩恵を受けているさまざまな存在の権利にまで関心が向くようになるのかもしれません。そして「自分たちの暮らしの営みを、自然に対して負担が少ないものにしたい」と願うようになり、台湾のサステナブルが社会のコンセンサスとなり得たように、私の目には映っています。
過去のインタビューで、前デジタル大臣のオードリー・タン氏はこう教えてくれたことがあります。
「私が強調したいのは、〈SDGs〉の17のゴールはすべてが等しく重要であるということです。いくつかだけが重要で、その他は達成のための手段だったり、見切ってもよいものであるといったことはないのです。『17のゴールが同時に達成されてこそ、持続可能(サステナブル)である』ということなんですね」
(語り:オードリー・タン、執筆:近藤弥生子『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』SB新書)
オードリー氏のようなリーダーたちがサステナブルに取り組む台湾から、今後の連載では、この国や自治体の政策、企業の事例などもご紹介していきたいと思っています。
台湾在住ノンフィクションライター。1980年生まれ。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年に台湾に移住。日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作会社を設立。オードリー・タンからカルチャー、SDGs界隈まで、生活者目線で取材し続ける。近著に『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ』(日経BP)、『台湾はおばちゃんで回ってる?!』(だいわ文庫)、『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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