さまざまな用途で、私たちの生活や文化に根差す竹。
縄文時代から暮らしを支えてきた伝統的な素材は、持続可能性を秘めています。
今回は、竹を用いた建材の企画・製造から販売までを担う
竹六商店(滋賀県)の代表取締役・田井中聡明さんにお話を伺いました。
日本の歴史は竹とともにある
平安時代初期に成立したとされる日本最古の物語・竹取物語。竹にまつわる不思議なストーリーの冒頭には、翁(おきな)が「竹をとりつつ、よろづのことにつかひけり(竹を取っては、さまざまなことに使っていた)」という描写があります。日本人は千年以上前から生活の至るところに竹を使っていたのです。また、芸術や伝統文化とも切り離せない存在です。例えば、茶道においては茶筅(ちゃせん)などの茶道具から茶室の建材、装飾まで、竹が欠かせません。
建築の洋風化により建材としての竹の使用が減少する中、創業100年の歴史を守り続ける竹六商店(以下、竹六)。数少ない国内の竹建材メーカーとして、著名な建築家や海外からも注文を受けています。商業施設や店舗、住宅など、建築家やインテリアデザイナー、施主が求める空間のイメージに合わせて多種多様な竹素材を加工して提供するため、倉庫にある竹のストックは10万本にも及ぶそう。竹を使ってもらう機会を一回たりとも無駄にしたくないという思いがその数に表れています。「求められたことには必ず応えたい。そして、竹という文化を未来へつないでいくことが私たちの使命です」と代表取締役・田井中さんは話します。
株式会社竹六商店 倉庫にて
取材協力 竹六商店
模索の末、弱点を克服 活用の可能性を広げる
日本では身近な竹ですが、「虫がつきやすい」「カビが生えやすい」「割れやすい」という耐久性の弱点を抱え、かつては定期的に取り換えることが前提とされてきました。その特性が、便利さを重視する現代の価値観に合わなくなり、活用の幅が狭まっていました。
そこで、竹六はこれらの弱点を一つずつ克服。中でも独自の方法で解決したのは、竹の割れやすさです。さまざまな手法を試す中で、田井中さんは車の座席シートに使われる発泡ウレタン樹脂に着目。節を抜いた竹に樹脂を流し固め、竹の強度を上げました。さらに、本来空洞のはずの竹でも、中に樹脂を詰めたことで釘やビスが打てるようになり、施工性も高まりました。また、燃えにくい発泡ウレタン樹脂を使用したことによって難燃性もアップ。割れにくいだけでなく、建材としての幅が大きく広がりました。
田井中さんのご自宅。天井や建具など各所に竹が用いられています
防虫処理については、近畿銘竹防虫協議会が開発した竹専用の防虫剤を浸漬(しんせき)塗布や真空加圧注入によって施します。カビの生えやすさは、食品メーカーの工場で用いられる抗菌・防カビ剤を応用し、克服しました。これらの処理には薬剤を使用しますが、建材として安全性を担保するF☆☆☆☆(エフ・フォースター)を取得しており、安心して内装に取り入れることができます。
業界を挙げて弱点克服に取り組み、また他分野の素材を応用することで、かつての扱いづらさを見事に解決し、竹は建材として格段に使いやすくなりました。
ウレタン樹脂充填(じゅうてん)加工を施した竹。強度、施工性、難燃性が上がり、幅広い箇所での利用が可能になりました
竹の魅力を知るためのKEYWORD
竹は、種類や加工方法によって、多彩な表情を魅せます。
太さや厚み、色味に加え、カットなどの加工方法も多様。
天井、床、壁など、さまざまな部位に自然の表情を生かすことができます。
【柾割竹】まさわりだけ
長尺方向に刃を入れて水平に切り落とす加工で、竹ならではの縦線に内部の節が横線として加わり、リズミカルな印象を与えます。照明や天井、欄間窓、部屋を仕切る建具などに使用可能。竹六が近年力を入れて展開している、竹の新しい魅力を堪能できる加工です。
【簾虫籠】すむしこ
富山・金沢方面の町家に見られる、竹を細く割り、利用した伝統的意匠。空間を区切りながらも、向こう側が透けて見え、空間を広く感じさせることができます。
【亀甲竹】きっこうちく
突然変異により、節と節の間が交互に膨れた竹です。独特な見た目の亀甲竹は希少な素材。建材としては空間のアクセントに使用されます。
【本煤竹】ほんすすたけ
茅葺き屋根に使用されていた希少価値の高い竹。囲炉裏で出た煙の煤(すす)によって、光沢がある煤色に変化。固定用のわら縄の跡が残るなど、深い味わいが感じられます。
日本の伝統を守るため持続可能な仕組みを導入
切子(きりこ)= 竹を伐採する職人は、後継者不足に直面しています。その原因は、労働環境にあると田井中さんは言います。伐採時期である秋から冬以外は収入が得られないケースが多いのです。田井中さんはそうした業界の課題を解決すべく、新しい仕組みづくりに取り組んでいます。切り出しの仕事が無い時期にも賃金を支払うことで、切子の生活を守り、職人の技術が継承されるよう努めています。
また、繁殖力旺盛な竹が生い茂り、他の植物の成長を阻害する放置竹林の問題にも取り組んでいます。放置竹林が、質の良い竹の育つ竹林に生まれ変わるには、数年間にわたり根気よく整備をする必要があります。竹六はその過程で間引いた、傷や曲がりのある竹を買い取り、適切に加工して利用しています。
竹自体も持続可能性の高い植物です。本州全土に生育し、3〜5年で伐採が可能となる、再生サイクルが短い循環性素材。竹を積極的に使うことは、放置竹林の問題の解決にもつながります。竹六の取り組みは、切子の労働環境改善や間伐材の廃棄の削減を通して業界の持続可能性を追求し、日本の竹文化を守り続けるための第一歩なのです。
天日干しの様子。薬剤に浸した後、約半日かけて太陽の光を当てることで、防虫効果が得られます
現代の生活にも美しく寄り添い続ける
自在に魅せ方を変えられる竹は、近年流行する和モダン空間はもちろん、洋の空間にもしっくりと溶け込みます。田井中さんのご自宅のリビングや和室などの内装にも竹は多く使われているそうです。「天然素材だから、同じものは一つとしてありません。独特のぬくもりと、いつまでも飽きのこない美しさがあります。竹を使った空間に身を置くと不思議と心が落ち着きます」
竹六の工場の外観
必要な太さに割るための竹割機
てこの原理を使って、曲がった竹を真っすぐに直す作業
膨大な竹のストック。太さも色味も長さもさまざまな竹が出番を待つ様子は圧巻です
何千年という歴史の中で、人々とともにあり、生活や文化を支えてきた竹だからこそ、私たちはそのそばで一息つけるのかもしれません。美しくしなやかな竹とともに、持続可能な暮らしをしてみませんか。
家具にも使われる竹六商店の竹
飛騨高山の家具メーカー・柏木工株式会社のGECCA(月華)シリーズにも竹六の竹が使われています。竹のしなやかさを生かし、美しい曲線と家具として十分な耐久性を実現しました。竹六はベッドなど家具の開発も視野に入れているそうです。
PROFILE
田井中 聡明さん(たいなか としあき)
株式会社竹六商店 代表取締役
1957年滋賀県生まれ。1920年に祖父が青竹を中心に扱う田井中七治郎商店を創業。株式会社竹六商店設立後は天然資材を用いた建築内装材の製造・販売に取り組む。1995年から代表取締役に就任。
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