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CASE27
医療施設
佐藤実病院
- 所在地:
- 愛媛県松山市
- 構造:
- 鉄骨造
- 延床面積:
- 2,871m2
- 竣工:
- 2023年11月
- 用途:
- 地域包括ケア病床(27床)、療養病床(33床)
- 併設:
- 居宅介護支援事業所
1970年、松山城に程近い市の中心部に外科を中心とした病院を開設。当時は救急や各種外科手術といった急性期、その後は亜急性期から慢性期までと、医療ニーズや環境の変化に対応することで地域医療に貢献してこられたのが医療法人グランセル 佐藤実病院様(2006年医療法人化)です。医療法人化の2年前にあたる2004年には、新たな診療科目として大腸・肛門外科を標榜され、いまでは愛媛県内のみならず近隣県から、多くの信頼と支持を集めておられます。
開業以来、当該地で半世紀以上もの歴史を重ねてこられた同院では、長く懸案だった老朽化や耐震基準への対応のため、病院施設の建替えを計画されました。
計画のポイント
愛着ある土地の魅力を存分に活かす隣地への建設計画
約50年もの間、佐藤実病院様が診療を続けてこられたのは、伊予鉄道環状線の内側であることや、眼前の道路をバスや電車が運行するという国道に面した利便性の高い立地。開設時より「地域に根差した病院」を目指してこられた同院では、新病院について利便性はもちろん、患者様や地域にとって違和感や不便さのない近隣エリア内で建設地を探しておられました。しかし、規模・立地ともに松山市内の中心部に適地は見つからず、なかなか計画の具体化には至りませんでした。
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隣地には、とある金融機関の支店が営業されていました。この支店が撤退されるという情報を取引上の関係から同院がいち早く入手。こうしたご縁が千載一遇のチャンスにつながり、旧病院とほぼ同規模の跡地(当該地)を購入されることになりました。
旧病院をベースに徹底した動線の改善を図る
新病院のコンセプトの一つに挙げられたのが「旧病院のゾーニングをそのままに、使い勝手のバージョンアップ」。たとえば、診察室と処置室の配列は旧来通りに、各々をバックヤードでつなぐことで動線を大幅に改善するなど、フロア内はもちろん階の上下においても、徹底したスタッフの作業効率化を図りました。
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旧病院内の配置がベースとなっているため、新病院に初めて訪れた外来患者様でも違和感や迷うことがなく、院内を移動できるという効果があります。
患者様のニーズに応え療養環境を整えるべく病床部分を再編
旧病院では、各病棟の一部が2フロアにまたがるカタチとなっていたため、スタッフが上下階を何度も移動する光景が日常的に見受けられました。そこで、新病院では「病棟はワンフロアで完結」させようと、3階に地域包括ケア病床、4階に療養病床を配置。二つの階ともに各病室に日常的に目が届くようスタッフステーションを配すなど、レイアウトに工夫が凝らされています。
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旧病院の病床は68床(地域包括ケア病床32床・療養病床36床)。病室一つひとつにゆとりと与えることと高まる患者様の個室ニーズに応えたいという思いから、新病院では地域包括ケア病床(27床)と療養病床(33床)の計60床に減床しています。
お客様の声
着実に機能強化を図ってきた50年。
専門領域の診療を強みに、
地域を愛し地域に愛される新病院へ。
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医療法人グランセル 佐藤実病院
理事長 院長:佐藤 公治 様
佐藤実病院は、四国がんセンター出身だった私の父が1970年に開設。県内の他の医療機関との混同を避けるため、あえて自らの氏名を病院名に冠しました。開設時は、外科を主に整形外科、内科、放射線科、理学診療科(リハビリテーション科)を標榜。救急輪番病院を担いながら各種外科手術や整形外科手術も行っており、当時使用していたと思われる手術器具の一部が今も残されています。
私が当院に入職したのは2004年のこと。岡山の大学病院や熊本の専門病院での勤務によって得たスキルや経験を生かそうと、未だ四国では珍しい大腸・肛門外科診療を開始しました。その後、2006年の医療法人化と同時期に理事長・院長に就任。現在に至るまで、開業時に父が掲げた「地域に根差した病院を目指す」との思いを柱に、地域医療に精力を注いでいます。
また、病床については、開設当初はすべて一般病棟で運営し、その後の医療ニーズに合わせて約半分を療養病棟に転換。2014年には一般病棟をすべて地域包括病棟に転換したという経緯があります。入院患者様の多くは、松山市の基幹病院や準基幹病院、さらには二次輪番システムを担う救急病院から、地域包括ケア病棟もしくは療養病棟へ受け入れるという、地域医療における役割を担っています。
今回の新病院への建て替えですが、やはり老朽化が最も大きな要因でした。旧病院は、開設当時としては頑丈な建物ではあったものの、50年間という月日は如何ともしがたく、至るところに不具合が見受けられました。耐震性についても2001年3月の芸予地震(M6.7)の経験もあり、新耐震基準への対応が院内外から求められていました。
構想は約10年前から温めてきました。こうしたケースでは、一般的に土地の入手が比較的容易な郊外への移転を選択すると思います。しかし、私たちはこの地域にこだわりました。地域への愛着はもちろん、昔からの患者様のことを考えると、国道沿いであり市内電車やバスが目の前を走るという利便性は何より重要だと考えたのです。実は、環状線という市内電車の内側に位置するのは当院を含め2病院のみ。それだけに、こんな街中に病院を建設できるような広い土地を確保できるのは奇跡に近いと思っていました。ですが、隣接地にあった金融機関の支店が閉鎖するという情報を、取引ある関係性からいち早く知ることができ、縁あって土地購入まで至りました。これが一つ目の幸運です。
二つ目の幸運は、新病院建設において信頼できるパートナーと巡り会えたこと。今回、プロポーザル(企画・提案)方式でとして5社に提案をお願いしました。うち4社は“地元志向の強さ”から地域の設計会社。大和ハウス工業さんに参加いただいたのは、まだ土地も決まっていない段階に同社の医療セミナーに参加したことが関係しています。診療を休んで高松まで行き、講演内容や事例に触れる中、ハウスメーカーというイメージが大きく変わったことが、ずっと頭に残っていたからです。
実は、5社の提案に際して「こんな病院にしたい」という思いを素人ながらに図面を描きました。それは、構造面やスペース的に無理な部分はあったと思いますが、イメージに一番近く、可能な限り再現してくれたのが大和ハウス工業さんでした。盛り込む要素が多すぎたのか、なかには「できない」と辞退された会社もありました。選定にあたっては、6名の院内スタッフが審査項目ごとに採点を行い、合計最高点は大和ハウス工業さんの提案でした。さらに、採用後もスタッフの意見や要望を可能な限り吸い上げてプランに反映していただき、実現に向けた工夫を十分にしていただきました。
また、大和ハウス工業さんだけが、設計・施工を一社で行われることにも魅力を感じました。「プランに込めた熱い思いをそのまま施工でも表現してほしい」。大和ハウス工業さんは、社内で密な連携を取られており、私たちは施工段階に入ってもそれまでと違和感なく進めることができたのです。
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実際に佐藤理事長が書かれた図面。
現在、当院が主として取り組む大腸・肛門外科は、四国全体を見渡しても専門領域としている医療施設は非常に少ない診療科目です。患者様や症状にお困りの方は決して少なくないのに、気軽に受診しづらいハードルの高い診療科だと捉えられるケースが多く、当院ではプライバシーに配慮した診療の実践で少しずつ認知度が上がり、県外、遠くは広島からも患者様がお越しいただけるようになりました。新病院では、トイレに隣接した処置室など、施設面でも気軽な受診のための工夫が凝らされていることを多くの方に知っていただきたいですね。
今後も、より地域に密着し貢献できるような病院を目指し、同時に他のさまざまな医療機関との連携を深めながら、より多くの患者様のお役に立てるよう取り組んでまいります。