「設計革命の先駆者であれ」
-建築イノベーション「D's BIM」-
世界に続き、日本の建築業界が大きく変わろうとしている。大和ハウス工業は、先駆者の一人として
画期的なワークフロー「D’s BIM」の導入を推進中だ。
建築イノベーション「D’s BIM」始まる
車が自動運転で走る日も夢ではなく、ショップでは電子マネー、家に帰ればIoTで家電が動く。時代が大きく変わリつつある2020年、日本の建築業界でも歴史的な地殻変動が起ころうとしている。
その主役が「BIM(Building Information Modeling、略称ビム)」という画期的なワークフローだ。通常、建物は、図面を描く2次元CADや立体を描く3次元CADで設計される。BIMは3次元のパーツを組み立てて建物のデジタルモデルをつくるのだが、大きな違いはその先にある。モデルを構成する一つひとつのパーツごとに、部材の仕様・性能、設備の品番、価格などの属性データを追加できるのだ。しかも、どこかを修正すると、すべてのデータに自動で反映。これまでのように手作業で直す必要がなく、不具合や無駄が排除できる。そして、これらの情報を企画設計から実施設計、施工、維持管理まで一気通貫で連携することで業務が効率化でき、プロジェクトの質が飛躍的に高まるというわけだ。
つまりBIMとは単なる技術ではなく、建築のワークフローそのものを根底から変えてしまうイノベーションなのだ。
世界では先に欧米諸国でBIMが広がり、日本ではBIMが盛り上がりを見せた2009年が「BIM元年」といわれる。大和ハウス工業はいち早くBIMの可能性に着目し、2006年からAutodesk社製の「Revit(レヴィット)」を活用して研究を開始。Revitは世界で最もユーザー数の多いBIMソフトウェアである。そうして検証や運用を進めながら、2017年にBIM推進室を発足。翌2018年にはBIM推進部として昇格させ、Autodesk社とビジネスパートナー契約を締結。Revitをベースにした「D’s BIM(ディーズビム)」による全社的な完全BIM化を目指し、怒涛の勢いで活動を本格化させた。
4つの柱「文化・人・物・絆」を創る
BIM推進部を率いる芳中は、部のメンバーを前に、BIM化の目標を次のように宣言した。「2020年度中に、低層集合住宅と建築系建物、戸建住宅の主力商品xevoΣ(ジーヴォシグマ)で設計BIM化100%を目指そう!」。さらに高層集合住宅や木造住宅への展開も見据えている。
先行導入した集合住宅は、全物件の8割以上でBIM化を実現。ただ、その道のりは未開の荒野を切り開くに等しく、非常に困難を極めた。しかも後発の建築系建物はBIM化率が約3割。戸建住宅はゼロからのスタートだ。大和ハウス工業が創業時から「建築の工業化」を追求し、BIMとの親和性が高いとはいえ、相当な努力とスピードが要求される。
そこに立ちはだかるのが、設計担当者たちの「BIMアレルギー」だ。BIMのメリットの一つに「フロントローディング」と呼ばれるものがある。これは後々、問題が発生して工程をやり直す手戻りやコストが増えないように、設計の初期段階で手間をかける方法だ。ここに負担の重い設計担当者たちのアレルギー反応が表れる。使い慣れたCADからRevitに変えるよう言われても、目先の仕事は一刻を争う。たとえ自分たちが使うようになっても、施工や維持管理へのBIM導入は先の話だ。そのため、すぐには結果が見えず、意欲も湧かない。BIMへの抵抗感は、導入検討企業の多くがぶつかる壁だった。
D’s BIMを先行導入した集合住宅
芳中も、集合住宅の設計現場で導入の難しさを痛感していた。だが、BIMの本領は、設計BIM100%化の次のステップ、「情報連携」にある。そのメリットを全社員に認識してもらうには、さまざまなアプローチが必要だろう。
芳中は4つの基本方針を立てた。BIM推進活動を通じて「文化を創る」「人を創る」「物を創る」「絆を創る」ことだ。
「文化」とは企業文化を指す。大和ハウス工業が何十年と続けてきた方法に挑戦状を叩きつけ、「D’s BIM」を中心に従業員の働き方や生活スタイルも変えて、新しい文化を創るのだ。「人」は人財。「D’s BIM」を理解し、実務に活かせる人財を育てることが、企業の未来を左右する。そのために東京と大阪にBIM研修センターをつくり、約2,000人いる設計担当者全員が講習を受けている。施工担当者の研修も一部で始まり、今後は営業担当者の受講も予定している。「物」は、Revitを共通言語として情報=物をつくること。言葉が通じれば異なる部署やグループ会社、協力会社とも意思の疎通ができるからだ。
そして、芳中の個人的な思いではあるが、「D’s BIM」を産官学民の外部組織にも開かれたオープンイノベーションとして運用することで、建設業界の底上げに貢献し、社会との「絆」を創りたいと考えている。
2019年、その思いを実行に移す時が来た。
新入社員2人による驚異的なプレゼン
2019年10月、台風19号が関東や甲信、東北などに甚大な被害をもたらした。被災地の長野市から応急仮設住宅の建設要請が飛び込んできた。一日でも早く建てるなら「D’s BIM」だ。無数の設計案を自動生成する「ジェネラティブデザイン」の一環として、熊本大学と大和ハウス工業、大和リースが共同研究を進める「配置計画案自動作成プログラム」も使用することにした。
BIM推進部からは4人のメンバーが参加した。現地入りした朝10時、行政側との協議を開始。午後は現地調査の後、自動作成プログラムがつくる複数の建物配置案を検討。2日目は現地の再調査後、図面やシミュレーション動画を完成させて、夕方5時、行政へのプレゼンに臨んだ。
完成後の現地をリアルに表現した動画は、時間とともに建物の影も動く。現地の木も再現した。行政側の担当者は2016年の熊本地震でも応急仮設住宅を受け持ち、当初は「平面図だけで理解できますから、BIMは必要ありませんよ」とおっしゃっていたが、見終わった後は「BIM、すごいですね」と印象を変えられた。
D’s BIMによる応急仮設住宅のパース・配置図
日照シミュレーションも動画で提案
短期で完成した「昭和の森公園仮設団地」
協議スタートから配置承認まで、従来は7日間かかるところを、2日間で成し遂げた。設計開始から竣工までかかる2カ月は、約半分の35日に短縮した。
「D’s BIM」は驚異的な成果をあげた。しかも、これを現地でチューニングし、動画をつくったのは2人の新入社員だった。大学のゼミでBIMを学び、入社半年で素晴らしい活躍を見せてくれた。芳中は「胸を張って彼らを自慢したい」と笑みをこぼす。
そして、4つの基本方針も有言実行した。「スピードは最大のサービスである」という創業者精神が息づく「企業文化」、BIMの先導者として活躍する若き「人財」、Revitや自動作成プログラムなどの先進的な「物づくり」、被災者の方や行政とのリアルな「絆」。完全BIM化への道は確かに困難だが、そこから得られるものは限りなく大きい。
デジタルトランスフォーメーションで
暮らし方・働き方を変える
2017年、わずか5人でスタートしたBIM部門は、今や60人を超える大所帯に。社内で最も急成長している組織であり、大和ハウス工業がいかにBIMに力を入れているか、おわかりいただけるだろう。その注力ぶりは投資計画にも表れている。「大和ハウスグループ第6次中期経営計画」では、設備投資2,500億円のうち、1,000億円をBIM等によるデジタル化などに充てると発表した。
BIM構築の次のテーマとなる「デジタルコンストラクション」も動き出した。デジタルコンストラクションとは、BIMなどを活用してデジタルデータのまま建築施工を実現することで、大和ハウス工業では「現場の省人化及び無人化」を掲げ、2、3年後にはロボットやAIを使って住宅施工現場の作業員を8割程度に削減することを目指す。東京と大阪に設置した遠隔管理センターから、現場をデジタルで遠隔管理する実験も足掛かりになるだろう。
また、世界の建築業界は「DfMA(Design For Manufacture and Assembly)」、デジタルを運用して製造・組立の工数を削減する設計に向かって動いている。工業化建築の草分けである大和ハウス工業の得意分野であり、この流れは大きなチャンスだ。
さらに先には、デジタルコンストラクションやDfMAを駆使する「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)」の先進企業として、社会をリードする未来を見据えている。
異部門・異分野・異国ともデジタルで連携できるプラットフォーム「D’s BIM」があれば、ビジネスモデルも人々の暮らし方・働き方も劇的に変えられるだろう。世界が目指すSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献できる。「D’s BIM」が、すべての始まりであり、核になるのだ。
※掲載の情報は2020年2月時点のものです。