「建築事業に次なる使命を」
住宅から、次はさまざまな事業施設の再生へ。
「BIZ Livness(ビズ・リブネス)」でつくる
再生と循環の社会、働く人の多様な未来へ。
建築事業の再生ブランド構築へ
「大和ハウス」と聞くと、「家」を思い浮かべる人も多いが、「ハウス」には「建物」という意味もある。スポーツのクラブハウス、音楽のライブハウス、倉庫は英語でウェアハウスだ。
大和ハウス工業の原点にも、倉庫がある。創業商品「パイプハウス」は、倉庫や事務所などに利用され、やがて大型の鋼管構造建築へと発展した。
パイプハウスの系譜に連なる「建築事業」では、物流や医療・介護など、さまざまな事業施設の「新築」を主に手がけてきた。
その建築事業部にいながら、新築受注のモチベーションを失いかけている社員がいた。営業の堀口だ。
時はコロナ禍。お客さまは設備投資に消極的で、営業の生命線である客先への訪問は中止。事業の先行きの不透明感を案じ、堀口は「会社を辞めよう」とまで考えていた。
しかし、その少し前、コロナ禍前年の2018年、大和ハウスグループは「中古住宅」の売買仲介、買取再販、リノベーション・リフォームを行う「Livness(リブネス)」を立ち上げていた。
堀口は上司に直訴した。「建築事業部で『事業建物』のリブネス事業をやらせてください」。
堀口は以前から常々、営業の肌感覚で「お客さまは"新築"ばかりを求めているわけじゃない」と感じていた。物流施設を求めるお客さまに、オーダーメイドの新築や当社の物流センターDPLをおすすめしても、スケジュールや規模が合わないこともある。お客さまは「新築では遅すぎる。もっと早く稼働したい」「もっと狭くてもいい」「もっと投資額を抑えたい」と言う。そのご要望にお応えできず、機会を損失しても、仕方ないと堀口はあきらめてきた。
だが、もし建築事業のリブネスを確立できたら、既存物件を購入し、手を加えて、満足していただける建物にしてお渡しできる。
時代の潮目も変わろうとしていた。建築資材が高騰し、残業時間が規制される2024年が迫っていた。カーボンニュートラルを意識する企業も増えていた。既存建築物には大きなポテンシャルがあった。
さらに堀口は「働き方の多様化にも対応できる」と考えた。ゼロからつくる新築は、広範囲な知識が求められ、関わる期間も長い。既存建築の再生は、問題解決型の調整が基本で、期間も短い。若い社員でも、育児などで時短勤務中の社員でも、専門スキルを持ち寄り、分担してチームで仕事に取り組める。
会社がめざす未来と堀口の想いが重なった。「建築事業本部でリブネスを推進せよ」。堀口に新天地への辞令が下りた。
私たちらしいバリューアップを
2020年夏、後に「BIZ Livness(ビズ・リブネス)」と名付けられる事業に、建築事業部が本気で取り組む通達が全社員に送られた。
これからは事業施設や商業施設等の「買取再販」「増築・改修」「仲介」を強化する。新たな取り組みとなる「買取再販」では他社施工物件も扱っていく。
ところが返ってきた反応は……本当にできるのか?という不安だった。課題は「技術的な確認」だった。建物が古く、今の法規に適合していなかったら?劣化部分はどこまで修繕すべきか?法令遵守は、お客さまである法人企業さまにとっても当社にとっても絶対的な責務であり、建築事業部ではリスクを慎重に検討し、「大丈夫」と確信できるまでは動かない。
建物再生は「手間と時間がかかる」点も懸念された。新築時の図面や現況図を入手し、それをもとに改修・設備更新などの設計図をつくるのだが、そもそも現況図どおりなのかは工事をしないとわからない。その大変さゆえ、誰も一歩を踏み出せないでいた。
けれども堀口は信じていた。「私たちには、建築を請け負う『ゼネコン』としての技術力がある。企画開発する『デベロッパー』のノウハウや、売りと買いのニーズをマッチングする情報力もある。両方できる私たちなら、新しいビジネスを広げられる」。
堀口は1年以上を費やし、買取再販マニュアルを完成させた。その建物が安全性・遵法性を確保できるか判断して購入すること。使用用途に合わせた改修計画を提案し、ZEB化やテナント付けなど"大和ハウス工業らしい"バリューアップを行い売却すること。
全国の事業所をサポートする体制も整えた。本部からは、堀口たちの推進室が中心となり、物流や医療・介護などの建物用途別グループと、設計・設備・施工の技術グループ、それぞれのビズ・リブネス担当者が事業所をフォロー。法務部もバックアップする。
改修工事を行う大和ハウスリフォームやデザインアーク、商業施設を開発・運営する大和ハウスリアルティマネジメント、物流施設等を保守管理する大和ハウスプロパティマネジメントなどのグループ会社、協力業者の力も借りる。
堀口は、全国で研修会や勉強会を開き、スキームや実務についての講義を行っている。参加者からは「実行するのは難しいと思っていたが、本部の支援があれば進めていける」「建築費が上がり、環境配慮も重視される今、お客さまにとってもプラスになるし、取り組むべき時代になった」と前向きな意見も増えてきた。堀口は「軌道に乗るまでは何年もかかる。全員が理解しないと、うまくはいかない。そのためなら私は何度でもお話しします」と決めている。
全国の営業部員が研修会に参加
大阪城公園内の歴史的建造物も再生
売り主・借り主・買い主の三方よし
ビズ・リブネス初の案件となった長野県駒ヶ根市のプロジェクトでは、工場を買い取り、法令を遵守しながら営業用倉庫に用途変更してリーシングを行い、市場価値の高い建物にして売却した。
関わったお客さまは3社。売り主のトヨセットさま、テナントの日本通運さま、買い主のマリモ地方創生リート投資法人さまだ。
始まりは、松本建築営業所の辻が、トヨセットさまに飛び込み訪問したことだった。その後、再訪問した際、「長年、工場の建物と土地を一括売却したいと考えていたが、コロナ禍で、話は出るものの方向性が決まらなかった」とお聞きする。
ここ駒ヶ根市は、賃貸倉庫が少ない。工場から倉庫に転用すれば、必ず需要はある。そう考えた辻は、建物・土地の一括購入を提案した。
同時に、推進室の堀口に相談を持ちかける。この買取再販プロジェクトは、建築事業部"初"の試みだ。しかも工場の一部を日本通運さまが借りていて、状況は複雑だった。テナントさまがいる状態で建物を購入し、用途変更の工事を進めるには、マニュアルやフロー、法的懸念点を随時、整理する必要がある。堀口は遵法性を判断する資料等を集め、サポートメンバーの各種業者をキャスティングする役割を担った。
後にトヨセットさまは「大和ハウス工業のスピードには驚かされました。売却に3年かかると考えていましたが、わずか半年程で完了。資金繰りも改善して楽になりました」と喜ばれた。
テナントの日本通運さまとは、長期の定期建物賃貸借契約を結んだ。用途変更のため、1,500㎡区画ごとに間仕切りをつくる改修工事を実施。工事が完了した区画へその都度、荷物を移動していただき、業務を止めずに工事を終えることができた。日本通運さまは「ROIC(投下資本利益率)経営の観点からは自社倉庫の新築が難しく、2024年問題も控えていたので、ベストなタイミングでした」と振り返られる。
買い主のマリモ地方創生リート投資法人さまは以前より、自社初の物流施設を取得すべく、相当数の物件を検討。1棟目は投資家から特に注視されるため、慎重になっていたと言う。「この物件は、大和ハウス工業が大規模な修繕計画を立てて施工管理も担当され、テナントさまもセッティングしてくださった。その安心感から検討を早期に進められました」と語られる。
そして営業の辻は「今回の用途変更は、私たちの営業所では経験のない取り組みでした。堀口さんは親身になって教えてくださり、本部を巻き込み、社内をまとめ、橋渡し役として尽力してくれました」と感謝する。
ビズ・リブネスのスキーム例
建物用途を変更する改修を実施
世の中の役に立つことが働く意義
駒ヶ根市のプロジェクトが成就した後も、次々と成功事例が生まれている。同じ長野県では、書籍発送などに使われていた工場を購入し、電気計測器の工場に改修して再販した。ニーズのある立地の取得、当社の半導体関連工場の実績、内装デザイン・施工を担うグループ会社との連携など、大和ハウスグループの強みが生きた案件だ。
事例ができると、それがモデルケースとなり、社員たちも積極的に取り組むようになってくれた。不動産ストックを再生・循環させるサイクルがついに動き始めたのだ。
プロジェクトの立ち上げ時には、堀口のように人を巻き込む起業家タイプの人財が必要になる。堀口について上司は「仕事のスピードがすごく速い。自ら進んで、いろんなことにクリエイティブに取り組んでくれる」と評価する。
同僚は「小さいお子さんが2人いて、限られた時間を効率よく使っている。私もぜひ見習いたい」と言う。
コロナ禍で会社を辞めようと思った堀口が結局、今も続けているのは、「子どもたちに自分の仕事を自信を持って話したい」と思ったことも理由の一つだ。
「私は、大和ハウス工業の創業者と同じように、昔から『世の中の役に立つこと』が働く意義だと思っていて、企業という『組織』でそれを成し遂げようとしてきました。けれども2度の産休・育休や、コロナ禍で仕事ができない状況で、組織からの評価や働き方の不自由さに疑問を感じ始めて……。だから、ビズ・リブネスの立ち上げに自ら手を挙げました。誰かの役に立つ仕事がしたい。いろんな働き方を尊重したい。そうして、やりたいことをやっている私を、子どもたちに見せたいのです」。
堀口は昔から、やりたいことは無我夢中でやってきた。いつも周りの人を仲間にして。高校の部活動から続けている登山は、社会人になって出会った仲間たちとのキリマンジャロ登頂につながった。アフリカ大陸最高峰の5,895m。荒涼とした山岳砂漠地帯をひたすら歩いた。氷河を横目に夜の山を凍えながら登った。
あの時を思い出せば、今のビズ・リブネスは、まだ1合目あたりだろうか。知識や手段などの準備が整い、やっと登り始めたところだ。同僚たちとつくった登山部のように、ビズ・リブネスの山を一緒に登る仲間も増えた。
ビズ・リブネスは、大和ハウスグループの"将来の夢"である「再生と循環」の社会につながっている。砂漠も氷河も、仲間と一緒なら越えていける。山頂には、きっと素晴らしい景色が待っている。
キリマンジャロの美しい絶景
子どもたちも一緒に登山部活動
※掲載の情報は2024年9月時点のものです。