研究員のセカイ
伊東が手がけるのは光環境分野。環境工学の面から、照明と自然光に関わる省エネルギー、室内環境向上、光害対策などの研究開発に取り組んでいます。
描く未来像
伊東が描く未来。
⸺窓から射し込み、生活やビジネスの場を照らす光。その光が大きく変わった。光を変えたのは新しい装置ではない。自然光を建物に取り込んでいるのは、昔から変わらない「窓」である。
しかし、これまで陽が射さなかった北側の窓からも、明るい光が降り注ぐようになった。強い陽射しを和らげてくれる西側の窓のおかげで、人々は西日に悩まされることが減った。
さらに、窓からの自然光と屋内の照明は連動し、最適な明るさに制御されている。昼にはたっぷりの太陽光が、夜には過度に明るすぎない照明が屋内を照らす。光と密接に関係するとされ、乱れれば心身に不調が生じると言われる人間の体内リズムを整えることもできるようになった。そこで過ごすだけで、睡眠の質向上や生活習慣病のリスク低減などにつながる——そんな建物が実現した。
また、光だけでなく、室内の夏の涼しさ、冬の暖かさも保たれエアコンなどの冷暖房設備に頼らずに、1年中いつでも快適に過ごせるようになった。快適なだけでなく、建物で使用する電気量を大幅に削減できるようになった。しかも、建物内が明るくても中の様子が見えづらいなど、都市生活に不可欠なプライバシーにも配慮。近隣への反射光なども抑えられている。光あふれる空間は、人にも環境にもやさしい。
プライバシーが配慮され、反射光が軽減したため、ガラス窓を多用したビルも、大きな開口部を持つ住宅も、より多く建てられるようになった。意匠やデザインの自由度は保たれたままであり、まちにはデザイン性の高い建物が増えた。
立地という条件から解放されることで、北向きの土地や斜面が、住宅、ビル、都市建設のために有効利用されている。新しい採光を実現した窓はリフォームにも用いられ、これまで日当たりが悪いと言われていた土地でも、快適に過ごせる明るさが確保できるようになった。これにより、国土の限られた日本の土地や不動産の価値までもが、根本的に変わろうとしている——
いま取り組むこと
「人類が建物を生み出したときから窓はあったと考えられますが、その概念はほとんど変わっていません」と伊東。窓に頼るだけでは、採光はいつまでも建物の立地に左右されるまま。メカニックな採光装置などの技術はあるものの、普及はいまひとつ進んでいません。
「原因のひとつは、現在の採光装置が建築文化に合わないことにあると思います」と伊東。建築は、住む・過ごすための空間というだけでなく、その国や地域、社会と深いつながりを持っています。また、建築家や建築デザイナーの表現物としての側面も持ちます。学生時代建築デザインを専攻し、意匠系の研究室に在籍していた伊東は、建築のこの文化的側面を理解したうえでの技術開発が必要と考えています。「だからこそ、建築や窓の文化を損なわず、お客さまにも受け入れられる新しい採光技術を考え続けています」。
そのひとつの回答が、伊東が開発した「明るくすウインドウ」です。パソコンなどのディスプレイに使われる屈折技術を応用、プライバシーを守りながら部屋を明るくすることができます。建築の意匠性を損なわず、窓からの光は自然光らしさを維持したまま。「これからも、単なる窓以上の機能や効果を生み出して、建物の価値を向上させるような活動をしたいと思っています」。
光環境の分野には、最近顕著になってきた「照明や太陽反射光のまぶしさ」といった新しい問題もあります。LEDなど高輝度照明の急激な普及や、ガラスを多用したビルの増加、あるいは店舗に太陽光パネルなど反射しやすい建材を利用することが増えたことなどが、その原因と考えられます。「こうした潜在的な問題の発見、解決にも取り組んでいきたいですね」。
「研究開発職は、新しいものを一から創りあげることができる」。伊東が設計職ではなく研究開発職を目指した理由のひとつが、就職の際に恩師から伝えられたこの言葉でした。恩師の言葉通り、伊東は明るくすウインドウをはじめ、採光と遮熱を両立する高機能ブラインドや、気流の少ない空調とまぶしさのない照明を組合せた空調照明システムなど、今までなかったものを開発し続けています。
伊東 亜矢子(いとう あやこ)
建築技術研究部 建築環境グループ所属
生活環境学部住環境学科卒
2005年4月入社
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