技術研究トレンド
技術トピックス
建設⼯事の現場では、職⼈さんの⾼齢化や⼈⼿不⾜が深刻な問題となっています。その背景には、少⼦⾼齢化や建設需要の増加に加え、⾝体への負担が⼤きい作業や、⾼度な知識や技術・経験、さらに技術継承を必要とする⼯程において、⼈員の確保に苦労していることが挙げられます。私たち総合技術研究所の所員は、⼈⼿が⾜りない現場で⾼齢の⽅が作業されているこの状況を⽬の当たりにし、職⼈さんの負担を軽減するための技術開発に着⼿しました。この記事では、本技術と当研究所の建設現場における労働環境改善への取り組みについて紹介します。
国⼟交通省の調査(※)によると、建設業就業者数はピーク時の1997年から減少を続けている状況にあります。また、建設業就業者の年齢構成は55歳以上が約3割であるのに対して、29歳以下は約1割にとどまっており、建設業界における⼈⼿不⾜問題は今後ますます深刻になっていくことが懸念されています。
総合技術研究所では、その実態を把握するために、現場監督へのヒアリングとアンケート調査を実施しました。すると、当社の現場においても職⼈さんが不⾜しがちであることがわかりました。特に⾼度な技術や知識・経験を必要とする作業や⾝体への負担が⼤きい作業については、若⼿を中⼼に「なり⼿がいない、集まらない」ため、⼈員の確保に苦労しています。その中でも「耐⽕被覆吹付」の作業で、⾝体への負担が⼤きいという状況が明らかになりました。
「耐⽕被覆吹付」とは、鉄⾻造の建物などの柱や梁に、繊維系の断熱材である耐⽕性に優れたロックウールとセメントスラリー(※1)を混ぜたものを吹付ける重要な作業です。作業は通常3⼈1組で⾏い、吹付作業の担当、プラント(※2)操作・材料供給の担当、そして吹付後の⽑⽻⽴ちを押さえるコテ押さえなどの担当が連携して作業を進めています。
吹付作業を⾏う際、周辺に吹付材が⾶散して汚れが付着するため、レインコートのような素材の保護服を着⽤しますが、動きにくく、職⼈さんの作業負担を増⼤させていました。また、特に夏場などは熱中症のリスクもあり、健康⾯でも細⼼の配慮が必要です。このような負担を伴う状況下での作業は、集中⼒の低下にも繋がり、⾼所への吹付作業を⾏う際などには、作業台からの落下リスクも⾼まる可能性があります。
職⼈さんによる耐⽕被覆吹付作業の様⼦
私たちは、職⼈さんの作業負担が特に⼤きい、この耐⽕被覆吹付の現場を⽬の当たりにし、労働環境改善への思いを強くしました。同時に、⼈⼯知能の著しい進化および通信技術の発展を背景にした、ロボット技術が切り開く未来の建設現場の在り⽅についても議論を開始。こうして、「耐⽕被覆吹付ロボット」の開発がスタートしました。⽬指すは、「⼈とロボットの協働」による効率化の実現です。
また、「若者から⾼齢者まで、誰もが簡単に操作できるものがよい」という現場の声を重視し、直感的な「使いやすさ」にも配慮して開発を進めました。
エス.ラボ株式会社さまをパートナーとして開発した耐⽕被覆吹付ロボットは、産業⽤ロボットアームと⾛⾏台⾞、昇降台⾞を組み合わせて構成されています。⾼さ7メートルまで対応可能となっており、条件によっては⼈が吹付けるより短時間で広範囲の吹付を⾏うことができます。
耐⽕被覆吹付ロボット:全⻑2,300mm、全幅1,200mm、全⾼ 最⼤6,100mm、最⼩1,200mm 重量約1,400kg
ロボットアームは、取付⽅法を⼯夫して横向きに設置することで、⼩型の機体であるにもかかわらず、柱の最下部から梁の上部までと幅広い吹付範囲を実現しました。また、移動の際の効率を⾼めるために採⽤したのが、縦横斜め全⽅向への移動が可能なメカナムホイールです。これによって建設現場の限られたスペース内でも⾃由に移動ができ、さらに⽬的地付近での位置の微調整ができるため短時間で、⾼精度な移動を実現することができます。
メカナムホイール
ロボットによる吹付作業の事前準備としては、図⾯情報をロボットが読み取れる形式に変換した数値データを読み込ませることで、ロボット⾃らが効率的な経路計画を⽣成します。⾃動⽣成された吹付経路を職⼈さんがタブレットの画⾯上で確認し、スタート・ストップ等の操作をするだけで、簡単に吹付を⾏うことができるようになりました。
このロボットが吹付作業に加わることにより、従来の職⼈さん3⼈による作業時間の約30%を削減し(※1)、体⼒的な負担や不快感の軽減、危険を伴う⾼所での作業の削減なども実現することができました。
安全で快適に職⼈さんが作業できる環境づくりは、ひとつひとつの作業の質を⾼め、お客さまにより品質の⾼い建物をご提供できることに繫がると考えています。
何より、若者も「ここで働きたい」と思えるような魅⼒的な現場を実現することで、⼈材不⾜の解消にも貢献できるはずです。また、職⼈さんの技術やノウハウはロボットにデータとして残されるため、次の世代へ伝承していくことも可能になるでしょう。
今後も少⼦⾼齢化は進み、どの業界でも働き⼿の確保が課題となることが予想されます。さまざまな業界で「働き⽅改⾰」が進む中、建設業界ではまだまだ遅れを取っている現状があり、⼈⼿不⾜はこれからもより深刻になることが懸念されています。そのような現状の中で、私たちは⼈とロボットがそれぞれの特⻑を活かし協働することによって、より快適で魅⼒ある労働環境の実現を⽬指していきます。
そして、これからもロボット技術をさまざまな場⾯で活⽤できるよう研究開発に取り組み、その積み重ねが少しでも建設業界の⼈⼿不⾜問題の解消に繫がればと考えています。
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