PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(38)“折れない”エネルギー基盤整備で強靭化を図り地域活性化を目指す
公開日:2021/06/30
分散型配電網を整備し、電力レジリエンス(復旧力)を高めて地域の強靭化を図り、将来的な地域活性化に繋いでいこうとする挑戦が各地で始動しています。
独立した地域エネルギー網で災害時レジリエンスを強化
エネルギーの地産地消と地域循環共生圏形成の主な目的は、域外へのエネルギーコストの流出を抑制し地域内経済を循環させることと、再生可能エネルギーによる地域の脱炭素を促進することにあります。加えて、災害に強い分散型エネルギーシステムを構築することで、災害時においてエネルギーの供給を維持することも重要な役割となります。2011年の東日本大震災による長期に及ぶエネルギー供給の停滞、同時に発生した原発事故による首都圏の電力不足、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震に端を発した苫東厚真(こまとうあつま)火力発電所事故による北海道地域の大規模停電(ブラックアウト)、2019年に相次いだ大型台風による関東・東北地域の甚大災害、2020年の九州地域における集中豪雨災害など、近年、大規模災害によるエネルギーインフラ被害が頻発しています。これらの災害により、電力消費地域から離れた発電設備や送電施設の全面復旧までに時間がかかることで、地域生活や経済活動に大きな影響を与えることを経験しました。そこで、地域において太陽光や風水力で発電した電力を蓄電し、災害時には地域で独立した配電網によりいち早く復旧させる取り組みが始まっています。
仕組みとしては、地域内の家庭や企業に電気を供給する配電網を地域で独立させ、平時には地域電力事業者の主要送電系統網として接続しておき、災害時には主要送電系統網から切り離し、地域配電網を活用して地域内の再生可能エネルギー発電所や蓄電池から電力を供給するという構造です。
送電と配電の分離運用に関する検討状況
このような、地域を丸ごとバックアップするシステムの運用は、諸外国では既に実現されていますが、国内の現行制度では、送配電については一般送配電事業者(旧来の一般電気事業者)が一括して運用することになっています(発電と売電は自由化)。
そうした対策を含め、2020年6月、国会で「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(エネルギー供給強靱化法)」が可決・成立しました。その中には、「配電事業のライセンス化」が盛り込まれており、2022年4月に改正電気事業法として施行される予定です。これまで、発電所から地域への送電と、地域内の利用者に対する配電は、一括して一般送配電事業者が管理運営することで、電力を安定供給する冗長性強化に取り組んできました。しかし、近年の大規模災害による停電の長期化や、電気事業の自由化による再生可能エネルギー等発電の多様化により、広域での統一的な送配電が難しくなってきています。そこで、電力インフラの強靭化(電力レジリエンス)を向上させるためにも、地域内の利用者に電力を供給する配電網を新規事業者に譲渡/貸与して運用できるよう認可を与え、自然災害などで地域への送電が停止した際も、早期に復旧し給電を再開する仕組み(地域マイクログリッド)の整備が求められています。
配電事業が独立事業として制度化されれば、再生可能エネルギー発電の集積地であれば、地域マイクログリッドを活用することで、余剰電力を活用したさまざまな新ビジネスへと発展する可能性もあります。また、配電事業として新規参入する事業者が、官民連携によりガスや水道、ICTなどのインフラ事業を兼業することで、新たな地域イノベーションが生まれ、地域活性化が促進される可能性も大きいのではないかと考えられます。
地域レジリエンスを高めるマイクログリッド構築事例 ~北海道松前町~
北海道松前町は、北海道道南地方の渡島(おしま)半島南西部、函館市から車で約2時間の位置にあり、農漁業が主産業の地方都市です。北海道内唯一の城下町であり、全国屈指の桜の名所として有名な地でもありますが、人口減少が続いており、ピーク時の2万人から現在は6,600人余りとなっています。同地域は降雪も少なく北海道としては比較的温暖な気候に恵まれていますが、冬季には北西の強風が吹きつけることから、近年では風力発電の適地として注目されています。2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震に伴う発電所事故により、道内全域が停電するブラックアウトに見舞われ、この松前町でも、全面復旧までの約2日間、町内の日常生活や企業活動に大きな影響が出ました。これを受けて松前町は、2019年12月に、同地で風力発電所を運営する大手企業との間で、災害時における町内への電気供給の仕組みづくりや地域活性化に資する社会基盤整備への協力に関する協定を締結しました。風力発電事業者は、地域電力会社から示された技術要件を受けて、風力発電設備の出力変動緩和対策として大型蓄電池を発電所に併設していたことから、地域マイクログリッド運営の検討を進めていましたが、配電網を自前で構築するには、多額の投資が必要となります。そこで、地域電力会社との間で、地域配電の方法について協議を重ねた結果、災害時に地域電力会社の配電線を借りて送電する方法(託送供給)の可能性が見えてきました。現在、このプロジェクトは2020年に経済産業省の「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業費補助金」に採択され、自治体、発電事業者、地域電力事業者の3者による事業化に向けた設備・運用の設計が進められています。実現すれば、自治体全域をカバーする電力レジリエンス事例として多くの知見が得られると考えられ、関心が集まっています。
配電網を整備し地域マイクログリッドを運営するには、費用面や技術面のハードルは低くはないと思いますが、配電事業が制度化されれば、異業種からの新規参入による多様な地域サービス開発に発展する可能性が高く、地域振興施策として戦略的に取り組むべき事業として、これからの動向が注目されます。