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コラム No.53-63

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戦略的な地域活性化の取り組み(63)公民連携による国土強靭化の取り組み【25】新しいツーリズムのトレンドから見た地域観光産業振興

公開日:2023/07/31

国は「観光は成長戦略の柱、地域活性化の切り札」としており、特に地方において観光資源開発は地域経済を支える重要な取り組みのひとつです。一方で、ツーリストの指向は「モノ」から「コト」へ、単なる「物見遊山」から「自ら体験・体感」する傾向にあると言われています。

「知らない世界や非日常を見聞し体験したい」というニーズに応える

古来より人々は、いろいろな目的のために地域間を移動したり周遊したりしていたようですが、現在のツーリズム(旅行や観光)が一般的になったのは近代になってからだと言われています。国内においては、江戸時代まで関所が設けられ自由な地域間往来が禁止されていたものの、比較的に通行が許可されやすいお伊勢参り、善光寺参りなどの神社仏閣参りや温泉地での湯治を目的として、庶民も旅行を楽しんでいたようです。十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵をみると、当時の様子が窺えます。>
現代においてツーリズムは、人々にとって非日常を感じてリラックスした時間を過ごせる、関心の高いイベントですし、観光地にとっては、地域の魅力を発信し地域を活性化する、重要な産業です。このツーリズムが、「個」のニーズを重視した新しい様態、「ニューツーリズム」に変化してきていると言われています。
また、国土交通省観光庁が令和2年3月に公表した「訪日外国人旅行者の体験型観光コンテンツの購入促進に関するナレッジ集」によれば、訪日旅行で体験した(したかった)アクティビティ(体験ツアー)は、「ガイドツアー」についで、「日本の伝統文化体験」、「ナイトコンテンツ」、「日本の伝統文化鑑賞」、「リラクゼーション」、「お祭り」、「動物とのふれあい」、「施設見学」などが上位を占めており、地域の名所見学に加えて、地域の自然や伝統文化を体験したいという傾向が強まっているようです。このような時代の変化は、地方にとっては地域観光産業を再生し地域活性化を推進する好機でもあると言えるでしょう。

コロナ禍で再評価されるマイクロツーリズム

マイクロツーリズムとは、1時間から2時間圏内程度の比較的近隣へ、宿泊観光や日帰り観光を行うことを指します。私たちが、週末を利用して近場の温泉や行楽地に出かけて、余暇を過ごすような形態です。マイクロツーリズムは、小規模かつ短時間であるため、地域への経済的な効果が低いように感じますが、手軽であるがゆえにリピートあるいは実施頻度が多いことを考えれば、地域にとって一概に市場が小さいとは言えません。実際に、コロナ禍で地域間の移動が敬遠されていた期間には、GO TO トラベルやGO TO イートといった施策もあり、マイクロツーリズムへシフトしたことから、地域観光事業が回復した事例が報告されています。
アフターコロナにあって、国内外あるいは国内地域間の移動制限がなくなったとはいえ、感染症パンデミック再来の可能性が完全に払拭されない中、オーバーツーリズム(訪問客の過度な増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に悪影響を与えたり、地域の魅力を低下させるような状況)の問題も一部で指摘され、今後のマイクロツーリズムの動向が注目されるところです。また、マイクロツーリズムで提供される地域資源は、地域の自然や文化に根差したテーマ性が強いコンテンツが多く、インバウンド事業にとっても、有効な手法となる可能性を秘めていると思われます。

地域の多様な観光資源を再発見して情報発信

国内ツアーは回復基調にあり、インバウンド人口も増加しています。一方で、ツアー形態は以前の画一的な団体ツアーから、現在では個人や少人数でのSIT(Special Interest Tour:テーマ性が高い目的に絞った旅行)が増えているようです。彼らはSNSやブログ、知人等の口コミ、OTA(OnlineTravel Agent:オンライン旅行代理店)で観光・イベント情報や評価を収集し、オリジナルな旅行を楽しむ傾向にあると言われており、当然、ツーリストのニーズは多様化し細分化することになります。これに対応して、地域へのツアーを促すには、地域内にある多様な観光資源や体験イベントを紹介し続ける必要があります。例えば、東京観光財団の公式サイト「GO TOKYO」や、京都市観光協会の公式サイト「京都観光Navi」など、国内各自治体や観光事業者が、地域で体験できるイベント情報を発信し、ツーリストの多様なニーズに応えるべく、地域全体の観光力を向上する取り組みを強化しています。
コロナ禍を境に顕在化してきたツーリズムの変化を考えると、これからは特定の地域に着地・滞在して、そこを拠点として近隣の名所を観光・体感し(マイクロツーリズム)、あるいは地域内の体験イベントに参加し(ニューツーリズム)、地域の自然や文化に親しみ、深堀するようなツーリズムが、今後ひとつのジャンルとして定着する可能性があります。

地域には、名所旧跡に留まらず、自然や歴史、食文化、産業、公共施設、近年整備が進む「道の駅」など、観光資源が多数存在しており、ツーリストが参加できるお祭りやモノづくり体験などのイベントも少なくないと思います。これらの情報や魅力を発信することに加えて、国内外のツーリストの意見やニーズを積極的に取り込むような対話型・提案型のアプローチが、今後の地域観光振興による地域活性化には必要な取り組みかもしれません。

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