PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(34)脱炭素社会が地域を活性化する可能性
公開日:2021/02/26
2020年末からの悪天候の影響などで太陽光発電が低下した等で電力供給が減少し、またテレワークの増加や寒波などによる需要の急増で、国内電力が逼迫した時期がありました。産業活動を持続的に展開するための電力は、いわば「産業の血液」といったところで、今後の国内動向が懸念されています。
再生可能エネルギー発電の展開
世界的な気候変動による災害の多発を受けて、その原因のひとつといわれるCO2の排出を抑制する取り組みとして、化石燃料の利用を制限する動きがあります。国内においても、太陽光などを利用した再生可能エネルギー発電を推進するために、2009年11月から太陽光発電の余剰電力買取制度が開始されました。さらに2011年の東日本大震災による福島第2原発事故により、原子力発電所の多くが停止したため、それに代わる再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)発電への転換を急ぐ必要もあり、2012年7月には、買取制度を太陽光発電以外の再生可能エネルギーにも拡げ、余剰電力買取制から全量買取制に変更されました。この制度(固定価格買取制度:FIT制度)は、再生可能エネルギー発電所で発電された余剰電力を一定価格で一定期間(10年程度)買い取り、その費用を電力消費者(国民)が「再生可能エネルギー発電促進賦課金」として負担することで、再生可能エネルギー発電事業者の新規参入を促す制度です。全電力に対する再生可能エネルギー電力の割合目標は、当初、2030年までに22%~24%とされていましたが、この制度によって、2011年10.8%(経済産業省資料による)であった割合は、2020年1-6月期には23.1%(自然エネルギー財団資料による)となり、10年前倒しで目標を達成したことになります。
電力の地産地消で地域を活性化
国内では、近年まで電力の発電・供給は地域電力会社10社により独占的に行われていましたが、1995年の電気事業法改正により独立系発電事業者(IPP: Independent Power Producers)の電力卸売規制が緩和(発電の自由化)されたことに始まり、電力の自由化が進みました。その後、2016年4月以降は、電力小売への新規参入が解禁され、電力の発電・卸小売が全面的に自由化されました。現在では、新しく参入した小売事業者(新電力)は全国で約700社、販売電力量は全体の約2割を占める規模にまで拡大していると言われ、電力の地産地消による地域活性化の取り組みも進んでいます。
環境省の「地域新電力事例集Ver.1.0」によれば、例えば佐賀県唐津市では、自治体や地域金融機関、電力・ガス事業者などが出資し、2019年に地産地消のエネルギー循環の仕組み構築を目指して、(株)唐津パワーホールディングスが設立されました。当該地域では、エネルギーコストのうち179憶円が域外に流出していたことから、地域資源を活用した再生可能エネルギー等の電力を公共施設や民間企業、一般家庭に供給し、エネルギー地域循環型共生圏を形成することで、地域経済活性化に繋げようとしています。
このように、地域新電力事業を官民協同で設立し、電力の地産地消を推進することで地域活性化を目指す事例が、全国に広がっています。
脱炭素社会に向けての戦略的取り組み
2020年10月の首相所信表明で、「2050年までに(森林などによる吸収量を差し引いて)CO2排出を実質ゼロにする」ことが打ち出されました。これを受けて、多くの自治体が「2050年ゼロカーボンシティ」を表明しています。さらに、経済産業省と環境省は、企業や家庭にCO2排出量に応じて費用の負担を求める「カーボンプライシング(CP)」導入の検討を始めました。先進諸外国では既に導入されていますが、仮にこの制度が国内で導入されると、企業や地域(住民)は、自社・地域の一定枠以上のCO2排出量に応じて課税されるため、企業等はCO2排出量を抑制する様々な対策をとる必要があります。例えば、化石燃料使用の抑制、CO2を排出しない車両への転換、CO2を排出しない発電方法による電力の使用、枠を超えて削減できない排出量をCO2排出量取引で買い取ってもらうなどの対応策が考えられます。
このような動きを捉えて、地域金融機関を中心にESG地域金融に注目が集まっています。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のことで、ESG金融とは、企業分析・評価を行ううえで長期的な視点を重視し、ESG情報を考慮した投融資行動をとることを金融機関に求める取り組みのことです。つまり、地域企業への投資基準として、今後の成長分野であるESG/SDGsを重視した経営であるかどうかを見極めるということです。脱炭素社会の実現は温暖化対策として必要なことですが、企業や地域社会、特にCO2排出量が比較的大きい大都市圏にとっては、大きな社会変動要素となるはずです。
太陽光、風力、地熱、バイオマス等を利用した再生可能エネルギー発電には、比較的広い土地が必要となり、また人口密集地においては騒音や光害、景観上の規制等があるため、多くの発電所が地方都市に設置されているのが現状です。現在では、固定価格買取制度(FIT制度)によって優遇策がとられていますが、消費者の「再生可能エネルギー発電促進賦課金」負担も増大していることを勘案すると、今後は地域電力に限定した地産地消型発電所と、広域に電力を供給する大規模発電所に分化することが考えられます。一方、脱炭素社会に向けたESG金融の拡大、炭素税の制度化は、国内外企業等が地域の自然環境に配慮した取り組みに注目する好機となると考えられます。このことから、脱炭素社会は、都市と地方の相互補完ビジネスの契機となることが予測され、地域活性化を牽引する大きな可能性を秘めています。