戦略的な地域活性化の取り組み(54)公民連携による国土強靭化の取り組み【16】脱炭素社会の実現に向けたエネルギー開発が地域活性化を生む
公開日:2022/10/31
長引く新型コロナウイルス感染症の影響や近年の国際紛争、それに伴うエネルギー資源価格の高騰、円安問題など、さまざまな国内外の課題が積み上がる中で、エネルギーの地域循環型社会形成に向けた取り組みは着々と進んでいます。
再生可能エネルギーによる地域振興
太陽光発電や風力発電は、再生可能エネルギーとして普及が拡大していますが、なかでも洋上における風力発電が注目を集めています。洋上風力発電は、陸上と比べて風況が良く、周辺地の制約がなく、大型風車の導入が比較的容易であり、景観や騒音への影響が小さいという利点があり、海洋に囲まれ海岸線が長いという日本の地勢を活かした大規模発電所の建設計画が進行しています。国は、2018(平成30)年に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」を制定し、地域との調整を図りながら、現在、秋田県日本海沿岸や千葉県銚子沖などでの事業化を推進しています。
また、太陽光発電については、大規模化するための土地の確保が難しいという課題がありますが、発電ユニットがコンパクトなため、事業所や工場、住宅などへの設置が増えており、電力の地産地消化が進んでいます。地方自治体においても、例えば東京都は、2030年までに温室効果ガス排出量の50%削減に取り組む「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」を2022年9月に発表し、2025年を目途に、年間都内供給延床面積が合計2万m2以上のハウスメーカーなどの事業者を対象に、延床面積2000m2未満の中小規模新築建物への太陽光発電など再エネ設備の義務付け・誘導を行うとしています。同様の条例は神奈川県川崎市なども検討しており、今後、全国の自治体に広がりそうです。
このように、再生可能エネルギー普及への取り組みは、民間主導から地域公民連携事業へと拡大しており、地域への経済波及効果も大きいことから、今後も地域振興策の潮流となりそうです。
バイオマス活用による地域資源循環の取り組み
バイオマスとは、化石燃料(石油や石炭など)を除いた動植物由来のエネルギー資源のことで、間伐材や建築廃材のような木質バイオマスと、生ごみや食品加工残渣、家畜の糞尿、汚水・汚泥などの廃棄物系バイオマスに、大きく分類されます。バイオマスは、その生成段階で空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収しており、燃焼させることによりCO2が発生するとしても、大気中のCO2としては相殺されることから、カーボンニュートラルとして再生可能なエネルギー資源とされています。これまでも地域において、バイオマスを燃焼させることで発電するとともに、熱源を利用して給湯するなど、地域における地産地消、地域循環型社会を実現する取り組みが各所で行われてきました。その中で、近年注目されているのが、バイオマスを嫌気性微生物で発酵させて生成するバイオガスの活用です。バイオガスは、天然ガスの主成分でもあるメタンガス60%と二酸化炭素40%から構成され、バイオマス燃料として多用途利用が可能です。
畜産が盛んな北海道十勝の鹿追町では、大量に出る家畜の糞尿や生ごみを原料とした国内最大規模のバイオガスプラント2基を運用し、バイオガス燃焼による発電、燃焼によって得られる熱を利用した冬期作物栽培試験やチョウザメの養殖、バイオガスから生成圧縮したメタンガスの温室ハウス、バイオマス自動車、一般ガス器具への供給、メタン発酵後の残滓を活用した有機肥料の製造・供給など、エネルギー資源の地域循環による地域活性化を押し進めています。
メタネーションによるカーボンニュートラル
経産省資源エネルギー庁の資料によれば、日本における消費エネルギーの約6割は、工場など「産業部門」における蒸気加熱、家庭や業務など「民生部門」における給湯や暖房といった「熱需要」が占めており、この熱需要を脱炭素化することが重要な課題となっています。天然ガス(LNG)は、石油や石炭に比べてCO2の排出量が少ないため、発電や熱源の原料として環境性の高いエネルギーであるとされていますが、さらに、排出されるCO2を活用、リサイクルすることでカーボンニュートラルを実現する「メタネーション」が脚光を集めています。「メタネーション」とは、CO2と水素(H2)から天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成することを言います。国は、この「メタネーション」を使って、工場や事業所、焼却場から回収されるCO2と、再エネ由来の電力で水を電気分解してつくる「グリーン水素(H2)」を使って「合成メタン(CH4 )」」を製造し、都市ガス等として供給する構想を進めており、2021(令和3)年に国が公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によれば、2050年までに都市ガスの90%を「合成メタン」に置き換えるとしています。そのため、「メタネーション推進官民協議会」を設置し、エネルギー資源の国内リサイクルとカーボンニュートラルの実現に向けた官民連携した協議や研究開発、実証実験が進められています。
「メタネーション」は、特に都市部において、エネルギー地域循環モデルとしても期待されています。例えば神奈川県小田原市では、環境省の委託事業として、小田原市清掃工場から排出される二酸化炭素を分離・回収しメタンを生成するまでのフローを商用化規模で実証実験しており、新たな地域振興施策として事業を推進しています。
カーボンニュートラルへの挑戦は、産業構造や経済社会の変革をもたらす一大イベントではないでしょうか。地域資源や地域産業の特徴に合わせた脱炭素化への取り組みが、新たな地域産業の創造、住民のライフスタイルの転換につながり、持続可能な地域循環共生圏を形成することで、地域に活性化をもたらすことを期待したいと思います。