戦略的な地域活性化の取り組み(58)公民連携による国土強靭化の取り組み【20】少子化対策への挑戦による地域活性化
公開日:2023/02/28
2022年12月の厚生労働省人口動態統計速報(令和4年10月分)から推計すると、我が国の2022年出生数が、2017年に国立社会保障・人口問題研究所が公表した推計値(中位)より、8年あまり早く80万人を割り込む見通しとなりました。コロナ禍の影響があるとはいえ、出生数は減少の一途をたどっており、国家の基盤をなす人口の減少加速が懸念されることから、国も抜本的な(異次元の)少子化対策に乗り出すことを表明しています。
少子化問題への対応状況
日本の出生数は、ベビーブームの1949年に270万人、1973年に210万人を記録しましたが、2016年からは100万人を割り込み、減少が加速しています。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に平均何人の子を産むかを表した指標)は、1949年の4.32を最高に2021年には1.30まで低下しており、出生数が復調する兆しは見られず少子化が進んでいます。多くの先進国で少子化が起こる原因としては、結婚は必須ではなく人生選択の一つとするライフスタイルの変化、結婚や出産、子育てに要する経済的負担、女性の社会進出による「晩婚化」「未婚化」、仕事と子育てを両立する環境の未整備など複合的な要因が考えられ、特効薬的な対策が難しいことが指摘されています。
政府としても、2020年に新たな「少子化社会対策大綱」を閣議決定し、2023年6月に「こども家庭庁」を発足させ、ライフステージに応じた総合的な少子化対策を進めるとしています。具体策として、新居の購入費や家賃、引越し費用などに使える補助金を支給する「結婚支援」の強化、不妊治療に対する保険適用や出産育児一時金の増額など「妊娠・出産支援」の強化、幼稚園・保育所・認定こども園等の利用料無償化や待機児童問題の解決など「子育て支援」の強化、育児・介護休業法改正による男女協働による「仕事と子育て環境の整備」など、既に方向性が示されています。また、合計特殊出生率が最も低い東京都(2021年:1.08)(2022年12月6日 福祉保健局発表資料)も大胆な少子化対策を検討しており、人口減少への対応が本格化しています。
一方で、少子化対策は多方面に渡り、効果が出るまでに10年スパンの時間を要するため、長期的に安定した財源の確保など、直下での課題が多いのも実状です。
少子化対策で生き残りを図る地方の先行事例
国の財政面による少子化対策がクローズアップされていますが、住民に対して具体的な支援を行うのは各自治体です。そこで、これまでに少子化対策で成果を上げている事例を見てみます。
岡山県勝田郡奈義町は、鳥取県との県境に位置する人口約5500人、面積79km2あまりの小さな山村で、2002年に近隣市町村との合併が検討されたものの住民は独自自治を選択、生き残りをかけた挑戦が始まりました。2012年からは「子育てするなら奈義町で」を掲げて「奈義町子育て応援宣言」を行い、出産祝い金の支給や不妊治療費助成、多子世代への保育料軽減、預かり保育の支援、子育て支援施設の整備、高校生までの就学支援や医療費助成など、妊娠出産期から乳幼児期、就学期まで、特に多子家族に対する手厚く切れ目のない独自の出産・育児・子育て支援を行っています。また、若者向け住宅を確保し、新婚家庭の町外流出に歯止めをかける施策なども実施することで、2019年には2.95という高い合計特殊出生率を達成し、国に先んじた少子化対策として注目を集めています。
その他にも兵庫県明石市や長野県下伊那郡下條村など、思い切った独自の少子化対策により周辺地域からの移住を誘導し、人口の維持・増加に効果を上げている自治体があり、子育て世代の少子化対応支援に対する関心の高さが窺えます。
都市部における少子化対策の効果
科学技術の振興と東京一極集中の緩和を目的に、約40年前に整備された筑波学園都市(茨城県つくば市)と東京都心とを結ぶ新線として、2005年に開通した首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)沿線では、公民による地域開発が活発に行われています。
その中でも千葉県流山市は、「母になるなら、流山市」をキャッチフレーズに、子育て中の共働き世代に的を絞って、市内の保育園を10年あまりで17園から100園に増設するなど、子育て環境の整備に積極的に取り組んでいます。また、都心や筑波学園都市に通勤する子育て家族が多いことから、駅から市内の保育園に子どもを送迎する「駅前送迎保育ステーション」を設置するなどユニークなサービスを展開した結果、30歳代~40歳代を中心に、ここ10年で人口は4万人増の約21万人となり、さらに増加傾向が続いています。流山市は、もともと緑地が多い地域でありなが30分程度で都心にアクセスできる立地です。同市の試みは一昔前の都心郊外住宅地とは一線を画す施策で、地域の若返りと活性化を実現している好事例であると思います。
少子化対策は確かに難題ですが、コロナ禍後の新しいライフスタイルが若い世代に浸透しつつある今、少子化問題に真正面から取り組むことで、持続可能な地域開発が実現する可能性を秘めており、今後の地域動向が注目されます。また視点を変えると、流山市事例の源流は、40年前の筑波学園都市開発にあったとも考えられ、先に政府が提唱した「デジタル田園都市国家構想」のモデルケースとして、公民連携による地域基盤整備のあり方を示唆しているようにも思えます。
海外の成功事例とされるフランスや北欧では、究極の少子化対策は、例外なき男女協働にあるとの指摘もあります。子育て世代への経済的な支援は急務ではありますが、国民全体の意識を変えるには、政界・実業界・市民間における活発な議論と相互理解、コンセンサスづくりが、最も重要なのかもしれません。