カール・ハンセン&サン
時を超える椅子

世界で最も有名な椅子といえば、真っ先に名が挙がるのが、
CH24―通称「Yチェア」かも知れません。
1950年以来その椅子を作り続けているデンマークの家具メーカー カール・ハンセン＆サンに、
椅子に秘められた魅力と、同社のモノづくりの哲学についてお聞きしました。

世界中で選ばれ続ける巨匠の遺(のこ)した一品

Yチェアは1949年、巨匠ハンスJ.ウェグナーによってデザインされました。20世紀を代表する家具デザイナーであり、北欧デザイン界に大きな足跡を残した人物。腕の良い家具職人でもあったウェグナーは生涯で数多くの家具をデザインしましたが、そのうちの半分以上が椅子だったそうです。

今でこそクラシックと呼びたくなるCH24のデザインですが、発表当時はかなり斬新で、世の人々をとても驚かせたのだとか。中国の明代の椅子をモチーフに、ウェグナーはモダンで洗練されたデザインを描き、量産化・コストダウンするための工夫を随所に盛り込みました。その胸には、質の高い量産家具を一般の人に届けたいという思いがあったからです。

誕生以来70余年にわたって、世界中のカフェやレストラン、ホテルや公共施設などで広く使われてきたCH24。本国デンマークはもちろん日本での人気も根強く、住宅展示場やインテリア雑誌などで何度も目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

デザインの美しさや座り心地の良さ、耐久性の高さに加え、手の届きやすい価格であることも支持される理由の一つです。北欧風のインテリアだけでなく、和風やモダンテイストのインテリアなど、さまざまな空間にしっくりとなじみます。オークやビーチなどの天然木の素材感や、温もりの伝わる仕上げが人気ですが、さまざまなカラーもラインナップに加わり、自分のスタイルに合わせられることから、年代を問わず多くの人に選ばれ続けています。

CH 24の魅力とデンマーク家具デザインの継承

「考え抜かれた構造は、それ自体が装飾となりうる」―CH24に腰を下ろすと、ハンスJ.ウェグナーが語った言葉の意味がよく分かります。ペーパーコードを編んでつくる座面は、固すぎず柔らかすぎない絶妙の座り心地。ペーパーコードとは紙に樹脂を含ませて撚った紐のことで、革などにも劣らない耐久性がありながらコストを抑えられるという利点のある素材です。一脚に使う長さは、およそ120メートル。熟練の職人が一脚一脚手作業で張り上げるため、使ううちにより人の体になじんで、しなやかさとフィット感を味わえるようになります。傷みがひどくなった場合は座面のみを張り替えて、リフレッシュすることもできます。

重要なのがY字型の背板の部分。3層の積層板でできたこの部材が、笠木（かさぎ）と土台をしっかりとつないで荷重を支えます。Yチェアやよさこつかさぎ04ウィッシュボーンチェアという別名がついたのは、言うまでもなくこの特徴的な部材の形から。ちなみに、ウィッシュボーンとは鳥の叉骨（さこつ）のことで、西洋では幸せを象徴するモチーフです。

金具を一切使わずに組み立てるため、仕上がりの美しさや手触りの良さも、この椅子の特長の一つになっています。360度、どの角度から見ても美しいと称賛する言葉もよく聞かれます。アームと背もたれを兼ねる笠木は、継ぎ目のない一本の部材でできており、こちらも職人が一本ずつ手作業で、スチームを使って丁寧に曲木加工を施しています。

ウェグナーはCH24以外にも、CH23やCH25、CH07など数多くの名品を残しました。その多くがカール・ハンセン＆サン社で製品化され、現在も引き続き世に送り出されています。また、ウェグナー亡き後、同社は若手の優れたデザイナーとのコラボレーションに精力的に取り組み、世界に冠たるデンマークの家具デザインをけん引しています。

CH24、CH23（手前中央）など、ウェグナーの椅子が心地よい空間をつくるフラッグシップ・ストア大阪の店内

終わりなきクラフトマンシップと未来への取り組み

CH24という歴史に残る一脚のほか、数々の名品を製造し続けているカール・ハンセン＆サン社についてもご紹介しましょう。同社は1908年にカール・ハンセンが創業してから、3世代にわたって家族経営を守り続け、現在はクヌッド・エリック・ハンセンがCEOを務めています。妥協のないクラフトマンシップへのこだわりと工業化への取り組み、そして新時代にフィットするデザインの追求が、同社の長い歴史を支えてきました。2023年4月にはデンマーク王室御用達の称号を授与され、名実ともにデンマークを代表する企業の一つとなりました。

家具職人としてのクラフトマンシップの継承は、同社が運営する「THE LAB（ザ・ラボ）」というワークショップが担います。アプレンティス（見習工）たちは指導者の下、より深く技術を習得するためのワークショップで学び、伝統的な接合技術や修復方法、カスタムデザインなど、家具づくりに関わる全てのことを身につけます。「自分たちの手で家具職人を育てることで、デンマークの誇るデザインとクラフトマンシップの遺産を守り、継承していくことができる」とクヌッド・エリック・ハンセンは語っています。

現CEO クヌッド・エリック・ハンセン

また、創業以来、環境負荷削減に積極的に取り組んでいることも同社の特長の一つです。製造工程で出る大きめの端材はカッティングボードなどの小物に生まれ変わり、細かい木片やおがくずは地域の暖房設備の燃料になります。こうして貴重な天然資源である木を大切に扱い、最後の一片まで無駄なく活用しています。また、美しい家具のみを生み出し、社内で修理や張り替えを請け負うことも、サステナビリティにつながっていると言えるでしょう。

一脚に一時間以上かけ、丁寧にペーパーコードを張っていく熟練の職人の手

CH24専用に設計されたコンプレッサーを用いて加工されます

背板と笠木の部分を椅子のフレームにはめ込む様子

サステナビリティに配慮した素材で作られるペーパーコード

長く愛着をもって使える一脚に出合いたいなら、CH24の魅力に触れてみませんか。時を超えて輝き続ける名品のストーリーが、あなたの心にきっと響くことでしょう。